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第15話 ミレーヌ・アリアルス後編

 それからしばらくは騒がしい毎日だった。キャンプ場の喧騒はもちろんのことそれに立ち寄る冒険者や周辺の住人達もそれに加わる。静かな場所だったこともこの場所を拠点に選んだ理由だったのでこの騒がしさは頭の痛い問題である。

 そんなある日普段とは違う騒がしさを感じて窓からキャンプ場へと視線を向ける。勇壮の風(ヴァリアントガスト)の人達とこの近辺に住んでいる住人達が何やら揉めているようだ。聞き耳を立ててみるとどうやら盗難事件が発生しているらしい。盗まれた品の種類は様々だがどれも売ると良い値段になる品ばかりだった。このままにしておくとさらに騒がしくなりそうだったので俺は犯人探しをすることにした。この騒ぎならきっと犯人探しのクエストでも貼られているだろう。

 勇壮の風(ヴァリアントガスト)のキャンプ場に向かうと犯人探しのクエストがクエスト掲示板に貼られていたので受注して早速犯人探しへ向かうことにした。周辺の住人への聞き込みを行ってみるとどうやら犯人は持ち主が目を逸らしたほんの僅かな間に窃盗を行っているようだった。対象が寝ている時や離れている時のような隙を狙うのではなく、わざわざ警戒している最中を狙って窃盗を行っている……愉快犯か?

 その妙な窃盗タイミングのせいで犯人に繋がる証拠が未だ見つかっていない。窃盗手段は不明、分かっているのは金目のものが狙われており本人が意識している最中に盗られるということのみ。現状では有効な手が打てない。とにかく窃盗の瞬間を実際に確認してみるしかないだろう。

 そう考えた俺はキャンプ場全体を見渡せる場所をいくつか探し出しそこから見張ることにした。一定時間おきに場所を変えて監視を続ける。二、三日それを続けているとふと何者かの気配を感じた。犯人かと思いその気配を辿ろうとするとすぐに気配は四散してしまい感じ取れなくなってしまった。この反応は黒と見ても良いだろう。気配の現れ方と消え方から犯人は隠密スキルを使っていると思われる。しかし気配を察知されてから消すまでがかなり早い、相当な手練れかもしれない。

 それからは気配を察知してはすぐに向かい犯人を探すという作業を繰り返す時間が続く。一度気配を感じてからは短い間隔で気配を察知することが出来た。相手の気配を覚えたので徐々に追い詰めていけそうだ。

 どうやら相手もこちらの動きに気付いてわざと気配を放って俺と遊んでいるつもりのようだな。残念だがその遊びに付き合ってやる時間は残っていない。犯人と思わしき気配との鬼ごっこは既に詰んでいる。捕まえられるわけがないとこちらを侮っているのか犯人の移動経路に一定の法則が見受けられる。この次の移動先は既に予想済みだ。俺は先程まで犯人と思わしき気配のいたポイントに着くと今度は気配が現れる前に移動を開始する。これで終わりだな。俺は予想されるポイントへと向かい、ポイント手前の曲がり角を曲がる。


 「止まりなさい、そこの泥棒!」


 ポイントに辿り着くと別のルートから来たであろう怪しげな格好の男と俺は鉢合わせした。厚手の茶色のローブを着た痩せ形の体系で挙動不審な見るからに怪しい男だ、その男から感じられる気配からもこいつが犯人で間違いないだろう。俺の格好も黒いローブなのであまり人のことを言えないがそれは棚に上げておく。

 しかし、どうやら俺は一歩遅かったようだ。犯人探しのクエストを受けた同業者か、すぐ隣の建物の上から少女の声が響いた。俺と犯人の位置からは少女の姿は逆光で確認することが出来ない。建物の上から少女が飛び降りる気配がすると俺と犯人の後ろ側と呼べる位置に着地する。犯人は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべている。逃げようとしても移動速度で俺に劣る犯人は逃げ切れない、戦おうにも背後をとっている少女とすぐ隣にいる俺を相手にして勝てる見込みは薄いだろう。

 さてこれで犯人も捕まり少しは静かになるはずだ。少しは……だが……。


 「聖なる拘束(ホーリーバインド)!」


 犯人はその魔法に唖然とした。

 短縮詠唱の光属性の拘束魔法か。発動速度、魔法強度どちらも相手を捕らえるには申し分ない練度だ。これをかけられた相手は簡単には逃げられないだろう。この少女もなかなかのやり手だな。俺は魔法をかけた少女の方へゆっくりと体を向ける。


