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第41話 食後の一幕

 食事が終わり食卓の上には空になった器達が役目を終えて静かに並んでいる。その中にプリンの載っていた皿は五つあった。

 光の分のプリンが陽菜の胃の中に収まることになったが、元々無かったということにしようと思う。

 全員でいただきましたと口にすると後片付けに移る。


 「信司様、陽菜さん、お食事とても美味しかったです。まるで夢のような一時でした」


 「美味しすぎて思わず泣いちゃったのです」


 「喜んでもらえたようで何よりだよ」


 念願の地球の料理が食べられた嬉しさと感動のあまり泣いてしまった恥ずかしさが同居したような表情を浮かべると二人はお礼を言った。


 「ご馳走になったお礼というわけではありませんが、せめて後片付けは手伝わせてください」


 あまり大事にし過ぎても居心地が悪くなるか。少しだけ手伝ってもらうとしよう。


 「そうか、助かるよ。陽菜、ミレーヌとフィオに片付けのやり方を教えてやってくれ。俺は光を部屋に運んでくる」


 「分かりました」


 早めに光を部屋に運んでおかないとうっかり忘れてしまいそうだ。

 信司は三人に食器の片付けをお願いすると未だに寝たままでいる光をぞんざいに抱え上げ部屋へと運ぶ。脇に抱えられて運ばれている光は、乙女としてあるまじき姿を食卓の席に座っている後片付け組に曝していた。信司が歩く度に光の足がぶらぶらと揺れ、小さなお尻もそれに合わせて揺れる姿はどこか哀愁を漂わせている。女の子の運ばれる姿としては悲しいものがあった。

 光にとっては意識がないことがせめてもの救いと言えるだろう。起きていれば精神的なダメージを受けていたことは間違いない。

 三人は自分が光と同じ運ばれ方をされたらとても耐えられないなと思い、気の毒そうな視線をその後ろ姿に送るのだった。


 信司は光の部屋に辿り着くと光を起こさないように気をつけながらベッドに下ろすとしっかりと毛布をかける。光は呑気に寝息を立てており、起きる気配がなかった。

 光の部屋は如何にも女の子然とした様相で、お洒落な小物や可愛いぬいぐるみなどが置かれている。そんな女の子らしい部屋ではあるが、木刀ならぬ木剣らしき物が転がっているところが光らしい。浮いているとまでは言わないが違和感を覚えるくらいには目立っている。

 光の運搬も終わり部屋から出て行こうとした信司は、そこでふと光の部屋で感知した強い魔力を思い出した。改めて部屋の中の魔力に意識を向けて出所を探ってみる。


 「……この宝石か」


 魔力の発生源は光が大切にしている赤茶色の宝石だった。これは何年か前に両親がお土産として持ち帰ってきたものだ。両親のお土産にしては比較的まともな品だったため、光が首飾りにして部屋に飾っている。


 ────────────────

 ・★7ディフィオンの首飾り:ディフィオンの神核が信仰を失い骸核化したものを使用した首飾り、SP100%アップ、SP以外のステータス30%アップ

 ────────────────


 ミレーヌやフィオと話している間も自然回復していくSPが勿体なかったため、俺はロスが出ない程度に邪神さん(仮)に鑑定をかけ続けていた。その甲斐あって鑑定スキルのレベルが三日月(クレセント)のデータよりも高くなってしまったが、おかげで首飾りの鑑定に成功したようだ。

 首飾りの説明はいまいち理解し難いものの、その性能はルミルの庭の最高レア度である★7に相応しい非常に高いものであった。

 首飾りであれば身につけているだけで効果を発揮するし、これには特殊な能力もついていない。初心者である光にはうってつけだろう。

 ディフィオンとやらは神か何かだろうか、神核は神にとっての心臓みたいなものか……? ゲームやアニメではありがちな設定だが、あながち間違っていない気がするな。

 何はともあれ危険なアイテムじゃないことが分かって一安心だ。呪われたアイテムや物騒な能力を秘めたアイテムを光に持たせるのは怖いからなぁ。特に後者の場合光ならうっかりでとんでもないことをやらかしかねない。光に危険物を持たせてはいけない。長年の経験による教訓であった。

