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プロローグ

初投稿です。

至らない点が多々あると思いますが生暖かい目で見守ってくれると幸いです。


プロローグは少し長いです。


※新規読者の方へ

この作品は話の展開が遅いです。それに伴い冗長と感じる可能性があります。サクサク読みたい方、説明が多いのが苦手な方にはオススメ出来ません。

 「お疲れ様でしたー! お先に失礼します!」


 金曜日、時刻は夕方、仕事が終わったので帰宅の準備をしてから店を出る。


 「あ、信司君少し待って」


 店先まで出たところで斎藤のおばさんに呼び止められる。振り返ってみると斎藤のおばさんが慌てて店の奥から出てくるところだった。


 「はい、信司君、これ持って帰って妹さんたちと一緒に食べてね」


 「えっ? いや悪いですよ、こんなにたくさん受け取れません」


 斎藤のおばさんはずっしりとした重さのダンボール箱を渡してくる。とっさに受け取ってしまった俺は対応に困った。


 「いいのよー、昨日今日と頑張ってもらったし。これで精をつけて月曜日も頑張ってもらわないとだからねぇ」


 斎藤のおばさんが笑顔でバシバシと背中を叩く。かなり痛い……。日頃の業務で鍛えられたおばさんの腕は逞しすぎた。申し訳ないのでなんとか返そうと振り向こうとするが力強い腕で押されとても振り返る隙はなかった。


 「信司君お疲れ様ー! また来週もよろしく頼むねー」


 斎藤のおばさんは有無を言わさず俺を押し出すと笑顔で手を振っていた。どうにも返品できそうにない。


「すみません、それでは申し訳ないですがいただきますね、また来週から頑張ります!」


 こちらも笑顔でおばさんへ手を振り返す。おばさんが店の中へ戻るのを確認すると手を振るのをやめて前を向き歩き始めた。斎藤さんの優しさが心に染みる。他の商店街の人もみんな優しい人ばかりだ。



 これで今日のバイトも終了。俺は渡里信司21歳、この商店街でバイトをして生計を立てている。日によってバイトをする店は違うが昨日今日、そして来週の月曜日は斎藤さんの肉屋でバイトをすることになっている。普通は定職に就いて働くべきなのだろうが俺にはとある事情がありそれが難しかった。とはいえ働かない訳にもいかずバイトをして生活をしている。商店街は自宅から徒歩五分と非常に近いためとても生活しやすい。バイトをしてから買い物をして帰ることも出来るためとても助かっている。

 今現在我が家の冷蔵庫には肉類がない。昨日の夕食で使い切ってしまったのだ。そのため今朝の朝食はとてもベジタブルであった。とても健康的だがやはり少々物足りないものである。美肌になったらどうしよう。

 斎藤さんから受け取ったダンボール箱の中身を確認してみるとやはりたくさんの肉類が入っていた。とても申し訳ない。仕事が終わってから豚肉と牛肉を買ってあったのだが……この量ではしばらく冷蔵庫が肉と野菜に占拠されることになるだろうな。さて、今日の夕食は何にするべきか……早めにこの肉の山を消費しないと腐らせてしまう……この量だと焼肉しかないか。



 肉類の消費方法のことを考えていると自宅に着いた。我が家は庭付き二階建ての一軒家である。そこそこ広い庭をあまり使いこなせていないため少々物悲しいことになっているのが残念だ。一応野菜を植えてはあるのだが家庭菜園程度の物でそこまでしっかりとはしていない。庭の周りは三メートルほどの塀で囲まれていて正面以外から入るのはなかなか難しい作りとなっている。敷地の入口に広い庭その奥に家、家の裏手には倉庫が二つほど並んでいる。庭はそのうち時間がある時になんとかしたいと思っている。

 玄関に着いたので荷物の中から鍵を取り出し扉を開けた。


 「ただいま」


 「お兄ちゃんおかえりー!」


 ドアを開けると目の前に幼女が現れた! 黒曜石のような輝きを放つ腰まで伸びた黒髪、ぱっちりと開いた黒い瞳、日焼けの跡の見当たらない綺麗な肌、聞くだけで元気が沸いてくるような明るい声。妹の渡里光である。文句なしの美少女……ではなく美幼女である。美少女と呼ぶには些か背が足りず幼い顔つきであるためだ。

 光は二階へと続く階段の途中から一階へ降りてくる途中だった。


 「とぅっ!」


 残り数段というところで光の瞳は一瞬の輝きを見せ、それと同時に勢いよく飛び上がった! 獰猛な野生の動物を思わせる鋭い動きだ!

