第2話 脳内アナウンス
「ピコーン!」
頭の中にどこかで聞いたような電子音が響いた。
つい最近聞いた覚えあるのだが……。
電子音の後に明るい雰囲気の男の声が聞こえてきた。
「お取り込み中失礼いたします。まずは謝罪をいたしたく存じます、まことに申し訳ありません。こちらの想定以上の次元震が発生してしまいました。作業中だったお方には私、頭が上がりません。そしておめでとうございます。唐突ですがあなた方が住んでいる世界は別の世界と融合しました。あなた方の世界は科学技術が発達している世界のようですね。融合相手の世界はあなた方の世界で顕すとまるでゲームのようなシステムが組み込まれた世界でございます。スライムやドラゴンがいて剣戟鳴り響き魔法が飛び交う世界であります。とても楽しそうですね。冒険するもよし、気にしないで生活するもよし。全てあなた方の自由でございます。さて、説明はこれくらいで、あまり長々と話していては作業中の方に申し訳ないので。詳しいことは自身で体験し学んでいくのがよろしいかと存じます。それでは皆さん波乱万丈な人生を。何人の方が生きていられるのかは分かりませんがね」
男の話が終わると辺りは何とも言えない空気になっていた……。
「……」
玄関へ向かっていたみんなの足は止まっている。何の話だかよく分からないといった表情の両親。剣栽鳴り響く……光が鼻息荒く呟いていた。どうやら私の時代がきたようですね……陽菜が瞳を輝かせている。そして俺はピコーンという電子音が気になっていた。
さっきの男の話を信じるならば、原因不明の揺れは次元震とかいうもので、世界はモンスターが闊歩するファンタジーな感じになってしまったらしい。……なんてこった。どうしよう……不謹慎だがかつてない胸の高鳴りを感じる。初めてゲームに触った時……いや、初めてアニメを鑑賞した時……いや、その時以上の興奮を覚えていた。ゲームやアニメでしか体験することが出来なかった冒険が、魔法が、戦いが今、ここにある。なんだ、俺も光と陽菜と大して変わらないじゃないか。今までトレジャーハンターとして旅に出掛ける両親の気持ちがよく分からなかったけど…少しだけ分かった気がした。
さて……さっきの電子音が鳴ってから視界の右下にクエストと書かれたアイコンが浮かんでいて点滅している。これも最近見た記憶がある。うーむ……まさかな……。俺は頭の中でクエスト表示と念じてみる。すると右下のクエストアイコンが瞬時に視界の中央に移動しクエスト画面が表示された。
─────クエスト─────
件名:簡易チュートリアル
難易度:★
依頼主:システム
内容:簡易チュートリアルクエストです。大雑把にステータスシステムについて解説します。初めての方、初心者の方は受諾した方が良いでしょう。経験者の方は拒否しても大丈夫です。
達成条件:受諾or拒否
失敗条件:あなたの死亡
期限:なし
ペナルティー:なし
発生条件:この世界にユーザーとして認知される
達成報酬:受諾時:初心者セット
拒否時:classスキルスクロール初級
──────────────
この画面は……。そうか、道理で聞いたことあるSE、見たことあるアイコンや画面なわけだ。チュートリアルクエストの細かいところに違いはあるけど間違いない。このシステムは……VRMMORPGルミルの庭だ。
「お兄様?」
陽菜に呼ばれて我に返った。光と陽菜が心配そうに俺を見ていた。
「いや、大丈夫だ。少し考え事をしていた」
「考え事?」
「あぁ……このシステムには見覚えがあってね。俺がやっていたゲームのシステムにそっくりなんだ」
「えっ? そうなんだー、さすが私のお兄ちゃんだね!」
「さすが私のお兄様です! いろいろと教えてくださいませ」
二人が俺にキラキラした目を向けている。ま、眩しい……。たぶんゲーム好きな人なら分かると思うから結構な人数の人が気付くと思うけど。
「信司、ストップだ。俺にはよく分からんが先に安全な場所に移動した方がいいだろう」
父さんに言われてはっとなる。しまった、今は避難している途中だった。テンションが上がりすぎて俺たちの現状を忘れていた。もう少し落ち着いて行動しよう……。
……さっきの男の話を聞く限りあの揺れは世界が融合した影響のように思える。言葉の上での想像に過ぎないが、次元震、次元の揺れ、これはどういったことで起きるのか。恐らく世界が融合した衝撃なのではないかと俺の厨二脳が勝手に夢想する。となると今最も優先すべきことは……。
「……いや避難する必要はなさそうだ。さっきの男の話を信じるのならだけど」
「ん? どういうこと?」
母さんが振り返りながら問いかける。
「んーとりあえずあの地震みたいなものは襲ってこないと思う。これからのことも少し考えた方がいいと思うから居間に移動してもらってもいいかな?」
今は現状の把握、何よりもこのゲームシステムを理解してもらうことが先決だと思った。俺は両親の顔を見ながら行き先の変更の許可を求める。
「……分かった、居間に行こう」
二人は少しの間どうしようかと視線を交わしていたが俺の意見を聞き入れてくれたようだ。俺は光と陽菜の手を引きながら玄関に背を向けて歩き出した。
「さて、信司の話を聞かせてくれるか? 何か分かったんだろう?」
居間に入り全員が座るのを確認してから父さんが切り出した。
「あぁ、あくまで俺の想像でしかないが……。とりあえず聞いて欲しい」
みんなの顔を見回すと母さんが頷きながら先を促す。
「分かったわ。聞かせてもらっていいかしら」
俺は母さんの言葉に頷くと話し始めた。