表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

要求

一話につきこのくらいの量がいいですね。


マジか。ヤベぇぞこれ。

怜は困った。

まさか、ここまで内容が重いとは思わなかった。

恋人関係で言えば浮気からの破局、なんて甘い想像をしていた。明らかに浮気相手側に悪意があれば、小道具に使っていた模擬刀で叩こうと思っていたが、相手に悪意がありすぎる。しかも悪いのが交際相手ときた。

悪意を持った人間というのは実に険悪なもので、怜も脚本を書いていく上で重ねた取材のおかげでそんな類いの人間についてはよく知っていた。

こういった奴は一筋縄ではいかない。

そう思った怜はある計画を考えた。

「お客さん。その妹さんもここに呼んでいただけませんか?いい方法があります。」

はい、と返事をすると彼女は携帯を取り出し、頬にあてた。


二十分位して、妹がビルに入って来た。

その姿に怜は驚愕した。制服を見てわかった。都坂高の人だ。

「お姉、来たけど。何なん?ここ」

制服姿の彼女は言った。

「妹さんでよろしいですね?私は成敗屋です。お姉さんの依頼の為に協力してもらいます。」

彼女は、「成敗屋」と聞いて状況を理解したのか直ぐに承諾した。一連の経緯を説明すると何の質問もなく納得した。

「で、ウチは何をしたらええんですか?」

「妹さんには…」

「そのイモウトサンゆーの、止めてもらえます?ユイでええですよ。」

「ですが、お姉さんは匿名希望なので。」

「そんなん、ウチが名前言ったところでお姉の名前はバレへんやん。苗字やったらアレやけど」

なんだこいつ。

怜はこの押しの強い高校生に変な親近感が湧いた。こっちはフードまで被って取っ付きにくさを演出しているのに、全く意に返さない。

なんだこいつ、気に入った。

「では、ユイさんにはまず、誘拐されてもらいます。」

「え?」

ユイより先に姉の方が口を開いた。

「どういうことですか?それ。てゆうか、何で彼が妹を誘拐するなんて分かるんです?」

「単純なことです」

そう言って怜は足を組んだ。なるべく正体がバレないようにずっと机に鎮座していたが、おなじ体勢でさすがに尻が痛くなってきたのだ。

「お姉さんの話を聞く限りでは相手は相当周りの目を気にして行動します。それに、狙いを定めた人間の関係者を使って脅迫するのなら直接怪我をさせるか、誘拐のいずれかに行動が絞られます。しかし、あなた首回りを見る限りでは外傷が見当たらない。胸ぐらを掴まれる、とおっしゃてましたが、その割りには目立った締め付け後がない。つまり彼はただ、あなたの気を引く為にわざと気性が荒くなったように振る舞っていると推測出来るのです。こうして、彼の行動はユイさんの誘拐に絞れた訳です。」

べらべらとしゃべっていたが怜は事実を語っていた。探偵モノの小説のラストシーン、犯人を当てる推理披露の場面の台詞を拝借して語ったので自分でも驚くくらいに信憑性が増した。

「すっごーい!探偵みたいですね、成敗屋さんて」

「でも探偵は犯人を制裁しません。」

内心嬉しくなっていたが怜はその気持ちをおさえて淡々と返事をする。

「それでどうするんです?」

「ユイさんには体術を教えますので、それで身を護り、これを渡して下さい」

そう言って怜は引き出しから紙で折り込まれた封筒をユイに渡した。


表面に書かれた達筆な墨字。


「果たし状」


「なんですの?これ」

「文字どおり、果たし状です。ユイさんはこちらを暴力彼氏に渡して下さい。彼氏に認識するように渡して下さい。そうしないと計画は成立しませんから。」

「そんなん、ウチ変な人みたいになるやん。お姉がアイツのアドレス教えてあんたが直接メールしたらええやないの。そっちの方が早いし。」

あ、確かに。

と怜は思ったものの、何か悔しかったので言い返す。

「全く最近の若者はすぐこれだ。いざとなればすぐメールだの、まどろっこしいだの」

まあ、自分も「最近の若者」なのだか。と怜は自分でツッコミながらも続ける。

「いいですか?この果たし状は相手にインパクトと微かな恐怖を与える役割があるのです。いきなり知らないアドレスからメールが来れば内容よりもその不振さの方が勝ってしまう。お姉さんが送れば私に依頼したこと、或いは誰かに協力を仰いだことがバレてしまう。あなたが送ればアドレスが相手にわかってしまう。嫌でしょ?」

「せやけど…」

ユイは反論されて引き下がった。

あと一圧しだ。

「それに、物質である紙で送り付ければ、必ず相手は気にとめます。それだけで存在感を誇張出来るのです。ユイさんが渡せば、その因果性に戸惑ってさらに果たし状の存在感は拡大するんです。」

暫く沈黙が続いた。

突然、ユイの姉が口を開いた。

「その果たし状には何て書いてるんですか?」

「成敗の予告です。ある決めた場所に、ある決めた時間に、来るように書いてあります。詳しい事は言えません。」

「何で?ええですやん。」

「成敗の重さは私の独断と偏見で決めます。何しろ他に社員がいないもので。ただし、どれだけ相手がいい条件で媚びて来ようと成敗を止めたり、軽くなったりはしないのでご安心を。」

大学生は眉をひそめながらも頷いた。

「あのう、報酬はいくら払えば?」

「お支払は成敗後で結構です。こちらからお伝えしますのでメールアドレスをこちらに記入してください。この情報は成敗終了後にあなたの目の前で破棄するまで第三者にバレないように保護いたしますのでそちらもご心配なさらず。」

彼女は承諾すると、妹と共に事務所を去っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