 

 「お兄ち……ぐふっ!」


 しかしそれでも勢いは足りず俺の目の前で失速し床へと墜落。ふと気付くと先ほどは何もなかったはずの階段下の床に粘着マットが設置されていた。光はそこへ着地したようで膝から下、肘から上の部分を床と融合させて四つん這いになっていた。さらに乙女が出してはいけない声を出して呻いている。


 「お兄様……おかえりなさい」


 ひしっと、腰のあたりに何かが抱きついている感触がする。視線を向けると銀色の妖精がくっついていた。水晶のように透き通った腰まで伸びた銀髪、小動物を思わせるつぶらな青い瞳、まるでシルクのような光沢を持つ肌、ハープを奏でたかのような美しく繊細な声、妹二号の渡里陽菜である。光よりもさらに背が低いため間違いなく美幼女である。銀色の髪を左右に振りながら顔をぐりぐりと押しつけている。あまりにその姿が可愛いかったため思わず頭を撫でてしまう。そしたらなぜか陽菜は鼻をクンクンさせ始めた! 仕事明けで汗臭いだろうからやめてー!? 


 「光、陽菜ただいま。そして陽菜仕事明けで汗かいてるからクンクンするのはやめようね」


 陽菜を持ち上げて少し遠ざける。陽菜の顔が見えると乙女がしてはいけない表情をしていた。妖精はどこかに行ってしまったようだ……。


 「はっ!?……お兄様今日もお疲れ様です。お兄様の香りは臭くなんてありませんよ! むしろ美臭です!」


 「あ、あぁ、ありがとう」


 離れたことに気付くと慌てて表情を戻すと笑顔を浮かべながら声をかけてくれた。ちょっと危ないことを言っている気がするが……気にしないようにしよう、この二人はたまにこういうことがある。今日の渡里家も平和であった。


 「うぅー! うぅー! 私にもお兄ちゃん成分をよこせー!」


 光が四つん這いになってなんとか抜け出そうと吠えていた。陽菜はそんな光を見て口元を隠して笑っている。


 「というか何これー、何で階段下にこんな物が……陽菜でしょこれ! ぐぬぬ!」


 なんとか抜け出そうと一生懸命踏ん張っているが抜け出せそうな気配は無さそうだ。


 「お洗濯とお掃除は終わらせてありますのであとは夕食を作るだけですよ、あっお兄様お荷物、お持ちしますね」


 さすが陽菜、兄思いな自慢の妹だ。学校が終わってすぐに帰宅し家事をやってくれたのだろう。


 「おっ、そうか、少し重いけど大丈夫か?」


 「うっ、な、なんとか大丈夫そうです」


 ダンボール箱を受け取った陽菜は微妙に震えているがなんとか持てたようだ。俺は頑張っている陽菜の頭を再び撫でてあげる……陽菜……涎出てるぞ……。ふと気付いたように陽菜は表情を戻すとダンボール箱を覗き込んだ。


 「豚肉と牛肉……鶏肉も入ってますね。それにこんなにたくさん……また斎藤のおばさまからもらった感じですか?」


 「あぁそうだ、断ろうとしたんだがまた受け取っちゃったんだ。斎藤のおばさんの腕力には勝てない」


 「斎藤のおじさまより腕力強いみたいですからね」


 「そうなのか!?おばさん一体……」


 俺の中の斎藤家の謎が深まった。


 「今日の夕食はどうしますか?」


 「そうだなぁ……肉類はあまり長期保存出来ないから今日は焼肉にしようか」


 「たしかにその通りですね……。ではすぐ準備出来ちゃいますので私がやっておきます。お兄様はゆっくりしていてくださいな」


 「そっか、分かったよ、陽菜ありがとな」


 「いえいえ、お兄様のためでしたら私はどんなことでも喜んでやりますよ」


 陽菜はダンボール箱をなんとか持ちながらキッチンへゆっくりと歩いていった。よく出来た妹で涙が出そうだ。


 「ぐぬぬ……私の活躍する場面がー!」


 光は未だに抜け出せず蠢いていた。


 「光ーとりあえずそこから退いてくれ」


 靴を脱いで家に上がった俺は着替えるために二階へ上がろうとしたが光が階段を塞いでいて通れない。


 「あっ、お兄ちゃん、ご、ごめんなさい、すぐ退くね! むぅー陽菜のやつー! あっ」


 光は急いで抜け出そうと暴れだしたがバランスを崩して粘着マットの上で横に倒れてしまった。


 「……」


 「……」


 なんとも言えない空気が流れる。もはや光は鼠罠にかかった駆除されるのを待つ哀れな鼠のようになってしまっていた。粘着力が強いのか身動きできずに目だけをキョロキョロさせている。

 ……諸君らに問いたい、こちらに一切抵抗の出来ない女の子が目の前にいたとしよう……手を出したくはならないか……?

