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第38話 食卓にて

更新遅くなりました……、寝落ちしてました……。

 信司は食卓の椅子を二人分引くとそこに座るようにミレーヌとフィオを促した。二人は申し訳無さそうに信司の引いた椅子に座ると食卓の上に載っている物が気になるのか興味深そうに眺めていた。

 ルミルの庭の食卓には基本的に何かが載っていることは少ない。お洒落な店であれば花瓶や骨董品が飾られているくらいで、酒場や一般家庭であれば台拭き用の雑巾が置き忘れたままになっているくらいである。水は必要なときに準備するし、ナイフやフォークは料理と一緒にやってくる。ミレーヌとフィオはそこまでは同じなのだろうと察するが信司に案内された食卓の中央には見慣れない物があった。それは円柱状の透明な容器で、中には白い粉や赤い粉、黒い粒に黒い液体と入っている物は様々だ。ヌホンであればどの家庭にもある物で多少の違いはあれど見慣れたものである。


 「信司様、これは何が入っているんですか?」


 食卓の中央を見つめながらミレーヌが聞いた。


 「それが調味料だよ。中に入っているものはそれぞれ違う」


 「これが噂の調味料……」


 噂になっているらしい。ルミルの庭には調味料がろくにないせいか? 


 「どんな味がするですか?」


 調味料と聞いたフィオは興味津々といった表情を浮かべて信司に顔を向ける。


 「食べてみる?」


 「はいなのです!」


 「私も少し味わってみたいです」


 こうして夜食の前に調味料を味見することになった。念のために水を入れたコップを準備しておく。


 「お兄様、もうすぐ出来ますので待っていてくださいね」


 水汲みに台所へ入ると信司の予想通り、料理は完成寸前だった。美味しそうな匂いが充満しており思わず信司の表情も綻ぶ。


 「あぁ、分かった。こんなにたくさん作らせちゃって悪いな」


 「いえ、二人共とてもお腹が空いているように見えましたので、それに料理を作るのは好きなので全然大丈夫ですよ」


 「そうだったな。いつも助かってるよ、ありがとな陽菜」


 信司は料理をしている陽菜の頭を優しくさっと撫でると、料理の邪魔にならないようにすぐに戻ることにした。

 コップを二つ取り出すと氷を入れて水道水を注ぐ。そこにレモン汁を一滴だけ垂らして混ぜ合わせれば完成だ。水道水独特の匂いと言われているカルキ臭はレモン汁を入れることで消すことが出来る。さらにレモンの風味で口当たりを良くなり、すっきりとした後味にすることが出来る。

 信司が居間に戻ると陽菜の料理の匂いも付いてきてしまったのか、ミレーヌとフィオは鼻をヒクヒクさせ切なそうな表情を浮かべる。そんな顔をされてもどうすることも出来ないので、信司は二人の前にコップを置くと調味料の説明を始めることにした。

 信司は粒の大きい白い粉の入った容器とウェットティッシュを二人の前に出した。


 「まず二人にも分かる調味料、塩だ。ただルミルの庭の塩と比べると若干まろやかかな。一口に塩と言っても地球の塩にはたくさん種類がある。うちで使ってる塩はこのタイプってだけなんだけどね」


 「塩に種類があるなんてびっくりなのです。地球の食文化は複雑なのですね……」


 フィオは驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべる。食べることが大好きなフィオにとって味付けの幅が広がる情報は嬉しいものだった。


 「さて、それじゃあまずそのウェットティッシュで手を拭いてもらって、それから手を出してもらってもいいかな?」


 ミレーヌとフィオからしてみればウェットティッシュも珍しい物に他ならず、どういう物なのか詳しく聞きたいという気持ちが伝わってくる。しかし、あれもこれも全部してもらっていては時間が足りないことも分かっているのだろう。ウェットティッシュの質感に驚いて柔らかいと小声を漏らすものの、素早く両手を拭くと信司に片手を差し出した。

 信司は二人の手に一振りずつ塩をかけると食卓の中央に塩を戻す。ミレーヌとフィオは塩を落とさないように口元に近づけるとそっと舌の上に乗せた。


 「ん! 確かにこれは違いますね……優しく味」


 「しょっぱいのにしょっぱくないのです。味が刺々しくない、丸い味なのです!」


 ミレーヌとフィオは驚きを隠せなかった。信司にまろやかだと言われても味の想像が出来なかったし、ルミルの庭の塩とここまで味が違うとは思っていなかった。

 信司は、ルミルの庭の塩は粒が小さく、ほぼ塩化ナトリウムのみで構成されている塩なんだと推測している。渡里家で使っている塩は粒が大きく、ミネラルも多量に含まれている種類のためその差は歴然であった。


 「それじゃあ次はこれにしようかな。これは砂糖という甘い調味料だ。見た目は塩に似ているが味は全然違う。ルミルの庭では蜂系の魔物の巣で手に入る蜂蜜が一番近い味かな」


 ルミルの庭にも蜂蜜は存在する。しかし、その殆どは薬の材料として使われているため一般に流通する量は非常に少ない。仮に手には入ったとしても、そのまま舐めるか、水で薄めて飲むかというエネルギー摂取目的が大半である。食料の味が死んでいる料理と掛け合わせても、焼け石に水のため試されることもない。だから蜂蜜の味に近いと言われてもそれが調味料のイメージに繋がらないのだろう。


