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人生ホラゲー状態なのでハンドガンは初期装備です  作者: RYO
序章 ゾンビ? ぼっこぼこにしてやんよ
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「Why……! Why……!」

 夜の路地裏を、白人の金髪少女が走る。

 星明りしか光源のない夜の闇の中でも目立つ高価そうな身なり、それを皺や泥で台無しにしながら彼女はただひたすら足を動かし続ける。

 頻繁に後ろを振り向きながら走っているせいか、彼女は何度となくなにかに躓いて転び、服や体に傷を作っていた。その度に顔をしかめながら、しかし彼女は必死の形相で起き上がって前へと進んでいく。

 後ろにはもう戻れないから。

「Help……! Help……!」

 時おり路地を挟む建物に扉を見つけてはそちらに駆け寄ってノブをひねるが、時間帯のせいか全て鍵がかかっており、ガチャガチャと虚しい音を立てるだけだった。

 それでも彼女は、扉が見つかる度にそちらへと走り寄って開こうとするのを辞められない。扉が見つかる度に希望に顔を輝かせ、ノブをひねる度にその顔を絶望に曇らせる。

 何度も転び、いくつもの扉を見つけ、無数の角を曲がりながら走る――“逃げ続ける”――彼女。

 ペースは無茶苦茶で、顎も上がりきっている。体力はもう残っていないに等しい。

 だがその逃走劇は、唐突に終わりを迎えてしまった。

「What……!?」

 ガシャン、という音と共に少女の行く手は遮られた。

 痛みに顔をしかめながら目の前にそびえるものを見て、少女の顔が絶望に染まった。

 そこには路地を塞ぐように金網が据え付けられていた。

「No……! No……!」

 すがりつくようにして金網をガシャガシャと揺らす彼女だったが、その程度でははずれも壊れもしてくれない。

 慌てて上を見上げる彼女だったが、金網の高さはその身長以上にあってジャンプするくらいでは飛び越えるどころか取り付くこともできなさそうだった。

 だが金網という構造上、両手両足をかけていけば登れないことはなかった。

 そう――時間さえあれば。

 

「うぅ……ぁぁ……うぁぁぁぁ……」

 

 そのうめき声は、少女が発したものではなかった。

 背後から響いてきたその声に、少女は短い悲鳴を上げて振り向いた。

 まっすぐ前に伸ばした両腕。

 ただれた皮膚。

 生気の無い目。

 大きく開いたヨダレまみれの口。

 『ゾンビ』が、そこに居た。

 それも五人――いや五体も。

 少女は金網にもたれかかるようにして尻餅をついてしまった。

 残り少ない体力よりも先に、気力が尽きてしまった。

 近づいてくるゾンビ。逃げ道を遮る金網。動けない少女。

 もはや命運は決まったかに思えた。

 

 そんな命運――“彼”にとってはクソにも等しいものだったが。

 

 突如、乾いた音が響いた。

 直後、少女に最も接近していたゾンビが、まるで糸の切れた操り人形のように地面に倒れ伏す。

「Wh……What……?」

 それは少女にとって聴き慣れてはいないながらも聴いたことのない音ではなかった。それでもこの極限の状況で響いたその音がなんであるか、すぐには理解できなかった。

 そんな少女を他所に、乾いた音がさらに連続して響く。

 二回目の音でゾンビがまた一体倒れ、

 三回目の音で振り向こうとしたゾンビが倒れ、

 四回目の音で振り向いたゾンビが倒れ、

 そしてもうゾンビは一体しか残っていなかった。

 そのゾンビの背中越しに、少女は見た。

 拳銃を構えた、黒髪の日本人の姿を。

「うぁぁぁぁ……」

 最後に残ったゾンビが、新たに現れた標的に対して向かっていこうとする。

 だが青年は落ち着いて、両手でアイソセレススタンス――腕で二等辺三角形を作るような構え方――に構えた拳銃――カスタムガバメント――の引き金を引いた。

 マウントレールに小さな部品が付いたカスタムガバメント、その銃口から重量230グレインのフェデラルタクティカルHST+Pが飛び出し、ゾンビの鼻っ柱に着弾。内部で花開くように展開した弾丸が傷を広げ脳幹をぶち抜いた後、頭蓋骨の内部で停まる。

 あっという間に五体のゾンビを倒した青年はリロード(再装填)を行いつつ、油断なく辺りを見回してから銃口を斜め下に下げて、少女に歩み寄る。

 そして、手を差し伸べながら言った。

「おい、大丈夫か? ……あ、やべ、外国人か。えぇと、ドントウォーリー?」

 なってない発音でも何が言いたいかは分かったが、それでも少女はそれより気になることがあった。なんとか立ち上がって彼女は問いかける。

「Who……Who are you?」

「ふーあーゆー……あ、そりゃ気になるよね俺が何者か。俺は――」

 青年が無意味に日本語で答えようとする。

 だが、状況はそんな悠長さを許してはくれなかった。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

背後から響いてきた無数のうめき声に、青年が振り返る。

その背中越しに、少女は地獄のような光景を見てしまった。

 路地を埋め尽くすように、無数のゾンビが二人の方へと近づいてくる。

 少女は今度こそ絶望した。救いの手が現れたと思ったところに、最大級の絶望を叩き込まれてしまったから。

 そうして心が折れかかった少女の腕を、

「よし、んじゃ行くぜ」

 青年が手に取り、そして――ゾンビたちの方へと歩き出した。

「……!?」

 青年の行動に少女は驚いて手を振り払おうとするが、しっかり握られてしまって離せなかった。

 その行動をどう勘違いしたのか、青年が言う。

「おいおい暴れんなって。だいじょぶだいじょぶ、これくらい慣れっこだから」

「!? ……!?」

 だが当然、少女には通じなかった。

 それが分かっているのかいないのか、青年は発破をかけるように叫んだ。

「よし! こんなくそったれな状況から抜け出して、朝日を拝んでやるぜぇ!」

 そして青年――伊藤(いとう) (たけし)――はゾンビたちにカスタムガバメントの銃口を向けて――

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