 俺は無言で近付き光を見下ろした。


 「お、お兄ちゃん?」


 光は俺の顔を横たわったまま目で確認した。今の光は半袖Tシャツに短めのスカート、黒のソックスを穿いている。


 「あっ!」


 光は自分の置かれた状態の危険性に気付いたようだ。光にとって幸いなことにスカートは捲れ上がってはいないためそのままの状態なら下に穿いている物が見えることはない。


 「ふっふっふっふ……」


 ……俺は隠しきれない声をもらしながらゆっくりと手を伸ばした。


 「お、お兄ちゃん、だめっ、そんな……こ、こんな場所……でっ!」


 俺の口元には三日月型の笑みが浮かんでいた。俺は微妙に涙を浮かべながら真っ赤になっている光へと優しく指で触れる。


 「んっ!」


 押し殺したような声が耳を打つ。だめだ、もっと大きな声を響かせたい。俺は目的地に向けてゆっくりと指を走らせる。


 「ぁあ! ぅっ……ぁぁっ」


 先程よりも光は切羽詰まった声を上げている。俺の指の動きからもうすぐ辿り着いてしまうことに気付いているのだろう。


 「ぅぅぁあ、お、お兄ちゃん……っ!」


 光は思わず洩れそうになる声を我慢しながら必死に俺の名前を呼ぶ。それはやめてくださいと最後の懇願をしているような気がした。しかし俺は止まらない、止まるつもりは一切ない。目の前に弱った獲物がいたら狩るべきなのだ! 次にいつ獲物に会えるか分からない、だからこそ手を抜かない。それこそ自然の摂理! 獣の掟! そう……俺はそのとき一匹の獣となっていた。


 「ぁぅぁあ! お、おにぃぁぁっ!」


 引き延ばされたような時間の中で光は悶える。だが無情にもそれは訪れた。そう、辿り着いたのだ……足の裏に! 


 「やぁめあっはははははは!」


 くすぐった。思いっきりくすぐった。盛大にくすぐった。


 「あははは! お、おにぃやめぁはははは!」


 目の前に身動きの出来ない女の子が転がっていたらそりゃあ手を出しちゃうでしょう、うん。

 暫くの間、光をくすぐって遊んでいたがだんだん声が聞こえなくなってきた。光の顔をのぞき込むと涙でぐしゃぐしゃになっていて瞳から光が消えている気がした。うーん少しやりすぎたか? ……まぁいいか。今の俺は一仕事終えたようなすっきりした顔になっているだろう。

 気合いを入れてくすぐっていた影響か汗をかいてしまっていた。思っていた以上に入れ込んでしまっていたようだ。夕食は焼肉だけど汗でべとべとだし先に風呂に入っておこうかな。俺はひくひくしている光を跨いで二階へと上がって行った。

 我が家の二階は俺の部屋、光の部屋、陽菜の部屋、空き部屋が三つ、一階への階段と屋根裏部屋への階段がある。空き部屋は倉庫と化している。各部屋にはベランダもついている。

 自室に荷物を置き着替えを持って一階へと降りてくるとまだ階段下には粘着マットと共に光が横たわっていた。どうやら意識は戻ったようだった。そういえば粘着マットなんて買った記憶がないんだがどこから出てきたのだろうか……。光ごと粘着マットを引っ張ってみるがびくともしない。粘着マットが床にくっついている気がする。……光に任せておくとするか。


 「光、この粘着マット片づけておいてね?」


 呼びかけると微かに、はぃ……と反応があった。しばらく経てばもう少し意識もはっきりするだろう。また光を跨いで風呂へと向かって行った。

 あとは夕食の準備をするだけだがそれは陽菜がやってくれるようなので大丈夫そうだ。焼肉の準備ならそこまで時間はかからないだろうし汗を流したらすぐに出るとしよう。



 今日は旅に出ていた両親が久しぶりに帰ってくる日だ。

 我が家は五人家族で生活していることになっている。しかし実際は父さんと母さんはトレジャーハンターで世界中を飛び回っているため三人で暮らしをしているような感じになっている。ある時は南アフリカで見つからないと思われていた幻の遺跡が見つかったとか、またある時は年中雪に覆われているような大地でついに伝説の生物を発見したとか、南極大陸でUFOが編隊飛行しているとか……何か情報を掴むとすぐに飛んでいく。情報が無くても情報収集しなくてはと飛び出していってしまう、そんな両親なのである。

