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トリステル王立研究所

 ガラス窓を覗くと、吹き抜けになっている下の部屋が見渡せる。白衣を着た大勢の研究員達が、最新鋭の実験器具に囲まれて忙しく作業をしている。リースは窓際に立って、彼らが作業している様子を黙って見下ろしている。

 鳥の首のような見慣れない大型のガラス器具。

 怪しげな色の液体が入った瓶。

 アルコールランプの上でビーカーをかき回している男性。

 ピペットを握って何かを分注している女性。

 皆、慣れた様子で、黙々と作業を続けている。

「お待たせしてすいません。リース閣下」

 背後のドアが開いて、同じような白衣を着た中年の女性が部屋へと入ってきた。続いて入ってきた男女が、抱えてきたファイルを重そうに机の上に置く。

 中年の女性は、下をのぞき込んでいたリースの傍らに立った。

「王様のおかげで、順調に研究をさせていただいております」

 軽く視線を動かしてリースはその言葉に応えた。

 トリステルの王立研究所は、化学、工学、生物学など科学全般に関する研究者が集い、それぞれが最新鋭の研究に従事している。本国、ドレイファスの王立医術研究所が縮小されてからは、医学分野の研究者の多くが、このトリステルに移ってきている。

「バルディス閣下は?」

 部屋には先ほどの男女の他には、リース一人しかいなかった。

「ご一緒だと伺いましたが」

「彼は宿へ帰ったよ。こういう話は苦手だそうだ。急な仕事で休暇返上だったから、のんびりするのも悪くないだろう」

「そうですか」

 生粋の武人である二人には、この手のややこしい話は苦手なのだろう。特にアランは、「そんな話聞いていると、頭から虫が這い出てきそうです」と眉をひそめて露骨に嫌な顔をしていた。そんな彼を、無理矢理引っ張ってくるのは気が引けた。彼は十分に仕事をしている。ウキレイでの密偵の仕事を十分に果たしたのだから。明日は休暇にして良いと許可を出すと、今朝、朝食を取るとすぐに宿を出ていった。研究所まで同行したバルディスも、中には入らずに宿へ戻った。どこへ行くとは言っていなかったし、彼女も敢えて聞かなかった。

「では、お話をはじめましょう……」

 中年の女性は、彼女をテーブルへと促した。

「あぁ、頼む、イリア」

 イリア・パドウィックは、生物医学分野のリーダーをしている優秀な薬師(くすし)であり医師だ。緩くウエーブがかかった赤い髪を、無造作にバレッタで留めている。

 彼女も、ドレイファスの研究所から移ってきた一人だ。貴族の出ではなく薬師・医師の家系のものでもないが、有能ならば重要な役職に就くことができる。そう。例え女でも。キールの自由な思想が、こういう所にまで行き届いている。

「例の検体の解析ですが、全て終了しました。結果はこちらに」

 イリアはそう言いながら、海岸で上がったあの奇妙な生物の解析結果の記された紙を、次々に机の上に広げはじめた。

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