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第23話 懐中電灯と両親の話前編

 五分後、周囲から向けられる視線に気付いたのか、時間がないことを思い出したのか、信司は撫でることをやめた。陽菜はふらつきながら自分のソファーに戻り幸せそうな顔を浮かべる、これにて撫で撫でタイムは閉幕を告げた。アンコールの声は当然上がらなかった。

 常人であればどこか居心地の悪さを覚える静かな空気が漂う中、信司は特に気にした様子も見せず、懐中電灯をミレーヌ達に手渡す。

 突然懐中電灯を手渡されたミレーヌはそれを両手の上で転がしながら不思議そうに眺める。ルミルの庭では見たことがない形状をしていたためだ。

 これに一番近い形をしているのは水筒でしょうか。

 ミレーヌは形から水筒を想像した。


 「これは?」


 ミレーヌは手の平の上に転がる筒状の物体の感触からから材質を考えてみるが思い当たるものがなかった。それは隣で見ているフィオも同様のようで気になって仕方がないといった様子。だが信司からすればただのプラスチックである。


 「これは懐中電灯と言うんだ。持ち運びが出来る照明器具だな。側面の少し出っ張っている丸い部分を押すと電源の切り替えが出来る」


 信司の話を聞いたミレーヌは早速懐中電灯のスイッチを押した。


 「うっ!? 眩しいのです!」


 「あっ、ごめんフィオ」


 スイッチが入ると同時に複数のLEDライトによる強烈な光が、隣でLEDの部分を興味深そうに覗き込んでいたフィオの顔面に照射された。フィオは眩しそうに両目を閉じると左手で目元を隠した。ミレーヌはすぐに懐中電灯を逸らしてフィオに謝るが、左手を退かしてゆっくりと目を開けたフィオに恨めしそうに睨まれるのであった。


 「許さないのですよー」


 そう言うが早いか、フィオは申し訳なさそうにしているミレーヌから素早く懐中電灯を奪うとその矛先をミレーヌの顔へ向けたのだった。


 「えいっなのです」


 「うっ……」


 謝罪の意を示すためか、ミレーヌであれば光を当てられる前に目を閉じることが出来ただろうに、目を閉じずにLEDの光を浴びて呻き声を漏らした。ミレーヌが眩しそうにしながら目を閉じるのを確認したフィオは満足そうにミレーヌの顔から光を外すのだった。


 「それにしてもかなり強い光なのです。魔法を使わなくてもこんなことが出来るなんて科学はすごいのです」


 懐中電灯のスイッチを入れたり切ったりしながらフィオは感動の声を漏らした。

 少し古い型ではあるがLEDライトが九つも入っているためかなりの光量である。

 フィオの気も済んだようなので信司は話を先に進める。


 「さっきの話の続きになるけど、その懐中電灯も含めていろいろな物が科学によって作られている。この部屋を照らしている天井の照明だと説明するのが難しいから陽菜に懐中電灯を持ってきてもらったんだ。簡単に説明すると懐中電灯は電源スイッチと電流を流す役割を持っているバッテリーという部品、電気が流れると光を放つ部品で出来ている。細かいことを言うと流れる電流の強さを調整する機構も入っている。そういった仕組みで魔法みたいな現象を起こしているんだ」


 なるほど、とミレーヌとフィオは納得したように頷く。口で説明するだけだと想像するのが難しいが手元に実物があると理解しやすいだろう。

 科学についての説明はこんなところか? 


 「大体理解出来たみたいだな。他にもいろんな種類の道具があるから時間があるときにいろいろと探してみるのもいいだろう。科学といってもいろんな分野があってな、専門家じゃないと説明が難しいんだ。知識がない人でも簡単に扱えるように作られてるから使っていても細かい仕組みを知らない人も多い」


 信司だって細かいことは分かっていない。家電であればその家電の設計者やその手のマニアでもなければ詳しい原理の説明は出来ないだろう。


 「まずは状況が落ち着いてからですよね……。また今度いろいろと教えて欲しいのです」


 そうだな、と信司は頷く。

 地球の人達も心配だがルミルの庭の人達のことも心配だ。

 俺の感覚が間違っていなければルミルの庭という世界は地球に比べてかなり狭い。ゲームであれば広大と思えるような広さだが現実に当てはめてみると狭いと感じる。地球は球体だがルミルの庭は四角形の平面世界だから余計にそう感じるんだろうな。