 父さんと母さんはそれぞれトレジャーハンターとして各地を旅をしていてある日偶然出会い意気投合して一緒に行動するようになったそうだ。そして冒険しているうちにお互いのことを好きになり結婚し俺が産まれた。父さんは育児を母さんに任せるとすぐに旅に出たらしい。

 俺が6歳の誕生日までは母さんが面倒を見てくれていたが誕生日を迎えた次の日には荷造りを終えた母さんの姿があり、じゃあパパの所に行ってくるからあとは任せた、と言って風のように去っていった。開いた口が塞がらなかった。そのころには妹の光が産まれていたので小学生になったばかりの自分とまだ2歳の光の二人が両親のいない家に残されたのであった。今思い返してもありえないと思う。仲が良いのは何よりだけど子供放って旅に出るってどうなのだろうか……。

 そんなわけで生活をしながら光も育てるというハードモードな生活が始まった。そのため必然的に自身の各種生活スキルが上がることになった。学校に許可をとって光を連れて行ったりどうしても連れていけない時は近所の人にお世話してもらったりバイトでどうしようもない時には友人に代わってもらったりもした。

 たまに両親からの仕送りが届くのでうまく遣り繰りして貧しいながらもなんとか生活していくことに成功した。しかし仕送りと共に送られてくるお土産という名の謎物品の扱いには困った。ゴミというわけでもなくかといって使えるわけでもないそれらの品は幼いながらも何か不思議な力のような物を感じていたので捨てるという気持ちにもなれず生活空間を占有していった。一時期は足の踏み場もないほどであった。あまりにも多過ぎたので最終的には謎物品は一部置物化、殆どを押入や倉庫に封印する運びとなった。

 そして俺が7歳になった年にもう一人家族が増えることになる。二人目の妹の陽菜である。いきなり両親が帰ってきたと思ったら陽菜を預けてすぐに旅に出掛けて行くというとんでもない出来事であった。

 光の面倒を見ながら学校に通い陽菜の育児という生活サイクル。しばらくの間は想像を絶する大変さだったが近所の人たちや友人たちの協力、学校側の理解を得るなどをしてなんとか乗り切ることが出来た。なんとかなったのは光が学校に通える年齢になり陽菜の面倒を見ることも出来るようになり俺の負担も減っていったことも大きいだろう。

 そして俺は高校を卒業して進学ではなく就職を選んだ。最近の情勢は高卒者には辛いことは分かっていた。専門卒なり大学卒でもなければ良い給料の職業に就くことは難しい。でも俺は出来るだけ早く今まで助けてくれた人達に恩返しをしたかった。これ以上迷惑をかけられないと思っていた部分もあるのかもしれない。

 ……就職は光と陽菜のこともあったので定職には就けなかった。どうしてもまだ幼い二人を放っておくことが出来なかったためだ。二人とも大丈夫と言っていたが俺みたいに両親に放っておかれて寂しい思いをさせたくなかったし人並みというのは難しくても少しでも充実した青春時代を過ごして欲しかった。幸い仕事はバイトと言う形にはなってしまったが近くの商店街で雇ってもらうことが出来た。たまには少し離れた地域でバイトをすることもあったがバイトが終わったら寄り道せずに真っ直ぐ家に帰るようにしていた。そんな日々を過ごし今に至るという感じだ。

 今父さんは52歳、母さんは41歳、俺は21歳、光は17歳の高2、陽菜は14歳の中2である。そして両親は相変わらず旅をしては旅をしてという感じで殆ど家には帰ってこない。そのため帰ってくる日はとても貴重な日ということになる。それで今日は光と陽菜が張り切って家事を先にやっていてくれていたようだ。バイト後に急いで両親を迎えるための準備をしないといけないと思っていたのですごく助かった。打ち合わせなどをしなくても自分から察していろいろ手助けをしてくれる二人にはとても頭が上がらない。

 光と陽菜は俺の自慢の妹達だ。光はとても元気な子で一緒にいるだけでこちらも元気になれる、陽菜は大人しい子だが頭がとても良く賢い子でとても可愛い。二人とも将来はとても美人になる予感がしている。そのことを考えると……お、お兄ちゃんは許しませんよ! ……はっ!? ち、違う、違うんだ……そういうつもりはなくて……ごにょごにょ……。嬉しいけど悲しいような……大切な物が無くなってしまったような気持ちになる……これが父親の気持ちって奴だろうか……。



