第9話 感覚式操作法
居間に戻ると光がいるため陽菜はすぐに手を離して自分の席に着いた。俺も自分の席に着くとちょうど父さんと母さんが居間に入って来たところだった。その手には今日二人が帰ってきたときに身につけていたウェストポーチが握られている。
さて、父さんと母さんも席についたので続きを始めるとしよう。
「みんなそのウェストポーチでいいかな? さっきの説明だと指定してくださいって言ってたけどやり方が分からないよね? その説明の前に覚えて欲しいことがあるから説明するよ。さっきクエスト表示とステータス表示の画面を見てもらったけど大きく分けてあれ以外にも7種類の画面があるんだ。それらはステータスメニューって呼ばれている。ステータスメニューはステータス、アビリティー、スキル、アイテム、装備、クエスト、PT、ギルド、コミュニケーションで構成されている。……ここまではいい?」
父さんがだんだん難しい顔になり始めたので一旦説明を止めてみんなが理解出来ているか確認する。
「……な、なんとか大丈夫だ」
苦虫を噛み潰したような顔で大丈夫と言われても説得力がない。光、陽菜、母さんはこちらを見て頷いているので大丈夫そうだ。最悪の場合父さんが行動するときは母さんに一緒にいてもらえばいいか……夫婦だし。
「……じゃあ説明を続けるよ。まず覚えて欲しいのはステータスメニュー表示。これを唱えると九角形の画面が表示される。これがステータスメニュー。みんな唱えてみて」
全員がきちんと唱え終えるのを待ち、みんなの視線がステータスメニューに移っているかを確認する。初期設定の画面表示位置は視界の中央やや上あたりだ。全員のステータスメニュー表示がされているのか視線で確認すると俺もステータスメニューを表示して説明を再開した。
「さっき説明した九項目が表示されてると思う。それぞれ表示と唱えると対応した画面が表示される。クエスト表示とステータス表示はその中の二つだね。細かいことを説明すると頭がパンクすると思うから基本的に何かあったらそれに一番関係していそうな画面を呼び出せば操作出来るって覚えればいいよ。例えばclass選択はステータス画面、これから始めるアイテムボックスの設定はアイテム画面とかだ」
なるほど……と陽菜が頷いた。
「次にアイテムボックスの設定にも関わってくる話なんだけど、今までみんなに表示って声に出して画面を表示してもらっていたけど声に出さずに画面を表示してもらう」
「……あっ、そう言えばお兄ちゃんは声に出してないのに閲覧っていうスキルを使ってた」
はっとした様子で光が顔を俺に向ける。今の話だけで光は気付いたようだ。
「あぁ、そうだ。スキルを使うのもそうだけどこのシステムは意思次第である程度自由に動かすことが出来る。そしてそれが出来ないとまともに戦うことが出来ない」
「たしかにそうね……声を出して表示しつつ戦いながら操作するなんて出来ないものね。狙ってくれと言わんばかりだわ」
「そういうこと。最初のうちはそれでもなんとかなるかもしれないけど相手が強くなってくるととてもじゃないがまともに戦っていられなくなる。ましてやこれはもうゲームではなく現実、死に直結すると言っても過言じゃない」
「……」
その発言で居間に静寂に訪れる。ちょっと脅かし過ぎたか? ……いやでもこれは重要なことだ、きっちり詰めていくことにしよう。
「じゃあ試しにアイテム画面を表示してもらおうかな。表示出来たら自分のウェストポーチをアイテムボックスに設定してもらう。それも口頭で言わずにやってみて」
四人とも何とか表示させようと唸り始めた。コツさえ掴めばすぐに出来るようになるからなんとかこの時点で出来るようになってもらいたい。
ルミルの庭ではダンジョンに入らなければモンスターに襲われなかったが現実と混ざってしまった現状ではどこまで何が変わってしまっているか分からない。既に見たことのないレア度やアビリティーが見つかっていることを考えると用心するに越したことはないだろう。急にモンスターに襲われたりでもしたら目も当てられないからな。
俺は先にアイテムボックスの設定を済ませておくことにした。
まずアイテム画面を開く。青いウェストポーチがアイテムボックスに入っていたので選択しアイテムボックスの媒体として設定した。これでマイウェストポーチはアイテムボックスになった。アイテムボックスの容量を確認すると40と書かれていた。
やっぱりリュックと比べると少ないなぁ……でもまぁウェストポーチだから仕方ないか。設定し終わったので腰に装備しておくことにする。
「アイテムボックスの設定を確認しました。簡易チュートリアルの達成報酬はあなたが設定されたアイテムボックスの中へ移動させてもらいました。アイテムボックスに設定した媒体は肌身離さず身に付けておくことをオススメします。これで重要な初期設定は完了となります。続けてステータスメニューの説明に移らせてもらいます。ステータスメニュー画面を表示してください」
チュートリアルの案内はひとまず放置してみんなの様子を見る。すると光と陽菜の視線が中央やや上辺りに向かっていたのできちんと表示出来たようだった。
光と陽菜は安心だな。父さんと母さんはまだ唸っていたので出来てないみたいだ。
「父さん母さん、そんなに難しく考えなくても大丈夫だよ。こうしたい、ああしたいって念じれば表示出来る。最初は心の中で表示とか唱えて表示させてもいいし、口に出さずに表示出来ればなんとなくコツが分かると思う」
光と陽菜も設定が終わったのかウェストポーチを腰に付けていた。
「あっ、表示出来たわ。今度はウェストポーチを選んでアイテムボックスに設定すればいいのね?」
母さんもなんとか表示させることが出来たようだ。あとは一番怪しい父さんだな。
「そそ、アイテムを選択してアイテムボックスに設定すればOK。アイテムボックスに設定するとアイテムボックスからは消えるけど気にしなくても大丈夫。」
少しすると母さんはちゃんとアイテムボックスの設定を終えられたようでウェストポーチを腰に付けていた。さて問題の父さんだが……。
「ふぅ、一回出来るとあとは大体なんとかなるわね。パパ?難しい?」
母さんが心配そうな表情を浮かべる。そんな中、父さんは顔を赤くしながら唸っていた。そんなに力を込めなくてもいいんだけど……。
「お父さん、考えるより感覚でこう……画面出ろ! みたいな感じで出るよ」
光の表示方法が少し心配になった。今の説明で出来たら苦労はない。
「う゛ぅーん……おっ出来たぞ!」
「パパやったわね!」
えっ? 今の説明で分かるのか……。光と父さんの感性は似ているのかもしれない。
何はともあれ父さんもなんとか出来たようだ。母さんが嬉しそうな表情を浮かべ父さんに抱きついている。それを見た光と陽菜が物欲しげな目でこちらを見つめてきた。……二人の視線に負けた俺は頭を撫でてあげるのだった。




