第1話 地震?
初予約投稿です。
世界が揺れたとしか表現出来なかった。
突如として強い揺れが俺たちを襲った。地震と同じ様に地面が揺れている。家全体が悲鳴を上げ家具が今にも倒れそうな勢いで揺れていた。
「くっ!」
俺は咄嗟に光と陽菜の腕を引っ張ると食卓の下へと押し込んだ。光が洗っていた皿が床に落ちて割れるが構っている場合ではない。
「お兄ちゃん!」
「お兄様!」
二人が俺を食卓の下へと引っ張ろうとする。
「俺は大丈夫だ! 二人は絶対に下から出るなよ!」
食卓は五人分の料理を載せる大きさこそあるが人が避難するにはいささかサイズが足りない。そこに人間が二人入ったのだ、とても三人目を受け入れる余裕はない。無理やり潜り込んだとしても誰かの身体が食卓からはみ出るだろう。それで妹達に怪我をさせるわけにはいかない。
二人の頭は悪くない。光は周りを見回して、陽菜は俺の気持ちを察して動きを止める。悔しそうな顔をしながら手を引っ込めると食卓の下で身を寄せ合った。
父さんと母さんは?
妹達に気をやっていて両親のことが頭から抜けていた。廊下を歩いていた両親へ視線をを向けると二人とも腰を落として身構えていた。いつでも咄嗟に動ける体勢をとっているようだ。俺も腰を落として身構える。
地震はまだ続いている。……空気も揺れている。何を言っているんだと思うかもしれないがそうとしか言いようがない。俺には目の前の景色が揺れているように見えるのだ。地面が揺れているから景色も揺れているように見えるわけではない。地面の揺れとは別に空気も揺らめいているのだ。少し遠く……両親の屈んでいる場所のさらに奥……廊下の突き当たりまで目を凝らすと陽炎が立ち上っているかのように揺らいでいた。
明らかに地震ではない。そもそも渡里家の建っているこの土地では滅多に地震が起こらない。あったとしても年に数回それも震度2程度だ。今感じている揺れは震度1や2程度の物ではない。とてもではないが立っていられない強さの揺れである。この揺れは一体なんなんだ。
一分は経ったであろうか……未だに揺れは収まることなく続いている。幸いなことに今の所、目に見える範囲で被害はない。家具は揺れているがギリギリ倒れていない。父さんと母さん、妹達も勿論無事だ。父さんと母さんもこの揺れの異常について考えているのか難しい顔をしていた。妹達は不安そうにこちらを見ている。
二分……三分……五分は経ったであろうか? やっと揺れが収まり始めた。揺れが収まってもみんなしばらくの間動かなかった。
「お、お兄ちゃん、……もう大丈夫かな?」
光が食卓の下から問いかける。
「……分からないが……たぶん。これは地震じゃないだろうから確実に大丈夫とは言えないな」
「地震じゃない……」
光もそう感じていたのか何かを考えるように俯いた。
「お兄様……これ……」
陽菜がスマホのニュース速報をページを開いていた。陽菜は訳が分からないといった顔をしてこちらにスマホを向けていた。
「……は?」
そこには全世界で謎の振動が観測されたと書かれていた。
震源地不明、震度5強相当の揺れが全世界で確認された。地震ではなく空間が揺れているような感覚だという。原因不明、再発の可能性を不明のため緊急避難勧告が出ているようだ。地震ではなかったためスマホの地震アラームがならなかったみたいだ。どの場所も均等な強さの揺れが観測されたため遮蔽物のない広い空間か耐震補強のされた避難施設への避難が推奨されている。都市部は大混乱のようだった。
とりあえず俺たちも避難した方がよさそうだ。
「父さん、母さん、とりあえず避難しようか。」
「……そうだな。揺れが収まってる今のうちに急いで避難した方がよさそうだ」
「その方がいいわね」
「光、陽菜、行くよ」
「う、うん」
俺は二人の手を引いて食卓の下から引っ張り出す。たしか避難用の荷物は庭の地下収納スペースにしまってあったはずだ。外に出たときに持って行けば大丈夫だろう。俺たち家族は一列になると玄関へと向かって慎重に進み始めた。