 「……はっ!?」


 どうやら湯の中で寝てしまっていたようだ。さすがに金曜日となると疲労が溜まっているようだ。昔のことを夢に見ていたような気もする。浴室の中の時計を見ると風呂に入ってからそんなに経っていなかった。危ない危ない……。あまり長い時間入っていると二人が心配して風呂の中へ侵入して来かねない。何せ昔一度だけ侵入してきたことがある。お兄ちゃん大丈夫? と律儀に服を脱いで入ってくる始末だ。二人は昔と違って成長している。そんな今の二人に俺が入っている風呂への侵入を許すわけにはいかない。光と陽菜に心配される前に早く出ることにしよう。


 「パパ帰ったぞー!」


 脱衣場で髪を乾かしていると玄関から大声が響き渡る。どうやら大黒柱? が帰還なされたようだ。


 「ママも帰ったわよー」


 夫婦同時の帰還らしい。まぁ殆ど毎回夫婦一緒の帰還だが。脱衣場から出て玄関へと向かう。


 「二人ともおかえりー」


 「おー信司帰ったぞ! また少し大きくなったな!」


 「信司ただいま」


 大きく手を振り父さんが笑っている。なぜ部屋の中で手を振るのか、そして壁に思いっきりぶつかっている。


 「パパ、壁に穴が開くからやめてください。また修理させる気ですか?」


 「お、おー……すまん」


 母さんに注意されると父さんは手を振るのをやめる。実は父さんは過去に四回玄関入口の壁を破壊している。破壊しても破壊してもなぜか手を振るのやめない。父さんは気まずげに頭を掻くとポケットから何かを取り出した。


 「信司、これが今回のお土産だ。なかなか持って帰るのに苦労しだぞー」


 俺は父さんから梱包された謎物品を受け取る。また変なものだろうなぁ……。


 「二人ともおかえりー、何ー、お土産?」


 「お父様お母様おかえりなさいませ、お土産ですか?」


 キッチンの方から光と陽菜が歩いてきた。知らないうちに光が復活していた。振り返って階段下を見てみると粘着マットが無くなっていた。どうやって脱出したのか分からないが片付けたらしい。


 「……とりあえず開けても?」


 「えぇ、どうぞ」


 母さんの返事を聞いてから包みを開き始める。包みからは開ける前から変な気配が漏れている気がする。よく見てみると包みも独特な模様でこれもまた怪しかった。昔どこかで見たような気がするが……どこかの砂漠の国へ行ってきたときのお土産の包みだったかな? 恐る恐る包みを開けてみると中からは肉塊と触手がぐちゃぐちゃに混ざり合ったような石像が出てきた。この世の物とは思えない見た目、見ていると呪われそうだ。石像からは悍ましい気配が放たれている……。俺は無言でそっと包みに戻すと無理やり丸めた。包みの中で触手が蠢いているような気がした。


 「うへぇ気持ち悪い……」


 「……また呪われそうな物を持って帰って来ましたね……」


 光と陽菜は心底嫌そうな顔を浮かべ両親を見つめていた。たしかに……今の一連の流れだけでSAN値が下がった気がする。


 「そんなこと言うなよ、よく見るとなかなか良いものだろう? 一目でこれはヤバいって感じたからお土産にしたんだよ。だが持ち帰ろうとこの石像を持ち上げたら遺跡が崩れ始めてなぁ……死にかけたよ、はははは!」


 笑えねえよ……。何でヤバいって感じた物をお土産に選ぶんだよ! 絶対持ち帰っちゃいかんやつだよこれ。空港で引っかかりそうなのになぜか毎回持って帰って来るうちの両親。いったい空港の警備は何をやっているのやら。


 「……光と陽菜はいる? この石像……」


 丸めた包みを二人に向ける。あっ動いた、やっぱり中で蠢いてる。


 「ぜっっったいいらない!」


 「……さすがに呪われそうなので……」


 うん、知ってた! あげますと言われても百人中百人が断るだろう。現在進行形で包みを持っている左手が呪われていってる気がするんだけど……気のせいだよね? 