 まだ洗い物が終わるまで時間があるだろうから、陽菜の部屋の魔力源の安全も確認しておくか。

 信司はそう決めると光の部屋を出て陽菜乃部屋へと向かった。


 陽菜の部屋に入ると光の部屋と同様に魔力濃度が高くなっていることを実感する。陽菜の部屋はお洒落な小物やぬいぐるみが無い代わりに、たくさんの本があり本棚に収められて並んでいる。それらの本は全て魔法や魔術に関する本であり、普通の本とは違う異様な圧迫感のようなものを感じさせる。そんな本が並べられている本棚の一角にそれはあった。

 青と黒の色の奔流が渦巻いている表紙は不気味な雰囲気を漂わせ、どこまでも引き摺り込まれそうになるほどの闇を中心に讃えている。背表紙は深い海を連想させる紺色で染め上げられており、表紙とは対照的に落ち着いた印象を受ける。

 これも父さんと母さんのお土産だな。何て書いてあるのか分からないけど魔法書に違いないと言って陽菜が喜んでいた記憶がある。こうやって魔力を漂わせているってことは陽菜の直感は間違っていなかったってことか。

 信司はディフィオンの首飾りと同様に魔力を漂わせている魔法書に鑑定スキルを使った。


 ────────────────

 ・★7蒼禍の書:古の魔法使いが蒼き禍を封じ込めた魔法書、所有者に絶大な力を与え敵対者に禍を振りまく、アビリティー★7蒼魔法、SP・INT50%アップ、MEN30%アップ、物理攻撃力4魔物攻撃力113

 ────────────────


 「……はっ!?」


 あまりの性能の高さに思わず固まってしまっていたようだ。現状で判明しているルミルの庭の最高クラスの装備と同等の性能を有している。蒼魔法がどんな魔法なのか気になるが、今後所有者になるだろう陽菜には悪影響が無さそうなので安心した。

 続いて俺の部屋……と行きたいところだが、流石にそこまでの時間はないな。そろそろ洗い物も終わるだろうし、ミレーヌとフィオを見送ってから確認するとしよう。

 信司は自分の部屋で魔力を放っているアイテムへの期待で胸が高鳴るのを感じながら居間へと戻るのであった。


 信司が居間に戻ると後片付けを終えた三人が丁度台所から出てきたところだった。


 「お兄様、後片付け終わりました」


 「お疲れ様、三人ともありがとな」


 信司は後片付けをしてくれた三人に労いの言葉を掛ける。


 「信司様、水道というのは凄いのです。魔力も使っていないのに、後から後から水が出てくるのです。しかも簡単にお湯になるのですよ!」


 世界の違いは環境の違い。環境が違えば育まれる文化にだって差異は生じる。ミレーヌとフィオにとっては皿洗いでも驚きの連続というもので、楽しみながら後片付けをしてくれたようだ。


 「地球の石鹸の効果がとても高くて驚きました。ほんの少量で油汚れがあんなに簡単に落ちるなんて私達の世界では考えられないことです」


 言われてみれば液状の石鹸自体ルミルの庭には無かったなぁ。今までゲームだから気にしていなかったが、そういった目につきにくい部分にもたくさんの違いがあるのだろう。

 そういう細かい部分も後々話し合う必要がありそうだ。


 後片付けも終わり、ミレーヌ達がそろそろお暇しようとしたその時、つけたままにしていたテレビから静止するように呼び掛ける警官の声と警笛の音が響いた。

 突然聞こえた大きな音に驚いた信司達の視線はテレビへと向かい、その異変を捉える。テレビの中には警官の隙を突いてダンジョンの中へ入り込んでいく三人の男女の姿が映っていた。森の中へ走っていく彼らの手には小型の携帯用撮影機器が握られており、ダンジョン内部の様子を撮影するのが目的だと思われた。今尚警官の忠告を無視して進んでいく姿に他の野次馬は、そこまでやるか? といった表情を浮かべて呆然としており、幸いなことに続く様子はない。

 信司はそれを見て思っていたよりも追従する人が少ないことに安心する。


 が、どうもそうはいかないようだ。


 信司が安心したのと同時か、やや遅れてといったタイミングで中継映像が大きく乱れる。それはまるで撮影者が大きく身体を動かしているかのような揺れで……。


 「くそっ馬鹿か!」


 信司の口から思わず暴言が漏れた。

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