表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/59

第49話 練習開始前編

暑くて筆が進みません……

久しぶりの更新です!

 非常事態宣言や各地の悲惨なニュースなど、どのチャンネルも埋め尽くされる中、信司達は慌てることなく朝食を終える。

 夜が明けて太陽が昇ったことで見え辛かった異常が確かな現実感を帯びて存在を主張していた。

 開放(オープン)型ダンジョンによる周辺地域への被害が特に酷い。ダンジョン内にいる魔物の投擲物や魔法によって瓦礫と化している所もある。


 「いただきました」


 とは言っても信司のやることに変わりはない。

 被害が出ることは分かり切っていたことであり、信司達が今から何をしたところで止められるものでもない。

 強くなること、今はそれが最優先である。

 信司は昼の集合時間になるまでの間に刀と魔法の練習をするつもりであった。

 朝食を食べながら今日の予定を話し合っていたことで妹達も混ざることになってしまったが、二人の実戦での強さも確認しておきたかったのでちょうどよかった。

 光と陽菜は信司と練習することが決まると待ち切れないといった様子であっと言う間に朝食を食べ終えてしまった。

 その後、着替えてくると言って二階に上がってからそれなりに経つが二人はなかなか降りてこない。


 「じゃあ行ってくる。フィオ、ゆっくりしていきなよ」


 信司も朝食を食べ終えると食器を片付けてから、幸せそうな顔をしているフィオに声をかけ自室に向かう。


 「はいなのです! あっ、お義母さん、もう一杯お味噌汁を貰ってもいいなのです?」


 口の中にある物を呑み込んでいたのか、やや遅れてから返事が届き、まったりする気しかないおかわりを求める声に、フィオらしいな、と思い信司は笑った。

 自分の部屋に戻った信司は月影を手に取る。


 『おはようなのじゃ、信司』


 『おはよう、月影』


 『目が覚めたら信司がいなくなっておったから一瞬置いていかれたかと思ったのじゃ……』


 『すまんすまん、朝食を食べてたんだ。家の外に出るときには必ず連れて行くさ。早速だが外に出るから連れて行くぞ』


 『それなら良いのじゃ』


 服装は元々運動するつもりで選んだものだったためこのままで問題ない。

 信司は月影を持って部屋を出ると一階に降りる。

 靴を履き終えた頃に漸く妹達がどたばたと音を立てて二階から降りてきた。

 光は学校で使っている蜜柑色のジャージ姿、陽菜は白のトレーニングシャツに紺のハーフパンツといった見た目相応の姿である。

 信司からすれば二人の姿は見慣れたものだが知らない人が見ればつい目を留めてしまいかねない特異性があった。前者は最小サイズのジャージだというのに指先がちょっとしか出ておらず、襟が口元を覆ってしまうほどにブカブカであるために。後者は中学生だというのに所謂体操着と呼ばれるその服があまりにも似合い過ぎているために。