 とはいえせっかくの両親からのお土産を目の前で捨てるというわけにはいかない。捨てても呪われそうだし。


 「……あぁ……うん……じゃあ俺が貰っておくよ……」


 父さんと母さんが帰ったら即倉庫に封印しよう! 俺はそう強く心に誓うと石像をポケットにねじ込んだ。


 「うふふ、信司が気に入ってくれたようで何よりだわ」


 馬鹿言え、どう見ればそんな判断ができるんだよ。二人はお土産を渡してやっと帰ってきたという実感が沸いたのかとてもリラックスした表情を見せる。石像が手元から離れてリラックスするってやっぱりこの石像……。


 「光と陽菜もずいぶん大きくなったわね。前見たときはまだママのお腹くらいの背丈しか無かったのにね」


 「お母様四年も経てばさすがに成長しますよ」


 そう四年だ。父さんと母さんの前の帰宅は四年前である。俺はもう慣れたからいいが光と陽菜のためにもう少し二人の側に居てあげて欲しいと思う。陽菜がまだ小さかった頃両親が帰宅したときに一度頼み込んだことがある。必死に頼み込んだのだが……二人は聞き入れてくれなかった。それから俺は父さんと母さんにそれを願うことをやめた。


 「そうか、もう四年も経つのか。そりゃあ二人とも大きくなるわけだ、ははは!」


 「そりぁあねー、二人ともなかなか帰ってこないもんね。結婚して子供が出来ても二人とも帰ってきてから気付きそうな気がするー」


 光がなぜかこちらをチラチラ見ていた。


 「すまんなー、こんな性分だからなかなかなー。さすがに結婚したら頑張って帰ってくるだろ」


 「さすがにねぇー。そしたら頑張って凄いお土産探してこなくちゃね」


 「……」


 これ以上ヤバいお土産はやめてくれ。


 「私はお兄様一筋なので大丈夫ですね」


 陽菜がこちらを見つめて頬を染めていた。しまった、とそれを見て光がどこからかハンカチ出して噛みしめていた。


 「ふふふ、二人ともほんとにお兄ちゃんのことが大好きなんだから」


 「これは当分結婚はなさそうだな」


 光と陽菜がお互いを睨み会っているがこれはなんだろうか……。触らぬ神に祟りなし。


 「さてと、そろそろ荷物を置きに行くわね」


 母さんは靴を脱いで一階の自分の部屋へと向かう。


 「そうだな、俺も置いてくるとするか」


 父さんも母さんの後を追って部屋へ向かうみたいだ。


 「お父様お母様、既に夕食の準備は出来ているので荷物を置いたらそのまま居間に来てくださいね」


 「えぇ分かったわ」


 「あぁ分かった」


 既に夕食の準備は出来ていたみたいだ。二人は返事をすると今度こそ部屋へと歩いていった。



 我が家の一階は玄関から始まってトイレ、脱衣場、風呂場、二階へ向かう階段、客間、居間、キッチン、両親の部屋、テラスがある。父さんと母さんは一つの部屋で生活している。

 俺も居間に向かうとしよう。歩き出すと陽菜が俺の左腕に抱きついてきた。


 「お兄様の夕食の席は私の隣にお願いしますね?」


 我が家の食卓は円形である。そのため普段は二人とも隣同士なのだが今日は五人なので席順が発生する。


 「ん? 陽菜は父さんと母さんの間じゃなくてもいいのか?」


 「はい! お兄様の隣は私の席と決まっていますので!」


 即答だった。まだ中学生の陽菜は両親の間がいいのではないかと思っていたがどうやら違うらしい。まさかこれが噂の反抗期か?


 「そ、そうか、俺の隣がいいならまぁそれで」


 陽菜の真っ直ぐな瞳に見つめられてさすがに少し照れる。むぅー、何やらうなり声が聞こえたと思ったら今度は右腕に光がしがみついてきた。


 「わ、私もお兄ちゃんの隣の席って決まってるんだもん」


 光がしがみついてきた影響で少し転けそうになる。


 「お姉様急にお兄様にしがみつくのはやめてください。お兄様が転けたらどうするつもりですか」


 「ぐぬぬ…陽菜もお兄ちゃんにいきなり抱きついてたじゃん」


 「私はお姉様と違って軽いので問題ありませんね」


 「なっ! 私が重いっていうの!?」


 「私より重いのは間違いないですね」


 「た、確かにそうだけど……私そんなに重くないよ!」


 光がさらに強くしがみつく。右腕に何か仄かに柔らかい物が当たっている気がする。


 「くっ……」


 それを見た陽菜が光を睨むとさらに強く抱きついてきた。左腕に何か仄か柔らかい物が当たら……な……い。光が陽菜を見て勝ち誇ったような表情を浮かべていた。陽菜は悔しそうな顔をしていたが。


