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第14話 ミレーヌ・アリアルス前編

申し訳ありません。

投稿が1時間遅れました。

 扉を開けてみるとそこに立っていたのは猫耳の少女だった。クリッとした大きな黒い瞳に肩に掛かるくらいの長さの柔らかそうな黒髪、ピクッと敏感に動く黒い耳、背中に隠れて揺れ動いている黒い尻尾、服装は黒を基調としたメイド服だった。黒猫が人型になったような姿をしていた。つり目で鋭い視線を向ける彼女の瞳は屋内で飼い慣らされた飼い猫の雰囲気ではなく、屋外の世界で生きてきたかのような野性的な雰囲気を帯びている。

 やや不機嫌そうな顔をしている彼女の姿は俺の記憶のページに記述されていた。そう昨日の夜にも会っていた記憶がある。


 「……ミレーヌ?」


 おそらく合ってるであろう彼女の名前を呼ぶと彼女の身体がビクッ震えた。彼女から感じられる気配がさらに鋭くなる。さらに警戒を強めてしまったようだ……。


 「……なぜ私の名前を知っているのですか?」


 言語理解スキルのレベルが上がった、言語理解Lv9→10。


 おっ? 言語理解スキルのレベルが10になったみたいだ。これで難しい言葉じゃなければ殆どの言葉が分かるはずだ。

 ミレーヌは信司を睨みつけるようにして尋ねた。

 あぁそっか、今の俺の姿はルミルの庭での姿とは違うから分からないのか。たしかにあちらではお任せで適当な容姿に設定していたからなぁ、現実の見た目とは違う。

 ルミルの庭ではゲームスタート前に性別や見た目、声などの初期設定を行う。ゲームにはよくあるプレイヤーキャラクターのエディット部分だ。俺はその時の設定時に性別と声は現実のままにして容姿をお任せで設定した。見た目はせっかくだし変えようと思ったのだ。しかし、いざ設定画面に移ると設定出来る項目がかなり多かったので面倒になり諦めた。そして悪くなさそうな容姿になるまでお任せで適当に設定したのである。


 「あぁーえぇーっと三日月(クレセント)なんだけど……分かる? 声は同じはずなんだけど……」


 三日月(クレセント)とはルミルの庭での俺の名前だ。

 三日月(クレセント)の名前を出すととミレーヌの気配が徐々に刺々しくなった。


 「……たしかに三日月(クレセント)様の声と同じだと思いますが……とても三日月(クレセント)様のステータスとは思えません。三日月(クレセント)様の名を語るならもし偽っていた場合はどうなるか分かっているのでしょうね?」


 さすがはミレーヌ。うちの家族と違って既に基礎が出来ている。初めて出会った人にはすぐに閲覧をかけて情報収集を行う。もし閲覧を覚えていたら身につけておいて欲しい行動である。今の俺がミレーヌに閲覧をかけてもレベル差と隠蔽スキルの影響でステータスを見られないと思うので俺は閲覧をかけない。

 ミレーヌの右手がゆっくりとポケットに向かっていく。少しでも怪しい動きをすればミレーヌの主武器の銀の短剣(シルバーダガー)が飛んできそうな雰囲気だ。


 「ちょっストップ! ストップ! 銀の短剣(シルバーダガー)は投げないでくれ。そんなことを言われても本人だと証明出来る物が声くらいしかないんだからどうしようもない」


 ポケットに向かっていた右手が銀の短剣(シルバーダガー)と聞いて止まる。初対面でミレーヌの武器の場所と名前を知っているのはおかしい。そこに気付いてくれたみたいだ。


 「……たしかに現在の状態に対して私達もほぼ何も把握できていないのが現状です。この建物に住んでいる人達に何か知っていることはないかと訪れた私がいきなり住人に襲いかかるのはナンセンスですね。そうですね……ではいくつか質問しますので答えていただいてもいいですか?その内容次第で三日月(クレセント)様かどうか判断させてもらおうと思います」


 ひとまず危機を脱することが出来たようだ。


 「OKだ。分かる範囲で答えさせてもらう」


 「では行きます」


 頼むから覚えてることか分かることを聞いてきてくれよ……。ミレーヌはワンテンポ置いてから質問をしてきた。


 「三日月(クレセント)様が昨日クリアしたクエストは?」


 「ユニークモンスター三眼の銀兎シュヅハの討伐、銀霊人参50個納品、Aランクギルド誓いの剣(ソードプロミス)の救援だったかな?」


 「……正解です。まさか本当に三日月(クレセント)様? いえそんなはずは……そもそもあれは夢のはず……」


 ミレーヌの口から夢という単語が零れる。夢? 一体どういう意味だ? 


 「ミレーヌ、夢っていうのはどういう──」


 「いえまだ三日月(クレセント)様ご本人だと信じるわけにはいきません! 私達にとって三日月(クレセント)様はとても大切なお方なのですから」


 大切なお方だなんて……ミレーヌはなかなか嬉しいことを言ってくれる。ミレーヌの黒い尻尾が後ろでやや丸まっている。まだ緊張している尻尾の動きである。

 ミレーヌは信司の言葉を遮ると次の質問を投げかけた。


 「では次の質問です。三日月(クレセント)様と私が初めて出会った場所はどこですか? またその時私に最初にかけた言葉はどんな内容でしたか?」


 難しい質問だ……。ミレーヌと初めて出会ったのは叡智の霧森(ウィズダム)のキャンプ場なんだけどその時なんて言葉をかけたのか……。俺は思い出そうと記憶を遡る。


 「……」


 「……分からないようですね。昨日のことでしたら盗聴するかそのことを知っているギルドの人に聞けば分かることですが、これはそれなりに昔のことでしかも調べていない可能性が高いの私のことです。さすがに分からないでしょう? さて、三日月(クレセント)様の名を語った罪、しっかりと払ってもらいましょうか」


 しばらく経っても答えを返さない信司に冷めた声でそう告げるとミレーヌの右手は再びポケットへと向かう。

 やばいやばい! ん? そう言えば最初のころにもこんな風に怪しまれたことがあったような……あっ!


