第8話 アイテムボックス
俺の記憶が間違っていなければ、たしか次はアイテムボックスの設定だったはずだ。
「今選んだclassがあなたのclassとなります。基本的にclassを変更する時は該当のギルド施設にて金銭を払うか、特定のアイテムの使用が必要となりますのでお気をつけください。続いてアイテムボックスの設定に移らせていただきます。アイテムボックスとは各種アイテムを収納する空間です。あなたが普段使っているバックやリュック、ポーチなどお好きな媒体を指定してください。指定したものがあなたのアイテムボックスとなります」
光と陽菜は先にclassを決めていたので既にアイテムボックスの説明を聞き終えたようだ。この設定を適当にやってしまうとかなりキツいものがあるからなぁ……ちゃんと説明しておかないと。
光がまだ天井に刺さったままだったので、光の両手を掴んで引っこ抜いた。
「うぐぅ」
生きていたようだ。
「光、陽菜、アイテムボックスの説明は理解出来た?」
「……なんとなく分かったよ」
「大体は……」
二人とも怪しげだなぁ……。
念のために注意点を上げておく。
「アイテムボックスに設定する荷物入れはよく考えて選ぶんだぞ。普段から持ち歩くものだからあまり大きなリュックや小さなバックはオススメしない。アイテムボックスの容量は選んだ媒体の容量で決まるけど戦闘中の邪魔にならない大きさで、ある程度収納性が高い物がいい。一番オススメなのはウェストポーチだな。あれは携帯性を維持しつつある程度の容量がある」
「あぁーそっかぁー、バックとかだと手が塞がっちゃうもんねー。分かった、普段使ってるウェストポーチ持ってくる!」
「なるほど……では私もウェストポーチ持ってきますね」
二人は自分の部屋がある二階へと駆けていった。
光は天井に刺さっていたというのに元気だった。
俺は天井に開けられた光ヘッドサイズの穴を見上げると溜息をついた。この穴は誰が直すのだろうか……。残っている父さんと母さんに視線を向けるとさっと目を逸らされた。さすが普段から壊す側の人は状況判断が早い。今は時間がないから仕方ないとして……あとで穴を開けた本人に直させることにした。
光と陽菜に説明している間に父さんと母さんも簡易チュートリアルの説明を終えたようだった。
「父さんと母さんはアイテムボックスの設定理解出来た?」
「あぁ大丈夫だ、光と陽菜への説明も聞こえていたしな」
「えぇ、パパとママは普段持ち歩いているウェストポーチで大丈夫そうね。部屋から持ってくるわ」
「そうか、それなら大丈夫そうだね」
父さんと母さんも自分の部屋へ向かって歩いていった。
両親が旅をしている時の基本装備はウェストポーチだ。やはりかなりの距離を移動するため携帯性と容量を重視した形になったのだろう。帰ってくるときはよくリュックを背負っているが大体それは現地調達しているようである。現地に着いてから大荷物が必要なら工面したり帰りにお土産やらを持ち帰るために準備しているようだった。
さて、俺はどうするかな…無理だと思うけど出来ればルミルの庭で使っていたアイテムボックスがいいんだけど、当然手元にはない。仕方ないので俺も自分のウェストポーチを持ってくるとしよう。
自室へ向かおうとして階段に足をさしかけるとちょうど上から光が降りてくるところだった。光の手には二つのウェストポーチが握られていた。片方はピンク色の可愛らしいウェストポーチ、もう片方は黒色のマイウェストポーチだ。
「お兄ちゃんのウェストポーチも持ってきたよー。これで合ってた?」
「あぁ合ってるよ。光持ってきてくれてありがとな」
「う、うん、えへへ」
光はお礼を言われて嬉しかった様子で二つのウェストポーチを抱き締めてもじもじしていた。
階段下にいる俺からは、光のくまさんがプリントされた下着が見える……。高低差を利用した優位な位置からのくまさんによる視覚テロ! その強大な存在は他の生物の存在を許さず、ただ一頭にて下着の中央に座しておられた。その風格は未だ野生を宿しており、その周囲にいる者たちに原初の本能を思い出させ、警戒の念を抱かせるだろう。それは……そう一言で表すなら突如民衆の前に姿を現した自然の怒りであり、森と山の番人……リアルくまさんパンツin光であった……。
「……お姉様早く降りてください、私が降りられません」
光に追いついてきた陽菜が階段から降りられず後ろから光を押している。
「あ、ごめん。すぐ降りる」
光が慌てて階段から降りてくるとリアルくまさんから放たれていた威圧感が消える。くまさんは山にお帰りになられたようだ。先程の張り詰めていた緊張感が嘘のようであった。
「はい、お兄ちゃん」
光からマイウェストポーチを受け取る。
「あいよ」
ウェストポーチを渡した光は居間へと歩いていった。
うーむ……高校生であの下着はどうなのだろうか。最近の下着事情は分からない。昔の下着事情も分からないけど。
「お兄様一緒に行きましょう」
すぐ隣まで近づいてきた陽菜が手を伸ばす。どうやら陽菜は俺と手を繋ぎたいようだった。まだ中学生の陽菜は二人っきりになるとよく甘えてくる。お姉ちゃんの光が近くにいるときは大人ぶって凛としているがいなくなると気を張る必要が無くなるのか、年相応? の態度になるみたいだった。
俺は手を繋ぐ前に陽菜の頭を優しく撫でる。柔らかな髪を堪能してから手を繋いだ。
「あぁ、行こう」
隣ではなくやや後ろから手を引かれついてくる陽菜の顔は照れて赤くなっていたがとても幸せそうだった。