 「……俺は泥棒じゃないぞ?」


 拘束魔法をかけられた俺を置いて悠々と走り去っていく犯人の足音を聞きながら俺は少女に話しかけた。

 それがミレーヌとの初めての出会いだった。



 俺はミレーヌの質問へ答えると笑いかける。


 「いやぁあの時はほんとびっくりしたよ、まさか犯人じゃなくて俺を捕まえるとは思わなかった」


 ミレーヌはようやく俺のことを三日月(クレセント)だと悟ったのか顔を赤くしながらぷるぷると震え始めた。彼女の尻尾は自分の身体にぴったりと張り付いている。


 「ほ、本当に三日月(クレセント)様なのですか? あの時は本当に申し訳ありませんでした……」


 ミレーヌは赤い顔のまま目尻に涙を溜めながら頭を下げた。


 「同じ犯人を追いかける同業者じゃなくて、犯人を追いかけて移動している俺を感知して犯人だと思って追いかけるなんてさすがに思いつかなかったよ。しかも犯人を捕まえようと動いたポイントが同じ場所になるなんてね」


 ミレーヌは首が取れそうな勢いで頭を下げまくった。


 「あ、あのときはキャンプ場の責任者に任命されて間もなかったのでいろいろと余裕がなくてですね……。あまり、い、虐めないでください……」


 ミレーヌは顔を真っ赤にして後ろを向いてしゃがみ込んでしまった……。たしかに当時のミレーヌは張り切りすぎて空回ってる部分もあったからなぁ。


 「ごめん、ごめん、ミレーヌ。この話は終わりにしよう」


 俺はしゃがみ込んでいるミレーヌの手を取って引っ張り上げるように立ち上がらせる。


 「は、はぃ……」


 ミレーヌを弄るのはやめるけど脳内であのあとどうなったかを回想する。ミレーヌが落ち着くまで少し待ってあげよう。



 あの後、俺はミレーヌに拘束され犯人ではないと弁解するも信じてもらえずキャンプ場に連行された。キャンプ場でさらに強固に拘束されると取り調べが始まったのだがすぐにあの犯人がまた窃盗を始めたため中断されることになる。捕まりそうになった直後にまた窃盗を始めた犯人は頭がおかしいと思う。釈放されるかと思いきや所属ギルドを明かさなかったため怪しいということでそのままキャンプ場の牢屋に転がされそうになった。それは困るので犯人確保を手伝うという交渉をしてミレーヌと街中を走り回ることになったのだった。

 犯人は捕まりそうになった教訓を生かして気配を完全に遮断していた。隠密スキルを保持していたことは分かっていたがそこまで高レベルだったとは思っていなかったため、なかなか気配を掴めなかったがミレーヌが犯人の匂いを覚えていたため気配を消されても追跡する事が出来た。

 しかし、追い詰めたはいいがこの犯人、盗んだ高価なアイテムを隠し場所から集めて装備していたためかなりの強さになっていた。ミレーヌは奮闘するが殺されかけてしまう。俺は周囲に他の人の気配がないこと確認すると本来の実力を出して犯人を無力化するがそれが原因でミレーヌに正体が割れてしまった。それがミレーヌが俺と関わりを持った原因である。



 実はこの話はミレーヌの中ではトラウマになっている。そんな話を質問にするとは本当にミレーヌは三日月(クレセント)の偽物を許せないようだ。


 「あぁ、そうだ。こちらの世界では渡里信司という名前で生活している。ステータスを閲覧すれば分かると思うけどプレイヤーデータの名前が渡里信司になっているからこれからは信司って呼んでくれると嬉しいな」


 「……確かにお名前が渡里信司様となっていますね。ではこれからは三日月(クレセント)様改め信司様と呼ばせていただきます」


 やっと落ち着いてきたミレーヌは姿勢を整えると再び頭を下げた。今度のお辞儀は先程のよりも丁寧だった。


 「じゃあ俺はいつも通りにミレーヌって呼ぶね。あ、あとフレンドとかギルドとか全部リセットされてるからまずはフレンド申請してもいいかな?」


 と聞きながらミレーヌにフレンド申請を飛ばしておく。


 「そうなのですか……フレンド申請許可しました。それで信司様のステータスはレベル1になってしまっているのですね」


 「許可ありがと。そうなんだよ……かなり弱くなってるんだよね……まぁそのうち何とかするかな」


 「ふふふっ、さすが信司様です。具体的な方法を言わなくても本当に何とかしてしまいそうな気がしてきますよ」


 ミレーヌは片手を口元に当て上品に笑っていた。いつもの彼女に戻ってきたようだった。


 「それにしてもやはり現状がよく分かりません。まずは落ち着いたところで情報交換をしませんか?」


 「そうだな。情報交換をすれば少しは現状が把握出来るかもしれない。とりあえず居間に来てもらおうかな。あまり綺麗な家ではないけど遠慮なく上がってくれ。奥に俺の家族もいるから紹介するよ」


 「いえいえ、とても立派な家だと思いますよ。信司様のご家族ですか……失礼のないようにないと……。お邪魔します」


 ミレーヌは急に身嗜みを整えだした。なぜかやけに張り切っているが俺は気にしないことにする。身嗜みを整えたミレーヌが扉を跨いで家の中に入ってくるとその後ろから黒い影が飛び込んできた。

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