表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/59

第55話 ボーとの決闘

活動報告の方にも書きましたが、この作品の更新を凍結します。

理由は活動報告を参照してください。

大した理由ではないですが、また次作があればよろしくお願いします!

 広場の一角に円形状の境界線が引かれていた。

 ただしそれは学校のグラウンドなどで使われているラインカーで引かれたものとは違い実体がない。決闘を行う際に使われる魔道具、決闘審判(デュエルジャッジ)によって作られた魔力の線だ。

 その周囲には審判員だと思われる数人の人員が配されていて、数メートルの距離を開けて観客が取り囲んでいる。相撲に於ける土俵、レスリングやボクシングに於けるリングを思わせる。

 観客達は先程まで料理を楽しんでいたルミルの庭の人々だ。その中には信吾や光、陽菜も混ざっている。フィオは仲良くなった光達の隣に並んでいる。

 見ている者全ての心に興奮の色が見え隠れし、静かに高まっていくのが見て取れる芽生える。

 半径五十メートルの円、中心から二十五メートルの地点に二人の男が相対していた。


 「時間通りのようだね。てっきり剣士か何かだと思っていたけど、魔法も得意なのかな?」


 ボーは初めて信司と出会った時からあの刀が得物なのだろうと思っていた。しかしてそれは決闘場に現れた信司を見て予想は間違っていなかったと知る。

 だが、その格好は剣士とは思えないもので、魔法を扱う者、所謂魔法使いが好んで身に付けるローブを纏った姿であった。


 「さて、どうだろうな。始めてみればすぐに分かるとは思うが」


 信司のどちらとも取れる言動にボーは警戒を強める。

 驕って情報を漏らすこともなく、落ち着いた様子で佇んでいる。会話から情報は得られないと判断したボーは気持ちを切り替える。

 会話が駄目なら外見からタイプを予測する。ボーは信司の見た目からかなり魔法に傾倒した魔法剣士だと想定して作戦を考えるのだった。



 信司もまたボーと同じように相手を分析していた。

 金属ではなく皮製の鎧を纏っていることから軽量系の前衛、盾を持たず長剣のみを携帯していることから剣士系のクラスが濃厚だ。

 長剣からは魔力が感じ取れ、魔法の品であることを窺わせる。

 ボーの体格は信司よりも大柄で肉体は引き締まっており、威圧感を感じさせるほどに逞しい。

 相手はBランク冒険者、油断していればあっと言う間に敗北することになるだろう。

 信司はゲームでの平均的なBランク冒険者の動きを思い起こし戦いに備えた。


 「……確かにその通りだね。どんな相手であろうと僕が勝つ。天使達も見ているんだ。彼女達のためにも僕が勝利を手にするんだ」


 ボーの声が聞こえたのか、円の外にいる光達は一様に嫌そうな顔を浮かべる。


 「どう見ても嫌がってるんだが……まぁいいか。とにかく始めよう」


 ロリコンは準備万端のようなので信司はミレーヌに向かって軽く頷いた。

 合図を受けたミレーヌは決闘の立会人として厳かに口を開いた。


 「決闘場に渡里信司、ボー・ナグアスの両名を確認しました」


 凛としたミレーヌの声が響き、周囲の人々は自然と口を閉ざす。


 「決闘形式はスタンダード、決闘報酬は勝者に叡智の霧森(ウィズダム)攻略パーティーメンバーの決定権。立会人は私、ミレーヌ・アリアルスが勤めさせていただきます」


 決闘形式スタンダードとは、決闘者のHPを十倍にした値を一時的に付与し、その内の九割を先に削った方が勝者となるルールである。

 付与されたHPの状態は決闘者の胸元を見れば分かる。胸元にはHP残量を示す光球が浮かんでおり、減少するごとに青、黄、赤と変化し、一割を切ると灰色に変わる。

 強力な攻撃を受け、付与されたHP以上のダメージになれば、光球は消失し元のHPが削れるためそのまま殴り合うよりも安全とはいえ油断は出来ない。


 「内容に異議がなければ沈黙を以て応えとします」


 信司とボーは無言のまま見つめ合う。ほんの数秒、周囲の物音も途絶え、広場は沈黙に包まれる。


 「両者の同意を確認しました。この決闘、ミレーヌ・アリアルスの名に於いて承認します。……決闘審判(デュエルジャッジ)スタンバイ」


 立会人として審判同様に円の外側にいるミレーヌがそう口にすると隣に立て掛けてある板状の魔道具決闘審判(デュエルジャッジ)が薄く光を帯びる。

 それに呼応するように魔力で構成された境界線が輝き、瞬時にドーム状の膜を形成。半透明の膜は展開を終えるとすぅーっと空気に溶け込むように色を無くす。それは内と外を区切る円球状の結界だ。

