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怜が中心になっていきます。

それから事はスムーズに進んだ。

拓真が謝罪し復帰宣言すると全員がそれを祝福した。

それからほどなくして、望月が戻り、シネミヤは息を吹き返したのである。

シネミヤ一同は秋の文化祭に向けて、作品の制作に取りかかった。

タイトルは「真・都の剣客」、以前のリベンジ作だ。

主役は勿論、拓真だ。


江戸時代、尊皇攘夷志士と新撰組の攻防のなか、京都の穏やかさを保つべく暗殺を行う(ひと)()りが何人もいた。

そんな、卑劣かつ冷酷な人斬りどもを倒すべく表れた浪人。その名は柳田剣三郎。

彼は次々と表れる強者を倒して行きながら、京都の町で恐ろしい計画が企てられていることに気付いてしまう。


というストーリーなのだが依然は拓真が人斬り(ひとき)役をやって失敗した。

と言うのも、拓真の演技が不自然だったのである。特に、殺陣(たて)のシーンで主役の動きが拓真の不自然な動きによって霞んでしまったのだ。見かけからすると拓真の演技のせいなのだが、実は脚本に問題があった。シネミヤにおける脚本とはそのまま台本を示していて、脚本家(係)は話の構成から登場人物の役決めまで一人で行うのだ。

当時三年生には脚本家がおらず、二年だった望月が担当することになった。

 「しかし望月先輩もホント時代劇スキっすよね。」

鎌田が望月に絡んだ。

「別に。ただ侍が好きなのよ。」

「へぇー、変わった趣味。」

シネミヤの脚本を担当する望月怜は描く内容のほとんどが侍に基づいたモノであった。例えその時代設定が現代であったとしても、そんな時代を生きる侍の姿を描いていて、この時代錯誤感が意外と人気を呼び、シネミヤの歴史の一端を紡ぐものとなった。

「笠原くん。このシーンなんだけど…。」

ようやく堂々と自分の脚本が撮影出来るかと思うと怜はうきうきしてきた。


彼女が二年のとき、一年生が作るデビュー作品を観たとき、一際輝く演技をする新入生がいた。それが拓真だった。怜はその年の秋にやる文化祭の作品を彼を主役に早くも構想が浮かび上がっていて、夏には完成していた。しかし三年生の先輩を差し置いて新入生の拓真を主役にするのはどうなのかと、その脚本は大きく改変され、かのような事が起こった。

その事に強い責任を感じていた彼女は突如部活を仮退部し、ある商売を始めた。

成敗屋。

怜は拓真がどう苦しんでいたのかを知るべく、実際に人に刀を向けることでわかるのではないかと考えた。


そこで町のあらゆる人に噂を流し広告した。

金を払えば、悪いやつを成敗してくれる人がいるらしい。

成敗屋なるものができた。

事務所はあの辺らしい。


何でもいい。さりげなく、でも浸透するように、これまで見てきたスパイ映画の知識を駆使してその存在をある程度知らしめた。

 自宅の向かいにあるビルは空き家になっていて知り合いの人が管理していて、そこをシネミヤの倉庫として借りていたので怜はそこを片付けて事務所にした。

営業開始一日目に依頼は来た。

依頼者は大学生の女性だった。

顔がバレるのはマズいのでとっさに着ていたパーカーのフードで顔を隠す。

「いらっしゃいませ。」

わざと低い声で言うと相手は少し気圧されている。

「あのう。成敗屋さんはこちらであっていますでしょうか?」

使い馴れていなさそうな敬語を年上から聞けて満足した怜は調子に乗った。

「ええ、あっていますよ。早速ですが依頼内容を…。あーいや。先に実名か匿名、どちらで対応致しましょうか?」

「匿名でお願いします。」

雰囲気を出すために置いておいた書道道具に目を向けたが、後処理が面倒なのでペン立てのボールペンで日付と匿名の依頼人の特徴を記録する。

「依頼内容」と書きながら怜は依頼人に話し掛ける。

「ずいぶん目元が腫れてすね。コレですか?」

と突き立てた小指を見るなり彼女は激しくうなずいた。

「彼氏を、成敗してほしいんです。」

「どうして?」

「理由も言わないとアカンのですか?」

怜はわざと深い溜め息をついてから言った。

「お客さん。浮気された復讐とか、フラれたのが納得いかないからって報復をかましたいのなら暴力団員にでも頼んで下さい。私は明確かつ正当な理由でないと、例え目の前に国家予算を越える札束を積まれても依頼をお引き受けすることは無いです。プライバシーの保護は致しますので、理由は伺わせていただきます。」

依頼人は少し困った表情をしてから話しだした。


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