 そんな世界が融合したとすると地球のどこかにルミルの庭の世界がくっ付いたという形ではないだろうか。例えば地球の一部に組み込まれるように平面世界が分散する形で融合したとか。実際ここにミレーヌ達がいるわけだし可能性は高そうだ。そうなるとルミルの庭の人達は世界中に散り散りに配置されたに違いない。この予想が合っていれば国や場所によってはとても危険だな。地球側の事態の沈静化とルミルの庭の人達の保護を急がなければならない。



 こちらの話が一旦落ち着いたところで父さんが口を開いた。どうやら母さんとの話し合いの方も大体固まったようだった。


 「話は終わったみたいだな。こっちも早く国に知らせて動いた方がいいことをママと纏めてみた。何か意見があれば言ってくれ」


 信司達は顔を見合わせると頷いた。


 「まずはダンジョンに対する注意喚起と警戒。信司達の話を聞く限り闇雲にダンジョンに関わったら死傷者が出そうだからな。怪しい場所や見知らぬ物があったら気をつけるってことだ」


 注意しても興味本位で近づく人は少なからず現れると予想されるがそれを少しでも減らすための処置か。国の方から注意を促せば多少は効果があるだろうな。


 「それでいいと思う。ただ漠然とダンジョンに気をつけろと言われても何をどう気をつければいいのか分からないだろうからダンジョンの判断方法も一緒に伝えた方がいいだろうね」


 「判断方法? 何か特徴的な物でもあるのかしら?」


 「大抵のダンジョンの入口にはモニュメントがあるのです。たまはモニュメントがないダンジョンもあるのですがかなり少ないのです」


 人間用の大きさとは思えないほどの巨大な門であったり、最早意味を成さないほど小さな扉であったり、いつ作られたのか想像できないほど古びた石碑など、その形状は多岐にわたる。何を狙っているのかさっぱり分からない奇抜な格好の石像や形容しがたい形の謎の物体といった意味の分からないものもある。


 「ダンジョンの種類は大まかに三つに分けられます。一つ目は開放(オープン)型、一定範囲の空間がダンジョン化したものです。ダンジョンにとっての入口にモニュメントがあるのですが入口以外の場所からも入れることも多いため気付かずに迷い込むこともあるダンジョンです。二つ目は閉鎖(クローズ)型、モニュメントのみがポツンと置かれているダンジョンで、モニュメントを通じて別空間に存在するダンジョンに移動するタイプのものです。三つ目は複合(ハーフ)型、開放(オープン)型と閉鎖(クローズ)型を合わせたようなタイプのダンジョンです。このタイプのダンジョンは難易度が高いものが多いのが特徴ですね」


 ルミルの庭ではダンジョンの種類はその三つだった。地球と融合した影響で変化した可能性もあるが現状ではひとまずその三種類を基準にして考えるしかないだろう。


 「そうか……じゃあそれも伝えることにしよう。モニュメントに注意するように言っておく。開放(オープン)型とやらが厄介だな、モニュメントを見落として入っちまう奴らがかなり出そうだ。気付かずにダンジョンに入ったとして何か他にそこがダンジョン内だと気付けるような特徴はないのか?」


 「……魔力を感じられれば、ダンジョン内の空気中の魔力は濃いので気付けると思うのです」


 「でも地球の人達はみんなレベル1なんですよね? 今まで魔力や魔法に触れることがなかったということも踏まえると……魔法系のclassになった人で感覚の鋭い人くらいしか魔力を感じ取れないのではないかと……」


 どうしようもないな。ダンジョンを警戒していても気付かずに侵入してしまう可能性はどうしても残る。それに魔物暴走(スタンピード)対策のためにもダンジョンの分布調査は急務だ。……多少の犠牲は覚悟するしかないか。


 「モニュメントを見逃さないように気をつける、身の危険を感じたらすぐに逃げる。それしかなさそうね……」


 母さんの言葉にミレーヌとフィオが頷いた。

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