 結界の展開と同時に信司とボーの胸元に青色の光が灯る。


 決闘の準備は整った。


 動きのない信司とは逆に、ボーは鞘から長剣を引き抜き悠然と構える。

 黒い輝きを秘めるロングソード、使い慣れた手つきに熟練の重みを感じさせる。


 『ふむ、なかなかの業物……じゃがワシと切り結ぶには全く以て格が足りんのぅ。一太刀で斬り飛ばしてしまいそうじゃ』


 予測はしていたが相手の得物を見た月影の一言に信司は大きく息を吐く。


 『仕方ないな、急所を狙わないように立ち回るしかないか』


 HPが増えているとはいえ死の危険がないわけじゃない。そう思わせるくらいに月影の強さは突出している。

 信司の瞳が悩ましげに揺れた。

 決闘の準備が整ったことを確認したミレーヌはどこからともなく一枚の銀貨を取り出した。それを目にした観客は何に使われるのかを悟り緊張感を高める。


 「天使達よ! 僕に加護を与えたまえ……!」


 静まる決闘場にボーの祈りが響き渡る。

 嫌がっている光達からどうやって心を得ようと言うのか。

 ボーが口を開く度に光達の好感度が下がっていく。既にマイナスに振り切っていることは言うまでもない。反対に一人燃え上がるボーは自ら薪を焼べ炎上していく。


 「両者、己に恥じない闘いを」


 ミレーヌの手から銀貨が跳ね上げられる。宙を舞う銀貨に観衆の視線が集まった。

 何の変哲もない一枚の硬貨。

 それは決闘の開始を告げるゴングだ。

 夕日を浴びた銀貨は周囲に閃きを返しながら上昇していき、やがて減速の末にベクトルを反転させ地面に向かって加速していく。

 思いの外済んだ音色がミレーヌの足元から響いた。


 瞬間、信司の目の前にはボーがいた。


 「っ!?」


 袈裟斬りに振られたロングソード。即座に回避に移り紙一重で避ける。否、避けきれずにルーンローブの裾が僅かに切り裂かれる。

 くっ、思っていたよりも速い……! これはBランクの速さじゃ──。

 思考する暇もなくロングソードが迫り来る。


 「はあっ!」


 気合の籠もった斬撃を避けて、避けて、避け続ける。反撃に移る余裕もない。避ける度に完全には避けきれず新品のルーンローブが切り刻まれていく。

 あまりにも一方的な展開。

 だというのに回避するだけで精一杯な信司の姿を見て、ボーは不満を顕わにする。


 「その程度じゃ天使達を守ることは出来ないよ! さあっ、僕に君の本気を見せてくれ! 僕がいなくても彼女達を守れると証明してくれ!」


 その一言を皮切りにボーのギアが一つ上がる。攻勢がより苛烈に変化する。

 まるで重さを感じさせない動きでロングソードが振るわれる。

 ボーと比べると力も速さも全てが劣っている信司は持ち前のセンスとゲームで培った経験を生かしてギリギリのところで回避を続ける。


 「逃げているだけでは勝ち目はないよ」


 未だに互いに直撃はない。だが、言うまでもなく状況は信司が劣勢。

 ボーの表情にはまだ余裕があり信司にはない。ステータスの差が如実に表れていた。


 「くっ」


 ルーンローブが大きく切り裂かれ決闘場の空に舞う。

 激しいボーの連撃に観客達は沸き、防戦一方の信司を見てすぐに決着はつくだろうと予感した。

 だが、惰性の果ての決着をボーは望んでいない。


 「即動(ムーヴ)


 状況が動く。


 信司がロングソードをかわした瞬間、ボーが捉えきれない速度で身を動かした。

 剣の間合いから更に二歩踏み込み、ロングソードから放した片手を突き出す。

 信司がボーの動きを察知したときには既にボーの拳打が信司の腹部を捉えていた。


 「闇の衝撃(ダークインパクト)


