第28話 地球とルミルの庭との差異と豚猫
投稿遅れました。
人口もかなりの差があるし、町中で混乱しないように今のうちに言っておくか。
「それじゃあ話を戻すぞ? 地球がルミルの庭よりも広いのはさっき言った通りだ。ルミルの庭の人口がどれくらいなのか詳しい数は分からないが……、地球の広さから察せると思うが人口もルミルの庭より多い。今の地球の人口はたしか75億人くらいだったか。それで────」
あ、固まった……。
ミレーヌは目を点にして小声で75億、75億……と壊れた機械のように繰り返し呟いていた。どうしようか、と一瞬悩む信司だったがこのままだと新しい情報を出す度にフリーズして話が進まないと思ったため聞いていてくれることを祈りつつ話を進めることにした。静かに話を聞いていたフィオも一日は24時間という話をすると、えっ……、と言って固まってしまった。
フリーズした二人に話した内容を簡単に纏めると以下の通りになる。
・世界の国の数はルミルの庭の2カ国を含めて198カ国。
・地球の面積はルミルの庭よりも広く、その人口は約75億人。
・ルミルの庭の海には波がないが地球の海には波がある。
・ルミルの庭の海にはザースガオド帝国の南西に僅かにある程度だが地球の海の面積は地球全体の面積の約7割である。
・ルミルの庭の一日は16時間だが地球の一日は24時間。
・ルミルの庭の一年は1ヶ月30日の12ヶ月で360日、地球は365日。
・ルミルの庭には魔物がいるが地球にはそういった明確に人類と敵対している生物はいない。
・ルミルの庭の太陽や月などの地球で言うところの天体は魔力の塊だが地球の場合はきちんと実体を持った天体であり、地球を一つの世界とするならそれらはまた別の世界と言える。
・ルミルの庭という世界は四角形の平面体だが地球は球体。
・信司達のいるこの国はヌホンといい他の国と比べて比較的平和な国であること。
・基本的に武器を持って彷徨いたり、暴力を振るえば捕まるため注意、ただ世界融合やダンジョンの影響で今後その辺りが緩くなる可能性が高いこと。
「────ということだ。……二人とも固まってるけど何となく理解出来たか?」
ルミルの庭と地球との違いで知っておいた方がいいんじゃないかということを思いついた先から説明してみた。予想通り二人とも固まってしまったが……。ちゃんと話を聞いていたのか若干不安だな。
「……信司様……地球の食事は一日に四食か五食……なのですか?」
信司が二人の反応を待っているとフィオが恐る恐るといった様子でそんなことを口にした。信じたくないという感情が透けて見える。
まるで学生が夏休みの最終日に終わる気配のない宿題の山を前にしたときのようだ。
「一般的には一日三食だな、そこはルミルの庭と変わらない」
「そ、そんな……」
フィオはこの世の終わりが来たかのような顔を浮かべると力無くうなだれた。
一日の時間が長くなることによって食事の間隔が開くことが耐えられないのだろう。殆どの獣人族は人間族よりも身体能力が高く身体をよく動かすためお腹が減りやすい。フィオは食べることが好きなので大変切実な問題だ。
「……あー、ほら、お腹が空いたら間食とかとればいいから」
ピカーン!
……実際に光ったわけではないが、落ち込むフィオに信司がその一言を告げた瞬間、ピクリと小さな耳を震わせたフィオが、あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまいそうなほどの喜色の笑みを浮かべて信司を見つめた。
なんだか我が家にある物を全て食べ尽くしそうな雰囲気すら感じた。
「……食べ過ぎたら太るぞ」
今の渡里家にミレーヌとフィオを養い続ける財力はない。たった二人、されど二人、今でさえかなりギリギリの生活を送っている渡里家は所謂貧乏に分類される家庭である。そこに人間より大食らいの獣人二人が加わったら破産する未来が見える。
ルミルの庭の時のように魔物の素材の売買が出来るようになれば、金持ちになれるくらいに稼ぐ自信がある信司だったが、今はまだ弱いため断言することは出来ない。なので食料をフィオに食い尽くされないように小声で釘を差す信司だった。
「なっ!? フィ、フィオは太らない体質なので大丈夫なのです!」
ボソリと小さく呟かれた一言は描人族のフィオにきちんと届いていた。若干頬を赤くしたフィオは信司を睨みつけるがその目尻には僅かに雫が浮かんでいたりして怖さの感じられない可愛いだけの何かであった。
睨みつけながらも信司に言われてため不安になったのか自身の身体をペタペタと触って確かめるフィオ。その手が自身の脇腹に触れたときピタリと動きが止まる。
フィオは頬の赤みを急速に引かせつつ、おもむろにケープコートとワンピースを持ち上げるとその手で直に脇腹へと触れる。信司の目の前に突如、服を持ち上げ下着を晒した幼い痴女が現れた。信司にパンツが見えてしまっているがどうやらそれどころではないらしい。
何かに気付いてしまったのか赤どころか青に近付いた顔色でフィオは持ち上げていた服を下げる。信司にパンツが見られたことに気付いていないフィオは深刻そうな様子で口を開いた。
「あ、あのぅ、信司様、もし、もしですよ? フィオがちょっと丸くなってしまって嫌いになったりしません……ですよね?」
「…ーよほど酷くならない限り嫌いになることはないな」
フィオはそこまでじゃないな、と安心して胸元に手を当てほっと息を吐いた。
「よかったのですー。せっかく地球の料理が食べられるようになったのにダイエットをしなければならなくなるところで────」
これで体重を気にせず食べることが出来ると話すフィオの言葉を遮るかのように信司が一言付け加えた。
「猫が豚猫になったら出荷するけどな」
フィオに戦慄が走った! 頭をガツンと殴られたかのような衝撃に言葉は途切れ涙が浮かぶ。一体どこに出荷されてしまうのか恐ろしくて聞くことが出来ない。出荷された先でどんな目に遭わされてしまうのか、フィオの身体が小刻みに震える。楽しそうに笑みを浮かべる信司を見てフィオは豚猫となった自分の未来図を思い浮かべてしまった。
「フィオは出荷されて食べられちゃうのですか……!?」
自分の未来の姿から這い寄ってくる恐怖に抗えなくなったフィオは涙声でそんな悲鳴を上げる。信司に背を向け耳と尻尾を身体に密着させるように丸まるとソファーの上で器用に縮こまるのだった。
自分が解体され調理されている姿でも想像しているのかフィオはプルプルと震えている。そんな姿を視界に収めている信司は、プルプル震えているフィオは可愛いなぁ、とニヤつくのだった。後ろ向きで丸まっているせいでまたパンツがこんにちはしているが指摘する人はいなかった。




