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帝国魔術学院!  作者: キュノスーラ
第三章 覚醒!? 炎の狂戦士!
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覚醒!? 炎の狂戦士! 2

     *       *       *



「終わりだぜっ!」


 膝をついた少女に向かって剣を大きく振りかぶり、マックスは叫んだ。

 正直、思っていたよりも遥かに手応えがあって驚いたのだが、しょせんはこんなものだろう。


 もちろん、相手を本気で切り捨てるつもりなど毛頭ない。

 ぶん、と真っ向から振り下ろした切っ先を、少女の額の直前でぴたりと止め――


 その瞬間。

 甲高い音が上がった。


「何っ!?」


 マックスは、目を見開いた。

 目の前の少女――アニータが、ウォーハンマーを跳ね上げ、彼の一撃を受け止めたのだ。

 膝をついたまま、それも、片手で!


 思わずうろたえ、反射的に剣を引いたマックスの目の前で、アニータはゆっくりと立ち上がった。


「すごいすごいっ! すごいです、アニータさん~!」


「いえ! お待ち下さい……!?」


 ミーシャとライリーがざわめく。


 アニータの様子は、どこか奇妙だった。

 その表情には、いまや緊張も恐れもなく、ぼんやりと虚ろになっていた。

 姿勢はやや前かがみに、武器を握った手はだらりと垂れ、完全に力を失ったかに見える。


霊気オーラが、変わった……」


「えっ?」


 かすれた呟きを漏らしたのは、ルークだ。

 その表情は、今までにないほど引きつっている。


「これっ……マジで、尋常じゃねえ……! 何だ、この……威圧感!?」


「ウォオオオオオオッ!」


 猛獣の雄叫びのような絶叫がとどろいた。


「な……」


 声すらそろえて、一同がうめく。

 アニータの周囲の空間に、禍々しく輝く緋色の魔方陣が、凄まじい勢いで増殖していた。

 魔術師である一同の目には、魔力の動きが《光子》の紋様として映るのだ。

 だが、魔術の才を持たぬ者にさえ、この場のただならぬ気配は、容易に察せられただろう。


 集中した魔力の余波で空気がゆらめき、アニータを中心として渦を巻きつつある。

 熱く、鋭く、乾いた旋風――


「ヒノカゼー!」


 甲高い叫び声と同時に、その旋風が突如として炎をまとった!


「どわあぁぁああっ!」


 見物していた生徒たちが、慌てふためいて後退する。


「アニータさん……!?」


 ルークの背中に庇われて、ミーシャが呻いた。

 炎の渦の中心に立つ、アニータの顔つきが変わっていた。

 最前と同じ人間とは思えないほど凶悪な形相だ。

 目は血走り、焦点が合っていない。


「――水神の、息吹!」


 唸りをあげる炎の風を圧して、男の声が響きわたった。

 マックスだ。

 彼がかざした腕の先から、灰色の雲が一直線に噴出し、炎にぶち当たる!


「バッカヤローッ! 何、考えてんだコラァッ!? 体技館が燃えたらどぉぉするううぅッ!?」


「おおおー! がんばれマックス! そのまま消火だっ!」


 喚くマックスに、思わず声援をおくるルーク。

 突っ立っていたアニータの目がぎろりと動いて、マックスを見据えた。

 その唇が、すうっと吊りあがり、獰猛な笑いになった。

 彼女はウォーハンマーを振り上げた。


「……ヒノタマ!!」


 紅蓮を通り越して白熱した火球が、振り下ろされたウォーハンマーの先端から撃ち出される!

 火球が雲に激突し、もうもうと水蒸気があがった。

 白濁した視界の中、火球はじりじりと前進しながら、灰色の雲を喰らい尽くしてゆく。


「こっ……バカな!?」


 迫る炎を目前にしたマックスの表情に、初めて焦りと、わずかながら恐怖が浮かんだ。


「この、俺が、圧されて――」


「キィイィィィーアッ!」


 金切り声とともに、出し抜けに水蒸気の幕が裂けた。


 ガイィィン!


 少女がすさまじい気合いとともに振り下ろしたウォーハンマーを、マックスがかろうじて受け止め得たのは、奇跡に近い出来事だった。

 先ほどとは真逆の体勢で、ふたたび鍔迫り合いのかたちになる。


 ギギギギ……


 破綻ぎりぎりの力の拮抗に、金属がきしむ音がする。

 マックスは、信じがたい思いだった。

 体格も、腕力も、おそらくは戦闘の経験も、自分のほうが勝っているのだ。

 その自分を――

 目の前の少女が、圧倒しようとしている。


「くそっ……たれぇぇえっ!」


 ギャンッ!


 マックスが力任せに押し返した勢いを利用し、アニータはとんぼを切って数メートルも後方に跳び退った。

 音もなく床に降り立つと、低い姿勢を保って再びじりじりと近付いてくる。

 浮かべた笑みは、まさしく血に飢えた獣そのもの。

 その瞳に正気の色はなく、ただ、燃えたぎるような歓喜があるのみ――


「面白ぇ……」


 そんな少女を前にして。

 マックスもまた、笑みを浮かべた。


「面白ぇぜ、アニータ・ファインベルド!」


 収束した力があふれ出て、彼の服を激しくはためかせる。


「俺の本気、見せてやるよ!」


「ガァアアアッ!」


 マックスがかざした左手、アニータが突き出したウォーハンマー。

 それぞれの先端に、恐るべき魔力が渦を巻いた。

 この力がひとたび術として解き放たれれば、あたり一帯は最大級の破壊に見舞われることになるだろう。


「ちょっ……待てっ!? アニータ! それはヤバいぜっ!!」


「マックス! やめろ、それ以上は!」


 両陣営からの叫びは、両者の耳には届かない。


「ホムラノオロチ!」


「死神の大鎌!」


 高らかに響く呪文。

 その場の全員が悲鳴をあげて身体を丸め、目と耳をかばい――


「護りの盾よ!」


 突然、まったく別の声とともに、まばゆい光がスパークした。


「うおぅっ!?」


 見物人たち、そしてマックスとアニータも、思わず腕を上げて目をかばう。

 カッ! と無音の光の炸裂が、2つの術の効果を飲み込み、打ち消した。


 そして、激しい光がおさまったとき――

 そこに、ふたりの男の姿が出現していた。



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