 「お待たせしました、お兄様」


 「それで、どこで練習するの?」


 信司が既に靴を履き終えて自分達を待っているのを見た光と陽菜は慌てて靴を履いた。


 「そうだなぁ……裏庭にするか」


 裏庭なら剣を振り回せるくらいのスペースはあるし人目にもつきにくい。多少穴が空いても……まぁ大丈夫だろうし練習するならちょうどいいだろう。

 光と陽菜は了解の意を示し、三人は裏庭へと足を運んだ。



 裏庭に着いた信司達は互いの邪魔にならないように間隔を空けると早速練習を始めた。

 とは言ってもそれは光だけだ。魔法系classの陽菜は魔力の感じ方と魔法の使い方を知らないため教えないと練習のしようがない。


 「陽菜、少し待っててくれ」


 「はい、その間はお兄様を眺めて待ってます」


 教えようにもまず自分が出来なければ話にならない。

 陽菜の瞳に目を閉じて集中する信司の姿が映り込む。

 信司は自分の持っている魔力に意識を向けるとルミルの庭で魔力を動かしていた感覚を思い出して今の自分の感覚と重ね合わせた。


 魔力操作スキルを習得した。


 本来魔法を使う上で誰もが躓く最初の難関。

 自らの魔力を把握し、思うように動かすこと。

 ゲームでの感覚をそのまま適応させることで、信司はその過程を苦もなく通り過ぎる。

 問題なく魔力が操作出来た信司は目を開ける。すると魔力操作スキルを習得し、凄い勢いでスキルレベルが上がっていくログが目に飛び込んできた。

 ルミルの庭での感覚を頼りに本来であれば簡単には出来ないことをしたせいで大量の熟練度が手には入ったということか? だとしたら……。


 『月影、今から地面に突き立てるが大丈夫か? それと俺が使う魔法を吸収出来るか?』


 『うむ、ワシはちょっとやそっとのことでは傷付かんから大丈夫じゃ。それに大抵のものは吸収出来るから問題ないぞ。勿論、限界はあるが今の信司の魔力を全て吸収しても全然余裕なのじゃ』


 『なら大丈夫だな』


 信司は月影を鞘から抜くと少し離れた地面に突き立てる。太陽の光を浴びた月影の刀身が眩く輝き、目を向けていた者は眩しさに目を細める。

 地面に刺した月影から十歩程の距離を取った信司は右手を無造作に持ち上げて月影へと向けた。

 ルミルの庭で使っていた魔法。

 ゲームで使っていた魔法の感覚を思い起こし、今の自分に重ね合わせて可能な限り再現する。

 魔力操作スキルを使い体内の魔力を流動させて魔力を練り上げる。

 イメージは雷、ルミルの庭で信司が持っていた魔法適性の一つ。信司のイメージに沿って体内に流れる魔力が雷魔法に適したものへと変質する。

 練り上げられた魔力が信司の意のままに魔法という形となって指先に現出する。

 信司の右手が指す空中に雷で構成された弾丸とも言うべきものが浮遊していた。


 アビリティー雷魔法を習得した。

 雷魔法の扱いスキルを習得した。

 詠唱スキルを習得した。

 魔法、雷の弾丸(サンダーバレット)を習得した。

 魔法、サンダーを習得した。


 ルミルの庭で信司が頻繁に使っていた魔法、雷の弾丸(サンダーバレット)である。

 初めて魔法を目にした光は驚きのあまり動きが止まり、握っていた木剣を落としてしまい、乾いた木の音を立てた。雷が弾丸の形状を維持したまま空中で静止しているのを見て陽菜は目を大きくして鼻息を荒げる。

 今なお物理法則を無視して滞空し続けているそれは、誰もが一度は使ってみたいと思ったことがある魔法に他ならなかった。

 信司は伸ばしていた右手を不意に横に切る。それを合図にして雷の弾丸(サンダーバレット)は静止から解き放たれ、目にも留まらぬ速さで月影に向かって直進し、命中すると同時に放電音を立てて霧散した。


 『問題なく吸収出来たぞ。使いたいときは言ってくれればいつでも撃ち出せるのじゃ』


 残心の体を示す信司に月影の声が響く。


 『それは戦略の幅が広がるなぁ。暫くはそのまま待機していてくれ』


 『分かったのじゃ』


 信司の予想は当たっていたようだ。

 雷の弾丸(サンダーバレット)を使ったことで魔法系のアビリティーとスキルを習得。習得と同時に一気にスキルレベルが上昇した。更には魔法創造スキルがない状態でオリジナル魔法を発動させた。しかも無詠唱でだ。

 スキルを持っていない影響で魔力を魔法という形にするときに凄まじい抵抗を感じたが、その苦労を補って余りある成果である。

 ひとまずこれで雷魔法が使えるようになったな。ルミルの庭での感覚が生きているからもしやと思ったが、まさかここまで上手くいくとは……。もしかしたら魔法の適性もルミルの庭と同じなのかもしれない。

 信司はそれを確かめようとすぐに他の属性の魔法も使えるのか試してみる。

 無属性魔法から始めて雷属性を除いた思いつく限りの属性を試してみると、どうやら本当に信司の魔法適性はルミルの庭の魔法適性と同じだということが分かった。

 無、風、雷、闇の四属性が信司の魔法適性だ。四属性の弾丸が月影に撃ち込まれたところでそれは確定した。

 もしかしたら信司の知らない属性に適性があるかもしれないが、今ここでそれを知る術はない。

 信司は魔法適性の確認を終えたところで地面に刺した月影を引き抜き鞘に収めると陽菜の元へ向かった。


 「あれがお兄様の魔法ですか!? あれはどういった魔法なんですか!? わ、私にもその魔法は使えるようになりますか!?」


 信司と目が合った瞬間、待っている時間も惜しいと言うように駆け出した陽菜は自ら信司との距離を縮めると、興奮の色を抑えきれずに瞳を輝かせながら矢継ぎ早に質問を投げかけた。