 「……ふっお姉様、私にはまだ将来性がありますのでそんなあるのかないのか分からないような代物を大事にそうに温めているお姉様には負けないですよ」


 「なっ!?」


 光に衝撃が走った! 自分の胸元を確認すると苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。


 「で、でも今の陽菜にはお兄ちゃんを喜ばせるような柔らかさは皆無だもんね!」


 「くっ、たしかに否定は出来ません」


 二人は俺の間でお互いを睨み合いを始めた。い、居間に向かえない。


 「こら、二人とも喧嘩しないように」


 一応注意をしてみるが二人とも、だって陽菜が、だってお姉様が、と言い合っていて埒があかなかった。仕方ない、あまりこういうことは言いたくないんだが……。


 「……二人が喧嘩するとお兄ちゃん悲しいなぁ」


 ビクッ。二人は体を一瞬硬直させると何事もなかったように振る舞い始めた。


 「お、お兄ちゃん別に私たち喧嘩なんてしてないよ。ただの姉妹のスキンシップ、スキンシップ」


 「はい、ただの世間話ですよ。お兄様が心配するようなことは全然これっぽっちもありません」


 絶対嘘だ。さっきまで火花がバチバチしてたじゃないか。二人に視線を向けると二人とも目をそらす。それを指摘しても二人とも認めようとしなかった。



 居間に入ると食卓の上には肉屋の斎藤おばさんからいただいた肉達と我が家で収穫された各種野菜が適度な大きさに切られてお皿の上に並んでいた。後は焼くだけのようだ。


 「お兄ちゃん、ここに座って」


 光が椅子を引いて誘導してくれた。出遅れた、と陽菜が呟いていた。そこはいつも俺が座っている席だ。その向かい側の位置にはいつもと違い二人分の席が準備されていた。俺の隣に光と陽菜が座るとなるとその二席は父さんと母さんの席ということになる。


 「光、ありがとう」


 「どういたしまして、えへへ」


 俺が椅子に座るのを二人は見届けると俺から見て右側に光、左側に陽菜が座った。


 「あとは父さんと母さんを待つだけかな?」


 「待つだけですね」


 「お兄ちゃんテレビつけていい?」


 「あぁ、いいぞ」


 光はリモコンを取るとテレビの電源をつけた。テレビの明かりが点灯するとニュース報道番組であった。すぐに光はチャンネルを操作すると番組を変える。操作が終わるとどこかで見たような映画を流すチャンネルとなった。画面の中で剣を持った男女が背中を預けて戦っていた。


 「光はほんとこういう剣を使って戦うアクション映画とか好きだな」


 「うん、こういうの見てるとすごいなぁと思うの。かっこいいよねー」


 「そうだな。俺はどちらかというと刀の方が好きだけど」


 「たしかにお兄ちゃんは剣より刀の方が似合うかも。私も部活に入る前は刀の方が好きだったけど部活でいろいろな刃物を扱ってるうちに刀より剣の方がうまく使えたからそっちの方が好きになっちゃったの」


 「なるほどなぁ」


 「それに実践的なこと考えると刀の鋭さはすごいけど何回か相手を斬っちゃうと血ですぐ使えなくなっちゃうし扱うのはすごい技術が必要だから。それに刀の型はどちらかというと私の部活より剣道部の方が合ってるし」


 「あぁ光は剣術部だもんな」


 実践的な部分で見るとたしかに剣の方がいいのかもしれない。俺の趣味がアニメやゲームなのでどうしてもかっこよさ重視で好みが刀になってしまっている。

 光はかなり運動神経が良い方だ。昔は陽菜の面倒を見ていたため部活には入ってはいなかったが高校生になってからは剣術部という部活に入っている。剣道部とは違って見せる試合というより実践的な剣の扱いを学ぶ部活らしい。実戦派というかなんというか……とにかく珍しい部活だ。剣道部とは犬猿の仲らしい。


 「そういえば陽菜、最近同好会の調子はどうだ?」


 光がテレビに集中し始めたため陽菜に話しかける。陽菜は中学生になってからは魔術師同好会という怪しげな同好会に参加している。なにやら魔法の勉強をする集まりとかなんとか。


