エピローグ
どことなく中世ヨーロッパの香りがする世界。
あちこちに潜む竜の気配。
ドレイファスの宝石シリーズは、まだまだ続きます。
前後に騎馬兵を従えた豪奢な馬車が石畳の上をゆく。
軍の兵士によって人止めがされたメインストリートを、その馬車はゆっくりとカイザースベルン王の宮殿、エタルニア王宮に向けて進んでいた。
「正直なことを申し上げますと、わたくし、まだ信じられません」
向かいに座っている白髪交じりの初老の男が、目の前の貴人に声をかける。
「ディアトゥーヴまで来てまだそんなことを言うのですか」
濃紫色のベルベットのドレスを纏ったその馬車の主は、羽織っているケープのリボンをいじりながら執事の顔を見た。
「まだ疑っているのですか? 直前で逃げ出すとでも?」
興奮して紅潮しているパークデイルに向けて、リサフォンティーヌはからかうような眼差しを向ける。宝石を散りばめたティアラを乗せた美しい金髪は、緩やかな巻き髪にされている。ほのかに纏った香水が、彼女が動くたびに、甘い香りを狭い室内に漂わせる。
「いえいえ滅相もございません」
慌てて両手をバタバタさせる執事を見て、クスクスと笑い出す。執事が慌てふためくのを、間違いなく楽しんでいる。
リサは、手袋の上からはめたキールの紋章の刻印の入った指輪を優しく触った。
馬車の窓から、光が移ろっていく外の景色を眺める。
紫色の夕焼けが空を染めていた。
軒を連ねる建物の向こうに、教会の塔が見えた。
同乗している執事に伝えるようでもなく、まるで独り言のように、キール王リサフォンティーヌは小さく、囁くように呟いた。
「見合いではなくただの晩餐会ですから……」
教会の塔の隣りに、金色のヴィーナスが輝いて見えた。