 信司が声を漏らすよりも早くボーの魔法が炸裂した。

 伸ばされた掌の先から勢いよく闇が噴出する。

 爆発にも似た強烈な衝撃が信司を襲った。

 信司は車に跳ねられたかのように吹き飛ばされる。


 「がぁっ!?」


 地面を転がり見えない壁にぶつかる。決闘場を覆っている結界だ。

 決闘場の端まで吹き飛ばされた信司。身に付けているルーンローブは穴だらけの土塗れ、正面に至っては闇の衝撃(ダークインパクト)の直撃で風穴が開いている。


 「お兄ちゃん!」


 「そんな……」


 午前の稽古では妹達と比べて圧倒的だった信司。今の光と陽菜にとってはどう手を伸ばしても届かない存在。そんな誰よりも頼りになる信司が目を背けたくなる程に痛めつけられ無惨に転がされている。

 二人は泣きそうな顔をしてボロボロになっている信司を凝視している他なかった。

 今の一撃で信司の胸元の光は赤に染まっている。

 決着がつかない限り結界は解けない。今すぐ駆け寄りたいのに駆け寄れない。

 今にも不安が涙へと変わりそうな二人に対して、同じように決闘を眺めていたフィオが落ち着いた様子で口を開いた。


 「大丈夫なのです。信司様は負けないのです」


 フィオの瞳に不安の色はない。

 信司のことなら分かっているとでも言うような言葉に不安になっている光と陽菜は反射的に反論しようとする。


 「だって信司様が負けたところ、フィオは見たことがないのです」


 そう言いながらフィオは二人に顔を向ける。陰りのない表情、信司の勝利を信じて疑わない態度に気圧された光と陽菜は言葉を飲み込むのだった。



 僅かに土埃が舞う。

 ボーは吹き飛ばした信司に追撃を加えず、ただジッと見据えて挙動を観察していた。

 ボーは内心、落胆していた。

 勇壮の風(ヴァリアントガスト)のサブマスターの一人でありAランク冒険者でもあるミレーヌから一目置かれてある男。

 生きて帰れることが絶望的な叡智の霧森(ウィズダム)攻略に恐れも諦観も抱かずに挑もうとし、小さな女の子が同行すると決まっても微塵も揺らぐ様子はない。

 その一貫して堂々とした態度の信司から相当な実力者、夢の世界で名を馳せていた猛者の一人ではないかと予感した。

 だから自分よりも強く、彼女達を守れる実力があると確信できれば任せてもいいと密かに思っていた。

 だが、蓋を開けてみればご覧の有り様。とてもじゃないが任せられる水準ではない。

 何故武器を抜こうとしないのか、魔法は使わないのか、やる気はあるのか。浮かぶ疑問は多々あれど口にすることなく闘いは進み、たった一撃で胸元の光を赤くした信司を見てその全てがどうでもよくなった。

 理由はどうあれ結果が全て。状況は言うまでもなく二人の実力の結果を示していた。

 もういいだろう、様子を見るまでもなく小手調べの段階でついてこれていない。俊敏性に差がある割に上手く攻撃を避けてはいたがそれだけだ。終わりにしよう。


 「闇矢の群れ(ダークアローズ)


 ボーは信司を取り囲むように幾つかの闇の矢(ダークアロー)を生成した。

 視界を濁らせている砂埃が落ち着いたら解き放つ。

 そう決めたボーは残された時間を信司が自分の敗北を認めるための時間とし、ただ無言で信司を見詰めた。


 「……くっくっくっ」


 この場にそぐわない籠もった笑い声が聞こえた。


 「あぁー痛い、痛いなぁ、ははっ」


 声の出所は結界内、攻撃を受けて深刻なダメージを負っているはずの信司からだった。

 ルーンローブについた砂埃を払いながらまるで痛みなど感じていないかのように平然と立ち上がる。

 周囲に展開されている闇矢の群れ(ダークアローズ)を目にしても動揺することもなく、それどころか楽しげに口角を上げていた。


 「感謝するよボー、おかげで目が覚めた。手加減なんてしていい立場じゃない。現実とゲームの違い、痛みが命の危険を自覚させてくれる」


 立ち上がった信司がボーに感謝の意を伝える。

 平気そうにしていてもダメージはしっかりと通っているようで、信司は言葉を区切ると口内に溜まった血を吐き出した。


 「覚悟の深さの違いとでも言うべきか、一発貰ってようやく現実と認識が噛み合った気がするよ。中身はともかく真摯に向き合おうとする相手に今までの対応は失礼だった。すまない」