 「待て待て! 思い出した! 思い出したから! 初めて出会った場所は叡智の霧森(ウィズダム)のキャンプ場で最初にかけた言葉というか答えた言葉は、俺は泥棒じゃないぞ? だ」



 そう、ミレーヌとの初めての出会いは泥棒と勘違いされるところから始まった。当時叡智の霧森(ウィズダム)がまだ無かった頃から俺の所属するギルドの拠点は辺境都市メドスの外れにあった。その場所はメドスの中でも寂れている区画であり賑やかな中心部と比べるとその差は歴然で住んでいる住人の数は十倍以上の開きがあった。しかし街道整備のお陰である程度の道幅はあり、建物同士の間隔も広めに配置されていたので見た目は整っていた。中心部からかなり離れていることと住人達の少し特殊な気質を除けば比較的住みやすい場所と言えた。もちろん物資の流れは整っているし付近にある各店舗の商品の品揃えも豊富である。俺はそんな場所の中でも比較的広い空間に接している建物をギルドの拠点にして生活していたのだ。

 そんなある日に叡智の霧森(ウィズダム)が唐突に出現。俺のギルドの拠点がある目の前の広場、見晴らしの良さが気に入っていた広場に……。

 叡智の霧森(ウィズダム)は突如出現した謎のダンジョンで当時は名前すら分からなかった。ダンジョンの外部からダンジョン調査の専門家が調査を行ったがあまりにダンジョンの難易度が高過ぎるのか調査は難航した。だがそこは流石専門家と言うべきか、しばらく経つとダンジョンについてある程度のことが分かってきた。類似したタイプのないダンジョンだったことが調査が遅れた原因だろう。ダンジョン名は叡智の霧森(ウィズダム)、その難易度は★7、一度に入れるPTは1組のみでメンバー数は4人以下、さらにリポップ速度上昇(極大)、レベルリセットという制限と効果がついていた。

 それは今まで見つかっているダンジョンの中でさえ確認されたことのない厄介な特徴を持った圧倒的な難易度を誇るダンジョンであった。今まで難易度★7のダンジョンは見つかっていなかった。ダンジョンが発見されてから挑んだ冒険者は何人かいたがレベルリセットの効果によりいくらレベルの高い人でもダンジョンに入るとレベルが1にされてしまう。ダンジョンからすぐに脱出してもレベルは1のままで戻ることはない。その難易度と厄介な特徴の影響で挑む者は段々といなくなっていった。それが叡智の霧森(ウィズダム)である。

 さらにそれからしばらく後にこのダンジョンが現れた原因が判明する。龍神の山塔(ドラゴンタワー)をクリアしたPTがいた。それが原因だった。龍神の山塔(ドラゴンタワー)は氷に閉ざされた最北に地にて、天まで届くような高さを持った山のような大きさの塔で難易度★6のダンジョンである。まずそこまで辿り着くことも困難なのだがそのダンジョンは龍種が跋扈する最凶と噂されているダンジョンで、まだクリアした者がいないダンジョンであった。NPC達の話を信じるならばそのダンジョンこそがギルドが発足された原因でありダンジョンの生まれた大元なのだそうだ。Sランクギルド閃光の勇者達(ホーリーブレイバー)が秘密裏に龍神の山塔(ドラゴンタワー)の攻略作戦を実行していたらしく彼らのギルドのPTの一つが龍神の山塔(ドラゴンタワー)のダンジョンマスターを討伐したそうだ。どうやらその直後に叡智の霧森(ウィズダム)が現れたとのことだった。その因果関係は龍神の山塔(ドラゴンタワー)をクリアしたPTがEDのような物を見たとのことで龍神の山塔(ドラゴンタワー)はラストダンジョンで叡智の霧森(ウィズダム)はクリア後に現れるエクストラダンジョンなのではないかということだ。

 話を戻そう、それで大多数の勇気ある者達は叡智の霧森(ウィズダム)ではなく龍神の山塔(ドラゴンタワー)へと流れさらに叡智の霧森(ウィズダム)の近辺は寂れることになる。しかしそのダンジョンの危険性……街の中にあるダンジョンということから放っておくことは出来ず、監視と管理を行うことになった。そこでメドスの勇壮の風(ヴァリアントガスト)支部の責任者で実力的にも申し分ない彼女が監視役として選ばれることになり叡智の霧森(ウィズダム)のキャンプ場の責任者に任命された。空席となるメドスの勇壮の風(ヴァリアントガスト)支部の責任者には本部から別の人が派遣され、ミレーヌは引き継ぎの作業を終えてキャンプ場へ向かった。

 叡智の霧森(ウィズダム)が出現してから俺のギルドの活動はやりにくくなっていた。それはそうだろう目の前にダンジョンがあるのだ。少ないとはいえダンジョンを目当てにした人達が拠点のすぐ近くを彷徨っている。そんな中でリラックスして過ごすことは難しい。それでもそのうち落ち着くだろうと考えて過ごしていたら予想通り徐々に人足が減ってきた。これでようやく落ち着いて過ごせると思った矢先に勇壮の風(ヴァリアントガスト)の人達がぞろぞろとやってきてダンジョンの周りにキャンプ場を作り始めた。

 おい、まじかよ、勘弁してくれ。

 せっかく静かになると思っていたのに台無しだった。俺は大きな溜め息をつくと今後のことを考え東の空(壁)を見上げるのであった。

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