 月影に対する疑問なんて浮かんでいない様子だ。いや、今は単純に魔法への興味が勝っているだけか。

 陽菜のあまりの喜びように驚く信司だったが、そう言えばルミルの庭で初めて魔法を使ったときの自分も似たようなものだったか、と思い直し微笑ましい気持ちになる。


 「陽菜落ち着け、慌てていれば出来るものも出来なくなるぞ。まぁ陽菜なら氷魔法のアビリティーを持っていたから魔法を使うだけならすぐにでも出来ると思うけど」


 「っ!? ……そうですね、お兄様。興奮するあまり我を忘れてました……恥ずかしいです……」


 普段の陽菜らしからぬテンションの高さはなかなか見られないもので、それだけ魔法という概念にずっと恋い焦がれていたのだと察せられた。

 陽菜の頬に朱が滲み、心を落ち着かせようと深呼吸をしている姿は無邪気でとても可愛らしかった。

 信司は陽菜の頬から赤みが抜けた頃合いを見計らって口を開いた。


 「アビリティーの氷魔法を確認すれば覚えている魔法が分かる。使おうとすれば必要な呪文が頭に浮かんでくるはずだ。まずは一回魔法を使って見てごらん」


 既に魔法を覚えているなら口で説明するより実際に使ってみた方が理解出来る。

 落ち着きを取り戻した陽菜は信司の言葉に従いアビリティー画面を開く。表示(チェック)した画面を見るために視線が宙を向いているのがまた初々しい。

 使える魔法を確認出来たのか、浮いていた視線を戻した陽菜は華奢な両手を前に伸ばして真剣な表情を浮かべる。

 呪文が頭の中に浮かんできたのだろう。


 「冷気よ、我が手に集いて形を成せ! (アイス)!」


 陽菜の魔力が伸ばした両手を介してその先に集まっていく。

 ゆっくりと唱えている呪文に合わせるように両手の先、その中空にひんやりとした冷たい冷気が徐々に生み出され、それらが密集し凝縮することで質量を得る。

 最後に魔法名が唱えられることで詠唱は完了する。

 下級氷魔法、(アイス)