 それは腰から下げている明らかに危なそうな刀を抜かなかったことを言っているのか、それともまた別のことを指しているのか。

 信司の真意を掴めないボーはその変調に戸惑いながらもそれを表面には出さずに変わらぬ態度で身構える。

 皮鎧の下ですぅーっと汗が流れ落ちた。瞬く間に湿った背中が火照った身体をヒヤリとさせる。


 「楽しむ気持ちを捨てる気はない……けど、ここからは真面目にやろうと思う。だからさ……」


 信司がゆっくりと足を踏み出す。

 目の前の相手は危険だと頭の中で警笛が鳴り響く。

 明らかに自分よりステータスの劣る相手。既に受けているダメージも大きく、あと一撃でも弱い魔法が直撃しただけで勝負がつきそうな状況。

 だというのにこのままだと負けると本能が訴えている。

 腰の刀ではない、刀は最初から危険だと察知している。

 負傷していることを感じさせない足取りで笑顔すら浮かべる信司、ボロボロになったルーンローブをはためかせる彼こそが危機感の元凶だった。


 「頼むから死なないでくれよ?」


 信司が愉悦の笑みを深めるのと包囲していた闇矢の群れ(ダークアローズ)が撃ち出されるのはほぼ同時……いや、後者の方が僅かに速かった。


 『月影』


 『フッ、やっとワシの出番じゃな』


 信司の手が月影へと伸びる。高速で迫り来る闇矢の群れ(ダークアローズ)を視界に収め、着弾を許すよりも早く月影の柄を握り込む。


 「新月」


 命中する寸前、闇矢の群れ(ダークアローズ)はまるで掻き消されるようにその姿を消失させた。

 いつの間にか抜き放たれた月影が振り抜かれた状態でその眩い刀身を顕わにしていた。

 恐ろしげな鞘の外観と相反する透き通った輝きを放つ刀身が夕陽を浴びてより幻想的に存在を主張していた。

 観客の誰もが終わったと思った瞬間、予想外の展開が目の前で繰り広げられ、息をするのも忘れて闘いの行方を注視する。

 そんな中、驚くことなく冷静に決闘を眺めていたミレーヌは信司の変調を確認して密かに気を引き締めた。

 回復アイテムや魔法を使っても治せる範囲には限界がある。夢の中では強力な回復アイテムや魔法の使い手が転がっていたが、現実ではそうもいかない。

 始めから信司ではなく対戦相手の心配をしていたミレーヌはどうかやり過ぎませんようにとボーが五体満足で済むようにと祈っていた。


 信司が振り切った腕をゆっくりと戻す。

 ボーはその様子を呆然と眺め反応出来ずにいた。

 闇矢の群れ(ダークアローズ)の消失、抜かれてみて改めて感じた刀が秘める圧倒的な性能、起こりすら知覚出来なかった信司の斬撃。

 先程までの信司と同一人物だとは思えないほどの変わりよう、どう対処すべきかボーは頭を悩ませる。

 何らかの方法による魔法の無効化がされたため迂闊に魔法は使えない。かと言って先程と同じように接近戦を臨むのもボーには悪手のように思えた。


 「風の抱擁」


 ふわりと風が吹いた。停滞していた決闘場の空気が動き始める。


 「風属性の身体強化魔法か! ならばこちらも……身体強化・闇(ダークフォース)!」


 聞き覚えのない魔法、ボーは経験から当たりを付け即座に動いた。

 風を纏った信司に対抗するべくボーも闇を纏う。基本的な闇属性の身体強化魔法だ。

 信司の方から流れてくる風に揺られボーの纏った黒い靄が後ろに靡いた。

 再び対峙した両者は決闘開始前とは位置もHPも大きく動いた状態で見つめ合う。優勢であるはずのボーは緊張感を漂わせ、劣勢であるはずの信司はただ楽しげに。

 二人の状態を鑑みてあべこべと言わざるを得ない異様な態度。


 「さぁ、始めようか」


 仕切り直しとでも言うように、信司の口からそんな言葉が飛び出した。

 今の信司に手加減をしようという気持ちはない。無論、油断もだ。

 前哨戦は幕を下ろし、波乱を予感させる第二幕が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