第27話 テレビと疑問
テレビでも見て待っているとするか。どの放送局も似たような内容を流してそうだけど。世界融合に関するニュースくらいしかやってないだろうなぁ。
そう思いながらも何か目新しい情報があるかもしれないし、ミレーヌとフィオの空腹も紛れるだろうと、信司はテレビのリモコンを手に取ると電源を入れた。
「────などの異常事態がヌホンのみならず世界各国で起きている模様です。身近に異変を感じた場合は速やかに最寄りの避難場所へ避難を開始してください。また今現在全国各地で交通事故が多発しており、高速道路のみならず通常の道路でも渋滞が発生しております。お出かけの際には長時間身動きがとれなくても大丈夫なよう十分な準備をした上で、周囲の様子に警戒して事故を起こさないようにお気をつけください。次のニュースです、大人気音楽ユニット世紀末ジャンプの猫山犬男さんが────」
信司は少し見ては変え少し見ては変え、流すようにチャンネルを変えていくが予想通りどこも似たような内容のニュースばかりであった。
頭の中に響いた声は何だったのか、世界融合とは何なのか、特定の行動で表示されるゲームのステータスメニューのようなものは何を意味するのかなど、どこかの討論番組で見たことがあるような人達を交えて話し合いを行っているチャンネルが目に映る。いつもなら自信満々に持論を展開させる専門家達は余裕のない困惑の表情を浮かべており、緊張した様子でときおり声を荒げ ては話を余計に混乱させている。頻繁にハンカチで拭うほどに流れ落ちる大量の汗、それは先を見通せない不安から来るものなのか、適当なことを口にしているせいで落ち着かないのか、定かではない。
ミレーヌとフィオはその様子を……いやテレビを見て愕然としていた。信司が小さな板を触ったと思ったら薄い板のような物が突然発光を始め、なんと映像と音声が流れ始めたためだ。これは一体何なのか、疑問を解消するために口を開こうとするがちょうどそのタイミングで信司はテレビの方を見たまま簡単な説明をし始めた。
「あ、そうそう、勝手につけちゃったけど、この四角い板はテレビって言うんだ。ルミルの庭で言うと遠距離通信魔法と同じような機能があって遠くの情報が得られるものだ。遠距離通信魔法と違ってこれは一方通行だけどね。それでも魔法と違って負担がないからどの家庭にも大抵一台はあって簡単に情報を得たい時や暇な時に見たりするものなんだ」
ルミルの庭で遠距離通信魔法は緊急時の連絡に使う魔法だ。それは遠くにいる相手と映像を交えて情報のやりとりを行う魔法で、かなり燃費が悪いという問題があるため滅多に使われることのない魔法である。大抵は自分の足で情報交換を行ったり、フレンドや同じギルドであればメールやチャットなどで済ませてしまうため日常的や使われることはない。
それに似たものを一方通行とはいえ魔力も使わずに簡単に実現させている技術力の高さにここは別の世界なのだと改めて認識する。もしかしたら双方向の遠距離通信の技術もあるのかもしれない。
フィオはただただ驚いているばかりであったが年上であるミレーヌはそんなことを思う僅かばかりの余裕があった。信司はテレビの方を見ていてそんな二人の様子を知らなかったが、もし知っていればテレビ電話による映像通信やインターネットを利用した簡単な情報発信技術を伝えたかもしれない。その場合ミレーヌも余裕を無くすことは想像に難くない。
どうやら今やっているニュース番組は三種類に分けられそうだな。
一つは複数のニュースを簡単な説明を交えながら紹介していく番組。これはいくつか世界融合関連のニュースも混じっているが関係無いものも多いから時間が勿体ないしパスだな。
もう一つは討論番組なのだが……未だかつて観測されたことのない規模の太陽フレアによって地球規模のプラズマと電磁波に襲われ集団幻覚に陥っているとか、某国の最新細菌兵器の暴走によって人類が昏睡状態になっていて脳内の未使用区画の活性化で人類の無意識同士が繋がり合ってしまい共通の夢を見ている状態だとか、専門家達はあまりにもズレた持論を展開していた。最早、話はSFと化していて普通の人には意味すら分からないだろう。呼んでくる専門家を間違えている気がしてならない。
