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第14回メガロマニア 「どうだ、これなら上手くいきそうだろ?」

 ココがいつかメガロマニアから聞いた話。彼にはたくさんの兄弟がいて、母親はその世話で朝から晩まで働きづめ。一人一人に充分時間を割いて構うことができず、彼にはそれが不満だったらしい。


「だからそうやって直ぐに拗ねることで、皆んなの注目を浴びようとしてるんじゃない?」

「何の話だよ」


 メガロマニアは渋い顔をした。


 外の空気を独り占めしてやろうと思ったのに思わぬオマケが付いてきて、更には痛いところまで突くのだ。そんな顔になるのも当然だった。


「さっき拗ねてたじゃない。ハイドラたちが自分の意見を取り上げてくれないからさ」

「拗ねてねえよ。気のせいだろ」

「完璧拗ねてた。認めなさいよ」

「お前、俺だけにはいつも強気だよな」

「もしかしてあんたがいつも嘘つくのも構って欲しいからだったりして。お母さんとかにもそうやって気を引こうとする子供だったんじゃない? あ、もしかしてメガロマニアってのもそこから来てるわけ?」

「あんまり俺の後ろを探るなよな」

「何堅いこと言ってんのよ」

「堅くない。ハッキリ言って御法度だぞ」

「ただの世間話もしちゃダメなの?」


 ココはしょんぼりと肩を落とした。


「……やれやれ」


 メガロマニアは頭を掻きながら呟いた。


「こういう時男は損だ。お前にそんな顔されちゃあ話さないわけにはいかないじゃねえか。全く、笑顔で横紙破りしやがって」


 メガロマニアは壁に寄りかかると一度ため息を吐いた。


「確かに俺は子供の頃からよく嘘をつくガキだった。フットボールでハットトリックを決めたとか、一週間に三回女の子にデートに誘われたとか、そういうくだらない嘘をよくついていた。終いにゃ母親にあんたは誇大妄想(メガロマニア)だと言われたが、言葉の意味が分からなかった当時の俺はそいつを気に入ってあだ名にしちまった。と言うのも元々の名前が俺にはどうにも気に入らなくてね。もちろんこんなところじゃ言えねえが、ジョンだとかロバートだとかそういうありふれた名前だった。末っ子だったから両親が面倒臭がって適当につけたんだよ。もっとよく考えて世間の親と同じように先祖の名前だとか尊敬する人の名前などからつけて欲しかったんだが、その暇がなかったんだとさ。子供の名前を考える暇がない生活って一体どんな生活なんだよな」

「それで結局盗賊にまで落ちぶれたの? お母さん泣いてるわね」

「落ちぶれちゃんじゃないの。俺が好きでなったの。だいたいお前に言われたかねえよ。そろそろ家に帰ったほうがいいじゃないのかね、お嬢ちゃん。じゃじゃ馬娘の大冒険も幕引きしたほうが身のためだぜ」

「冗談でしょ? 私の夢はハイドラみたいな世界を股にかける大盗賊になることよ」

「お前、あれになりたいの?」

「そうよ。いけない?」

「変な奴だとは思っていたが、お前も相当な変わりもんだねえ。あいつのどこがいいんだか。……まあ、でも独立するってのはいい案かもな。その時が来たら俺を雇ってくれよ。ジャボの旦那並みにはやれるつもりだぜ」

「いいわよ。でも手下その一から始めてね。私そういうとこ厳しいわよ」

「はいはい」


 二人は顔を見合わせるとどちらからともなく笑った。


 メガロマニアに先ほどまでの屈託はなかった。彼にはそれが誰のおかげか分かっていた。


「さて、そろそろ戻るとするか」

「外の空気はもういいの?」

「ああ、空に舞い上がるくらいタップリと吸ったからな。それに一つ思いついたことがある。ホールの中でカードを盗むいい方法をな」

「どうするの?」

「『没入』を使うんだよ。あれで床に潜ってそのままウルフパックの椅子の真下まで行く。そこから『凍結』で固めて動けない間にカードを失敬するのさ。どうだ、これなら上手くいきそうだろ?」

「うん、いいかも!」

「よし決まりだ。あ、それと」

「何?」

「さっきの話、ハイドラたちには内緒だぞ」

「何で? ははあ、また嘘だったのね」

「嘘じゃねえよ」

「なら何で? 仲間でしょ」

「仲間だろうと内緒なもんは内緒なの」

「私は? 仲間じゃないの?」


 メガロマニアは一瞬躊躇するかのように無言になった。


 一陣の風が吹き綺麗にセットしたココの髪が揺れた。


「ココ。お前に話したいことがある」


 メガロマニアは急に真面目な顔になると、ココの両肩を持ち抱き寄せた。


「何? どうしたの急に?」


 ココはびっくりして頬を赤らめた。


「……逃げろ。後ろの壁の中に誰かいる」


 メガロマニアがココを突き飛ばした瞬間、彼の体が頭からグンと壁に引っ張られた。


 一瞬のことだった。ココが体勢を整え直し、顔を上げた時には全てが終わっていた。


 メガロマニアの苦痛に歪む顔と、そこから生える一本の指。手の主は左手でメガロマニアを抱え、顎を彼の肩の上に乗せていた。


「今、こいつの脳には俺の指が『没入』している」


 シパシクルは言った。


「プリンに刺さったスプーンみたいに柔らかな脳に突き刺さっている。これから俺はプリンを食べる時と同じようにグチャグチャにこいつの脳をかき混ぜて、奇跡なんてものが起こらないように仕上げてやる。それから悲鳴を上げて逃げるお前の足首を掴んで、同じように今度は心臓をこの手で握り潰してや——」


 轟音が響き渡り、シパシクルの額に風穴が空いた。


「舐めんじゃないわよ……」


 殺ったのはココだった。


 彼女の美しく伸びた腕の先には拳銃が握られていて、すっくと立つその姿は怒りで震えていた。


 シパシクルは呆気にとられた表情のまま壁に同化して息絶えた。

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