 「フィオは蜂蜜食べたことないので分からないのです……」


 「蜂蜜は甘いけど……甘過ぎて私は胸焼けするので、味の濃い調味料なのでしょうか」


 ルミルの庭の蜂蜜は地球のものより一際濃厚だからなぁ、無理もない。


 「えっ!? お姉ちゃん蜂蜜食べたことがあるのです?」


 「勇壮の風(ヴァリアントガスト)の支部長室で書類仕事をしていた頃に差し入れで少しね」


 「てっきりフィオに内緒で食べたのかと思ったのです。それなら仕方ないですね……」


 「ごめんね、フィオ。持ち出すのは駄目っていう話だったから」


 申し訳なさそうにしているミレーヌと仕方ないと言いつつも羨ましいという感情が顔に出てしまっているフィオ。後で蜂蜜を持ってきてあげようかと考える信司だったが、そのタイミングで陽菜の声が掛かる。


 「お兄様、料理が出来ました」


 「分かった。というわけで二人共、途中だが調味料の味見会は終了だ。これから先、地球の料理を食べていれば調味料を使う機会もあるだろうさ」


 こうして調味料の味見は終了した。信司は陽菜の料理がすぐに出来上がることは分かっていたとはいえ、予想していたよりも早く出来上がったため、塩しか味見させてあげることが出来なかった。しかし、料理完成の声で二人の興味は瞬時に陽菜の料理へと移ったため、気にしなくても大丈夫な様子である。

 信司は料理の配膳を手伝おうとする二人を押し留め、陽菜と協力して食卓へと運び並べた。

 食卓に並ぶ料理が一品増える度にミレーヌとフィオは興奮のあまり息を荒げ驚愕の声を上げる。見たことのない料理に目を丸くさせ、嗅いだことのない複雑な香りに鼻をひくつかせた。口内には唾液が後から後から湧き出してきて、フィオはお腹を鳴らしても視線を料理から逸らそうともしない。

 信司と陽菜は全ての料理を運び終えると二人の対面の席に腰を下ろした。信司は料理に釘付けな二人の様子を見て笑い声を上げる。


 「あっはっは、二人共反応良過ぎ、そんなに驚くほど良かった?」


 「もう良かったなんてものじゃないのです! 見たことも嗅いだこともない料理なのです! フィオ達の世界の料理とは比べものにならないのですよ!」


 「えぇ、これはもう私達の知っている料理とは全くの別物です! 普段から信司様達から聞かされていましたがまさかこんなに凄いだなんて、今、私の中で革命が起きています!」


 ミレーヌとフィオは言葉を抑えきれないといった様子で捲くし立てるように料理への感動を語った。二人の喜びようを見た信司は自然の頬を緩めるのだった。


 「お兄様、お二人は何て言っているのですか?」


 陽菜はミレーヌとフィオが何か熱心に話しているのは分かってもその内容までは分からない。嬉しそうな表情を浮かべている信司を見て陽菜はどんな話なのか気になった。


 「んー、そうだなぁ……。二人共、陽菜の料理が美味しそうだって喜んでくれているんだよ」


 「それは嬉しいですね。頑張って作った甲斐があるというものです」


 信司の言葉を聞いて陽菜の顔にも笑顔が浮かぶ。自分の作った料理が相手に喜んでもらえれば誰だって嬉しいものだ。だからこそ陽菜は二人と直に言葉をやりとりしたいと思い、言語理解スキルの必要性を強く感じるのだった。

 ミレーヌとフィオが未だに感動の言葉を小さく呟いている中、信司はさてとばかりに口を開けた。


 「話してばかりで料理が冷めてもしまっても勿体ない。料理は暖かいうちに食べた方が美味しいだろう。陽菜、二人に料理の紹介をしてもらってもいいかな? それが終わったら、いただきますをするとしよう」


 信司の言葉にざわめいていた二人はピタリと口を閉ざす。この料理は一体どういったものなのかと、興味の抑え切れていない二つが視線が陽菜に突き刺さる。陽菜は穴が空くほどの目力に晒されて思わず気圧されるが信司からの指名に応えるために負けじと紹介を始めた。


 「お兄様の指名に応えまして、簡単に料理の説明をしたいと思います。本日は夕食? 夜食? の献立は左手前から、白米、長葱の味噌汁、紅鮭の塩焼き、豚肉の生姜焼き、野菜サラダ、デザートにプリンとなっています。野菜サラダには胡麻ドレッシングと青紫蘇ドレッシングがありますのでお好みのドレッシングをかけて召し上がりください。あ、マヨネーズもありました。お水は水差しからご自由にお注ぎください」


 陽菜の料理紹介が終わるとミレーヌとフィオの視線は信司に向けられる。陽菜の説明を受けた二人の瞳は未知の料理に対する好奇心に輝き、今か今かと信司の号令を待っていた。


 「それじゃあ、いただきます」


 「いただきます」


 「いただきます!」


 「いただきますなのです!」


 信司の声に続いて三人の声が居間に響き渡る。その声を合図にして四人の夜中の食事は始まるのだった。

話のストックが無くなりました。

出来るだけ早く書いていきたいですが明日以降の投稿は不定期になりますのでよろしくお願いします。

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