目覚
拓真が目を覚ますと…
瞼を閉じているのに、眩しい。
うっすら目を開けると、強烈な光が眼球をさしてきた。
拓真は思わず目をつぶった。初夏の新鮮な朝の空気は、微睡む拓真に気力を与えた。ベッドから起きた拓真は、眼鏡を取ろうと机に手を伸ばす。
「痛っ!」
からだの節々が痛い。特に首の根本が激しくいたい…。
え
「はぁ?!」
自分の部屋である。
拓真は自分のおかれた状況に疑問を抱く。
昨夜、確かに渡月橋で「成敗屋」に一撃を食らい、そこで、意識が消えた筈だった。
本来ならば、橋の上で倒れているのが自然だ。
しかし、拓真は部屋にいた。眼鏡も定位置に置いてある。
おかしい、あの女が連れ帰ったとでも言うのか。
拓真は以前見た探偵ドラマを思い出した。
密室破り
ドラマでは、人を殺していたがほぼ同じだ。家のカギはかけていった筈だし、部屋、いや、家中の窓は全て閉じておいた筈だ。
とりあえず、ダイニングに行く。拓真はキッチンで目玉焼きを作っている母親に訊ねた。
「なあ、母さん。昨日の晩、何もなかった?」
「何よいきなり。地震でもあったけぇ?」
どうやら、家のインターホンは鳴らしていないようだ。
「いや、そう思ったけど気のせいやな。」
拓真は適当に誤魔化すと、目の前に置かれたトーストにかじりついた。
支度を済ませ、家を出る。
拓真は学校までの間、考えた。
父親に聞いても返事は同じだった。
つまり、彼女が渡月橋から、拓真をつれてゆき、家に忍び込み、ベッドに寝かし付けたとしか考えられない。
しかし、どうやってカギを開けることが出来たのか。
父も母も、拓真が出かけたこと自体に気がついていないようだから、どっちかがカギを開けたということでもないらしい。
ずんぐりとした疑問を残したまま、拓真は教室の席に着いた。
先に来ていた鎌田が話しかけてくる。
「たくまぁー。えらい疲れた顔してまんなぁ。何かあったのん?」
「…果たし状が来た。」
「へぇー。ホンマに来てもうてんな。そら災難でしたなぁ。」
待てよ。なぜこいつは成敗屋について知っていた?
「お前、どうやってその事について知った?」
「いや、噂で…」
拓真は鎌田の胸ぐらを掴んだ。
「どうやってその事について知った?」
「待ってぇな。知り合いに聞いただけだけやって!」
「シネミヤに連れ戻したくて、成敗屋に依頼したか、グルってたんとちゃうんかぁ!」
拓真はなりふり構わず、鎌田を揺すり続けた。突然の大声にクラスの人たちは見てくるが、拓真の意識には入って来ない。
「いや、ホンマに知り合いに…。」
「んンなら、その知り合いとやらを連れてこんかい!」
「拓真」
「何や!」
「センセー。来てはる。」
いつの間にか教壇に手を突いて、担任は拓真たちを無表情で凝視している。
「…すみません」
二人は謝ると、それぞれの席に付いた。
拓真は斜め二つ前の鎌田を睨みつけた。
冷静なれば変な話だ、どうして鎌田は成敗屋のことを知っていたのか。知り合いとは、誰なのか。ひょっとして望月先輩に命令されているのか。
だとしても、拓真は何か腑に落ちなかった。
何一つ自分は、既に知っている人たちに振り回される。孤立して道化として踊らされる。
しかし全ての根源は全て自分にあるのだ。
もどかしい気持ちを拓真は一日中ころがして過ごした。
放課後、拓真は再び鎌田に詰め寄った。
「鎌田。そろそろ教えてもらおか。」
「な、なんやなんや、もう。今日の拓真ハン、エライ気が立ってまんなぁ。」
「はぐらかすなや。さっさと吐かんかい!誰や、その知り合いは!」
「…」
鎌田は困惑した表情でしばらく黙ってから話し出した。