最後に現地を中継放送している番組だ。世界融合による影響は各地に現れているようでそれを中継するために出張っているようだ。突如、都心の四車線道路に現れた鬱蒼と生い茂る森林に、田舎の田んぼに反対側が見えなくなるほど大きな湖が一瞬で出来上がり、民家の庭に現れた古びた石碑や知らない言語で会話をする人々などがレポーターと共にテレビ画面に映されている。時刻は既に深夜だというのに野次馬が多いのは次の日が休みではしゃいでいる学生や社会人が多いせいだろう、学生服やスーツ姿の人達が結構な人数見える。
外野が少々騒がしいが現場の雰囲気が良く伝わってくる。一番マシなチャンネルはこれだな。
信司はそう結論づけると現地を中継している番組を眺めることにした。
「信司様、少しお聞きしたいことが」
「ん?」
信司がテレビから視線を外してミレーヌ達に向けると、テレビを見ていて何か気になることでもあったのか、信司を見ているミレーヌと目があった。テレビに映る景色が気になるのかフィオはテレビに釘付けになっている。
「そのニュース? を聞いた限り、この国以外にもたくさんの国があるような印象を受けたのですがこの世界にはどのくらいの数の国があるのですか?」
ルミルの庭にはコルトバ王国とザースガオド帝国の2カ国しかない。
「たしか今は196カ国だったかな。ルミルの庭のコルトバ王国とザースガオド帝国を入れると198カ国になる」
「そんなにあるのですか!?」
ミレーヌは衝撃のあまり声を上げる。2カ国しかないルミルの庭の人達からしたら196もの国家が乱立している世界なんて想像もつかないのかもしれない。ルミルの庭と地球ではそもそも世界の広さが全く異なるのだから仕方がない。
それにしても今日はミレーヌの驚いた顔がよく見れる。普段のミレーヌは冷静沈着でめったに驚いた顔なんて見せることがない。今回のレアなミレーヌの表情は脳内メモリーに保存するとしよう。
ミレーヌやフィオの驚いた顔を見て楽しそうに笑う信司であった。
「地球はルミルの庭よりも広いからなぁ、ルミルの庭はこの国より若干狭いくらいの面積だと思うぞ」
ミレーヌは絶句した。
コルトバ王国とザースガオド帝国はルミルの庭全土を治めているわけではない。両国の国土を合わせてもルミルの庭全体の半分にも満たない面積だろう。両国間の小競り合いや自国内の悪意ある者達との争い、未開拓地域での少数民族との戦闘などが原因で人口がなかなか増えず国土が広がらない。生活の糧も国外の土地に求めるのではなく、国内のダンジョンに潜ることで得ているため内向的になるのは必然であった。
故にこの国がルミルの庭よりも広い面積を持っている上にそれをどうやって維持・運営しているのか皆目見当もつかないミレーヌはその口を金魚のようにパクパクはさせることしか出来ていない。
魚化しているミレーヌを見た信司は何となくミレーヌの気持ちを察して口を開く。
「まぁ世界が違えば異なる部分を出てくるってことだな。むしろ似ている部分が多いことの方が多いことの方が驚くべきことだ。スライムのような生物しかいない世界だとか昼も夜もない世界だとか、俺達には想像も出来ないような世界だって存在するだろうし、融合しても生きていける環境で、何とか意志疎通出来る相手な分、不幸中の幸いとも言えるだろう」
世界融合を起こした奴らの思惑通りなんだろうけどな、と付け足す。
「フィオは信司様とすぐに会えて凄く嬉しかったのです! 信司様とすぐに合流出来たことが一番の幸運なのです!」
テレビを見ながらも話をしっかりと聞いていたフィオが信司の方へ顔を向けながら嬉しそうに言った。
「…ーそうですね、信司様と会えてなかったら地球の人達と話すのにも苦労していたでしょうし、現状の把握も出来ませんでした」
フィオの言葉でミレーヌは持ち直したようだった。私も信司様と出会えて安心出来ましたし……とボソボソと小声を漏らし、赤くなっているミレーヌの姿は気にしないようにする。
「俺も二人に会えて安心したよ。まさかうちの庭にいるとは思いもしなかったけどね」
誰だって自分の庭にルミルの庭の知り合いが移動してくるなんて思いもしないだろう。無駄に庭も広くなっちゃうし。
「えぇ、私も驚きました」
ミレーヌは口元に手をやると上品にくすりと笑う。
……いつもの調子に戻れたみたいだな。
ミレーヌは勇壮の風のサブマスターの一人だ。高い戦闘能力を持ちながらも頭脳明晰で普段は難しい内容の書類に判子を押し続けるような生活を送っている。そんな立場の彼女だからこそルミルの庭との違いを鮮明に感じてしまい動揺を隠せなかったのだろう。
元気なうちに思いつく範囲で驚いて固まってしまいそうな情報は伝えておいた方がいいかもしれないな。




