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再会

「無事か? アレックス」

 検査と治療を終えて特別室に寝かされたアレキサンドロスの元に、フレデリックが入ってきた。オーディーヌの森で別れてから久々の再会だ。

「お前こそ無事だったか、フレッド」

「あぁ。俺なんて、お前の怪我に比べれば、無傷も同然。朝までぐっすり眠ってたみたいだが、体の方は、ピンピンしてるよ」

 にこにこと笑いながら、腕を回したり屈伸したりしてみせる。

 額と右頬に絆創膏を貼っているが、パッと見る限り、他に怪我らしいものは見えない。

「駄目ですよ、まだそんなに派手に動いては」

 ティーダが薬瓶の乗ったカートを押して室内に入ってきて、派手なパフォーマンスを続けているフレデリックを優しくたしなめた。

「何ヶ所か打撲しているんですから、ご無理なさらないで下さいよ、ワイリー卿」

「へいへい」

 母親に叱られた子供のように肩をすくめて、アレックスのベッド脇の椅子に腰を下ろした。

「まったく、お前は無茶をする。割って入ってグリセラトプスの毒を浴びるなんて、自殺行為もいいところだぞ」

「その台詞、そっくりそのままあんたに返すよ。俺はお前を守るためにいるんだ。お前がこんなに重傷を負ってどうするんだよ」

 二人とも、無謀なのはどっちもどっちのようだ。言い合っている二人は、上司と部下というよりも、間違いなく親友同士だった。

「で、大丈夫なんッスか? 隊長は」

 点滴のパックを取り替えているティーダを見上げるようにして、フレデリックが心配そうに尋ねた。

「えぇ。骨はどこも折れてはいませんでしたし、グリセラトプスの毒も完全に抜けています。昨夜リース様が縫合された傷も、問題なく」

「セフィールド卿は?」

 思い出したようにアレキサンドロスが口を挟んだ。

 アレキサンドロスは、馬車での移動での痛みを感じないよう、緩く麻酔をかけられて、眠ったままグランヒースまで運ばれてきた。病院内で目を覚ましたとき、既にリースもバルディスも身近にはいなくなっていた。

「リース様は、王城にご報告に戻られました。近いうちに、陛下からのご命令を携えて、再び戻ってこられるでしょう。それまでこちらでご静養いただくよう、仰せつかっております」

 ティーダは、リースが、その王自身であることを知らない。

 あくまで、尊敬する王宮騎士の騎士団長であるリース・セフィールドから命じられた言葉を、そのまま隣国の王子に伝えている。

「それと、もし、カイザースベルンの王宮やエーデルバッハのお仲間にご連絡が必要なようでしたら承るように、と。早馬を手配いたします」

「あぁ、ありがとう」

「何かありましたら向かいの部屋におりますので」

 と、呼び鈴用の鐘を枕元の小さなテーブルの上に置いて、ティーダは丁寧にお辞儀をして部屋を出ていった。



    *****


「陛下、あぁ、陛下! リサフォンティーヌ姫! ご無事で何よりです!! あぁ、わたくし、姫にもしものことがあったら、と思うと気が気ではなく……毎日毎日夜も眠れず……」

 グランヒースから馬を飛ばしてきたリースがルビーウイングからクリスタルウイングに戻ると、待ちかねたように執事のパークデイルがまとわりついてきて、キツツキのように激しくまくし立てた。

「姫がおられない間、わたくしがどれだけ心配したかご想像いただけますか? 幼少の頃より姫にお仕えして参りましたこのパークデイル。もう。姫にもしものことがあったら、生きてはおられませぬ。わたくしメンフィス王や亡きエリザベート皇后にどのようにお詫び致したらよいのか。メンフィス国王陛下は姫が騎士として外出されることを快くは……」

