かなしみは人の霊魂が神をもとめる声
1995年から節子と付き合い始めた今年にかけては、
色んな概念や技術が提唱されている。
貨幣の代わりとなり、
ネットワーク上でのやりとりを記録する形での新しいお金や、
身につけるコンピュータ、
周囲の空間を別の現実と置き換える娯楽、
それらを実用的レベルのハードウェアにするためのシリコンシナプスによる生物のエミュレーション。
その他、
21世紀に実用化されるだろう「仕事」の多くは、
この時期に概念として完成している。
それらの根拠となる複雑系的な考え方は、
世界企業の監査や戦略構築に使われているけれども、
それをもっと進めて、
電子的に人と人、
人と物をつなぎ合わせて、
地球規模の演算装置を作り出そうというのが、
BGさんの提案で、
それの最終進化形が僕の代理人だうだ。
当初は、
インターネットにしても機械を経由して接続されるが、
いずれ、
空間に存在する静電気を媒介して、
細胞レベルでのデータの送受信と保存が可能にする。
そうした時、
脳の処理能力と同じ程度で世界は考えることが可能なるわけだが、
そこまでのシステムの進化にかかる時間が100年というわけだ。
ソフトウェア的には、
あらゆる場所に隠れた形式、
要するにノイズとして潜伏し、
それらは必要に応じて複製されたり結合、分離を繰り返す。
まあ、
電子的なウィルスだと思えばいい。
世界がネットワーク化されていけばいくほど、
代理人ソフトも完成していく。
僕たちはこれを「ヘブン」と呼んでいる。
ヘブンが世界を覆った時には次のようになる。
ヘブンは人間が使っていない脳領域を借用する。
世界中の動植物や無機物は天然の記憶装置になる。
人間や動植物はヘブンによって利用されていることを自覚することはない。
まぁ、
もしかしたら処理過程で生まれるノイズによって、
夢をみるような状況には陥るかもしれないが。
そこまでいった時、
僕の存在を擬似的に再現して、
やっと、
僕の夢の正体に迫れるかもしれない、
というのがBGさんの欲求なのだろう。
計算では至れない「場所」があるとすれば、
それを数式で表現したいと思うのは、
賢い人の当然の欲求だろうから。
欲求、というよりも、
かなしみ、と言った方が適切かもしれない。
自分は未来を想像するだけで、
みれない、
という悲しみを、
僕はBGさんから感じた。
その悲しみが、
こんな計画を生み出したんだ。