 「最近はいまいちですね。あまり良い参考書が見つかりません」


 「参考書?」


 「はい、魔法について記述される本や魔術書ですね。もう大体簡単なところは読み終わってしまって難しい書は中学生だと手が届かないので……」


 「そ、そうか……」


 分からん……最近の中学生の流行りは理解出来ない。魔法や魔術書……アニメやゲームなら惹かれる気持ちも分かるのだが。現実でその手のことを真面目に書いてある本を漁っても……使えるようになるわけでもないし。


 「魔法をアニメやゲームみたいに現実で使えればいろいろ楽しそうだな」


 「ですよねー! さすがお兄様、私の気持ちを分かってくださる」


 陽菜は今の一言で火がついてしまったらしく何やら難解な理論を語り始めた。難しい話でよく分からないので聞き役に徹するとしよう。



 テレビを見たり二人と話をしていると父さんと母さんが居間にやってきた。父さんは陽菜の左の席、母さんは光の右の席に座ったみたいだ。


 「おっ、今日は焼肉か! いいなぁパパは焼肉大好きだぞ」


 「それでは焼き始めましょうか」


 父さんのテンションが上がったところで陽菜がホットプレートの電源を入れる。光と母さんは焼肉のタレをみんなの皿に入れる作業をしていた。俺はすり下ろしたニンニクをタレに混ぜると父さんに回す。うちの妹達はあまりニンニクを好まない。女の子だから臭いが気になるんだと思う。父さんはすり下ろしたニンニクを入れると母さんに回していた。妹達は野菜や肉を入れてひっくり返している。俺は何もしていないがサボっているわけではなく待機しているのだ。手を出そうとするとお兄様は待っていてくださいとか言われるので手を出せないのだ。


 「よし、焼けたな。じゃあいただきます、と」


 「お兄様、これをどうぞ、食べ頃ですよ」


 陽菜が焼きあがった肉をお皿に移してくれた。父さんは半生に見える肉を食べていた。あれは牛肉だし大丈夫だと思う……たぶん。父さんなら生でも平気で食べそうな気がするからなんとかなるはず。


 「陽菜ありがとな、いただきます」


 陽菜はこちらを見て微笑むと小さくいただきますと言って自分の取り分を食べ始めた。


 「いただきます、パパ、顔にタレがついてますよ」


 「おおう、すまん」


 母さんは野菜を食べながら父さんのお世話をしていた。勢いよく父さんが食べるせいで凄い勢いでプレートの上から食材が消えていく。


 「いただきます、もぐもぐ」


 光は肉類を狙い撃ちして食べていた。さり気なくこちらの皿に野菜を放り込んでいる。無言で光を見つめていると慌てて野菜を食べ始めたので許すことにした。


 「陽菜もしっかり食べなよ」


 陽菜は元々小食なのであまり食べない。様子を見ていると野菜ばかり食べて肉をあまり食べていなかったので焼きあがった鶏肉を陽菜の皿に乗せておいた。


 「お兄様、ありがとうございます」


 自分からはあまり取らないが俺が皿に乗せてあげると断れないのか肉を食べ始めた。陽菜は小さいからいろいろ食べて大きくなってもらわないとな。

 暫くの間一家団欒のひとときを過ごした。父さんと母さんの冒険譚をみんなで聞いたり、光と陽菜の日頃の様子を話したりと話題には事欠かなかった。みんな満腹になってきたのか肉を焼く音が静まってきたので夕食の時間も終わることとなった。父さんと母さんと話せて光と陽菜は普段よりも楽しそうであった。



 「ふぁーぁ……、そろそろ寝るとするか」


 父さんは大きな欠伸をすると肩を鳴らして椅子から立ち上がった。外国への旅、旅先からの帰国、移動中の飛行機の中では寝ていたそうだがやはり疲れたのだろう。もしかしたら久しぶりの一家団欒の空気で安心して普段旅で溜め込んでいる疲れが出たのかもしれない。


 「そうね、明日の昼にはまた旅に出かけないといけないし、早めに寝ておきましょうか」


 「後片付けは私がやっておくねー。お父さんとお母さんは明日に備えて早く寝なよ」


 母さんは洗い物をしようと流しに向かおうとしたが流しの近くの席に座っていた光が立ち上がり流しに向かった。


 「あら、いいの光?」


 「うん、大丈夫だよ、普段からやってて慣れてるからね」


 「そう、じゃあ光たちに任せたわね、ママもパパと一緒に寝ることにするわね」


 母さんも父さんと一緒に寝ることにしたみたいだ。俺は光の手伝いでもするかな。妹たちばかりを働かせるわけにはいかない。そう思い俺も立ち上がろうとした。



 ────その時、世界が、揺れた。

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