「わかった、わかったからパークデイル」

 クリスタルウイングの長い廊下を歩きながら、一向に話をやめない執事に憐憫の情を向けた。

「心配かけていたのは悪かった」

 リサフォンティーヌはもう一度言った。

「その話は、後ほどゆっくり聞かせてもらう。先日の親書はどうした」

「それなら執務室の方に……え? 今何と?」

「カイザースベルンの王子が、今グランヒースの病院にいる」

「な、なんと?」

 執事は、こぼれ落ちるほどに大きく目を見開いた。言葉の意味が分かりかねる、というような困惑した顔をしている。

「親書の内容は、オーディーヌの森で目撃談が相次いでいた化け物に関するもので、国境の森だから、我が国と合同で調査したいという要望書だったそうだ」

「しかし、では、なぜカイザースベルンの王子様がグランヒースに?」

 マントをはずして、控えていたオフィーリアに手渡して、そのまま自室へと入っていく。

「化け物と遭遇したのだ。遭遇して怪我をされた。話すと長い。すぐに対策を打たねばならない。フェリシエールは執務室だな? 一時間後に国務大臣を招集するように伝えてくれ。私は、着替えたらすぐに上がる」

「は、はい。承知しました、陛下」

 剣をはずして、テーブルの上に置きながらパークデイルに指示を出す。彼が出て行ったのを確認して、オフィーリアが部屋に入ってきた。

「サファイアに上がる。支度をしてくれ」

「はい、かしこまりました」

 恭しく頭を下げるオフィーリアの脇を通り抜けて、リサは、階下の湯殿へと降りていった。


     *****


「なにやら大変な状況になっているようですね。陛下」

『大変な状況』にも全く動じることなく、新緑の髪の執政官は、穏やかな口調でリサフォンティーヌを迎えた。彼のオーラを浴びているだけで、森林浴よろしく癒されそうだ。

 つい昨日、癒されるはずの森の中で流血現場を目撃してきたばかりだ。彼の声は心に心地よい安らぎとなって響く。

「ご指示通り、国務大臣は招集しておきました。時間には会議を始められるでしょう。

「ありがとう」

「それにしても、アレキサンドロス王子もご災難でしたね」

「本当に。彼の無謀さに、自分の姿を見たような気がしたよ」

 リサはそう言って自嘲気味に笑った。

「あぁ、それから。ゴッティスバーグのニック・ノートン隊長から、不審な男四名を捕縛したという連絡が」

言いながら、鳩便で着いたニックからの手紙を差し出す。

「四人とも外国人のようで…」

「ドラクマか」

「はい。ドラキア語を話しているようです。なんでも、巨大な木箱を乗せた荷馬車を、燃やそうとしていた、とかで」

「木箱の中身は?」

(から)だったようですね」

「中身は、グリセラトプス、か…」

 リサの中で2本の糸がつながった。やはり、GMグリセラトプスを国内に持ってきたのはドラクマの息のかかった関係者で、それを作り出したのは、きっとあの男だ。

「グリセラトプス?」

「王子達が森で襲われたのがグリセラトプスだそうだ。しかも、羽の生えた、ね」

「GMですか!?」

 フェリシエールの顔に、彼にしては珍しい驚きの表情が浮かんだ。

「今、イリアに調べさせているが、間違いなくそうだろう。自然に羽が生えてくるとは思えない」

「いったい、何のために?」

「理由はわからないが、我が国の生態系を乱して、国土を荒廃させようとしているのか……そうなれば、問題は我が国ばかりではない。大陸の全ての国に、影響を及ぼす事象だ。それとやはり、狙いは龍の涙かも知れない」

 しかし。

 神話には、それを手に入れれば王になれるなどとは一言も記されてはいない。

 伝えられているのはただ、それを侵してはならない、ということだけだ。

「羽のあるグリセラトプスは、龍を作ろうとした結果なのかも知れない」

「それは確かに、あり得ぬ話ではありませんね」

 フェリシエールも、雲の向こうになって今は見えない、ドラゴンズネストの方角を見つめた。

「武力ではいくら戦っても大陸連合国家に敵わないから、GMモンスターを使って生命圏を破壊していこうと?」

「だとしたら、卑劣な手段ですね」

「あくまでも仮定にしか過ぎないが。しかし……未来のことより今は、今やらなくてはいけないことをやらねばならない」

 目的はどうあれ、目の前の火の粉は早急に払わなければいけない。 野に放たれた野獣を一刻も早く始末するのが、今一番必要なことだ。

「ドラクマの4人は、グランヒースへ護送するとのことですから、詳しいことを自白させましょう」

 フェリシエールの進言に、同意を返す。

「後はトリステルの結果待ちだな」

 イリアはおそらく、数日で解析を終えてくれるだろう。しかし、リサフォンティーヌは、結果を待つこの短い時間すら、とてももどかしいと思った。

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