 戦闘に辛うじて使えるであろう最も簡単な氷魔法である。


 「やりましたお兄様! 私にも魔法が使え──」


 魔法が使えたことで陽菜は喜びの声を上げた、がそれに水を差すように拳大の氷塊がすぐに落下しゴトンと音を立てる。

 特に何も考えずに使われた魔法だ、制御を外れて物理法則に従い落下するのは当然である。


 「ちゃんと使えたみたいだな。だが喜ぶのはまだ早い、今の魔法はただ呪文を唱えて使っただけだ。それでも戦えなくはないが正直かなり厳しいだろう」


 いくら氷と言えども陽菜の膂力では投げつけても少し痛い程度で済んでしまうだろう。頭にぶつければ多少は効くかもしれないが簡単に相手がそれを許してくれるわけがない。


 「ではどうすればいいのか。答えは簡単だ、使いやすくすればいい、戦いに適した形にな」


 「それは……確かに……。でもどうすれば形を変えられるのですか?」


 真面目な表情をした陽菜が信司に教えを請う。

 魔法に限らず使いにくいものを使いやすくしていくのは道理である。

 人類は遙か昔からそれを幾度となく繰り返し発展を遂げてきた。それは歴史が証明しているし、しっかりと今の人類へと受け継がれている。


 「魔法とは想像力だ、そう誰かが言っていた」


 それを聞いた陽菜はハッとした顔になり、より集中した雰囲気を周囲に漂わせる。

 聡明な陽菜であれば信司がもう何も言わなくても自ら答えを探し出すだろう。


 「……冷気よ、我が手に集いて形を成せ!」


 先程よりも落ち着いた様子で力強く呪文を詠唱する陽菜。一文字一文字丁寧に口にする姿はまるで言葉の意味を噛みしめながら唱えているように思えて信司の期待が高まる。


 「(アイス)!」


 詠唱が完了し魔法が完成する。

 現出した氷塊は先程の(アイス)とは全くの別物だった。人の頭に近い大きさで、ぶつけられたらただでは済まないと思える鋭利な角をいくつか備えている。

 そんな立派な凶器が生成され、次の瞬間その姿が掻き消えた。

 ドゴーン! とまるで隕石が落下したかのような衝撃と轟音が三人を襲った。

 ……しまったな、蒼禍の書は持たせない方が良かったか。

 練習とはいえ出来る限り本番に近い環境で取り組むべきというのが信司の持論だ。本番が訪れたときに練習との僅かな差異によって命を落とすことも珍しくないためだ。

 だからと言ってこれだけ大きな音を立ててしまえば後から何を言ったとしても言い訳になってしまうだろうな。

 信司は大きく抉れた裏庭の一部を見て気まずそうに頭を掻いた。

 抉れた窪みの中に飛散している氷の破片がその威力を雄弁に物語っている。


 「陽菜怖いっ! 陽菜怖いっ!」


 陽菜の放った魔法がもたらした結果を離れた所から見ていた光は顔を青くした。


 「……蒼禍の書は封印しようか陽菜。流石にこのまま続けていると裏庭が無くなってしまう」


 これは無意識の内に蒼禍の書に魔力を流した結果だ。一発目と違って蒼禍の書の魔法攻撃力の乗った一撃はあまりにも強力過ぎた。下級魔法なのに下手な中級魔法よりも威力がある魔法と化している。

 自分の放った魔法の威力が信じられないと言うように陽菜は目を見開いてはパチパチと瞬かせた。


 「はい……」


 信司と光の言葉を受けて、どうやら夢ではないらしい、と現実を認めた陽菜は蒼禍の書を慌ててアイテムボックスであるウェストポーチの中にしまう。

 装備画面を表示(チェック)して蒼禍の書が外れていることを確認した陽菜は安堵の息をついた。

 流石に練習で自宅の庭を破壊し尽くす訳にはいかない。誤って自宅に魔法をぶつけでもしたら目も当てられないことになる。

 実戦では魔法の威力の違いに戸惑うことになりそうだが我慢してもらうしかないだろう。

 陽菜は蒼禍の書なしでの魔法の練習を始める。

 信司が陽菜の魔法を眺めているとさっきの衝撃に驚いた母さんが様子を見に家から飛び出してきた。

 母さんは陥没した裏庭を見て口を開けて固まった。

 こうなった理由を細かく説明するのは面倒だったので、母さんが唖然としている内に口早に大丈夫だということを伝え丸め込み家に戻ってもらった。

 飛び出してきたのは母さんだけで、父さんとフィオが顔を出さなかったのでどうしたのかと思ったが、父さんは気付かずに眠ったまま、フィオはお腹が膨れて眠くなったらしく同じく寝たそうだ。

 裏庭からけたたましい音が聞こえてきても目を擦りながら、信司様なら大丈夫だと言って夢の世界へ旅立ったらしい。慣れ親しんだ自宅の如き寛ぎ様である。

 母さんが去ったので指導を再開する。

 信司が見ている限り陽菜の魔法は比較的に安定していて、既に自分なりに工夫しようとしている様子が見て取れたため、これなら放っておいても大丈夫そうだな、と判断した。

 氷の形状に、生成してからの軌道、氷自体の硬さにも着目しているように見える。

 魔法が使えて高レベルの魔力感知を覚えている陽菜なら、魔法を使っているうちに魔力の流れを感じられるようになり魔力操作スキルを覚えるのもすぐだろう。そうなればさらに魔法が上達する。本来の覚える順番とは逆だが、既に魔法を覚えているならこの方がいいだろう。将来が楽しみだな。

 信司は陽菜に光の様子を見に行ってくると告げて、小さな風切り音を立てて木剣を振るっている光の元へと足を運ぶのだった。

 一人で魔法の行使が可能となった陽菜は、自分から離れていく信司の背中に寂しげな視線を向けて首を振る、今は魔法に集中するべきだ。

 魔法の腕が上達すればお兄様のお役に立てる。誉めてもらえるかもしれない、そう奮起すると陽菜は勢い良く呪文を唱え始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