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帝国魔術学院!  作者: キュノスーラ
第三章 覚醒!? 炎の狂戦士!
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覚醒!? 炎の狂戦士!

 と、いうわけで。

 いきなり、突然、だしぬけに、マックスとあたしのデスマッチ――

 もとい、練習試合が開催されることになっちゃったのだった!


 場所は、みんなの意見によって《体技館》に決定。

《体技館》っていうのは、体術・剣術・杖術その他、体を動かすような訓練のときに使われる、めちゃくちゃ大きな建物のことだった。


 ふつうの建物の三階分はありそうな高い天井に、じょうぶなマットがぐるりと貼りつけられた壁。

 床面積はといえば、騎士団の一隊が、馬ごとらくらく整列できそうなほど広い。

 さらに驚きなのは、これほど広い空間に、一本も柱が立っていないってこと。

 ドーム型になった天井の重み自体が、壁を安定させてるみたい。


 足を踏み入れた瞬間は、上から天井が崩れ落ちてきそうで怖かったけど、そんなことはすぐに忘れちゃった。

 だって、これから試合ってときに、天井のことなんか気にしてられないからね!


「アニータ! 落ち着いていけよっ!」


「うん。大丈夫!」


 ルークくんの力強い激励に、笑顔でうなずき返す。


 今、あたしたちがいるのは、広い広い《体技館》のどまんなか。

 真正面には、マックスが立ってる。

 そして彼の背後にずらっと控えてるのは、全員なんともアクの強そうな面構えをした男の子たち、女の子たち。

 ダグラス組の面々だ。


 でも、気圧されたりなんかしないもんね! 

 なんたって、あたしの後ろにはミーシャさんやルークくん、ライリーくんがついててくれてるんだ。


 さらに、周囲を見渡せば――


「おいおい、マジかよ! バノット組とダグラス組が、練習試合だって!?」


「こりゃすげぇや! おい、他の奴らも呼んでこいよ」


「非公式の試合らしいぜ。教官にバレないように、こそこそ行けよ!」 


「えー、女の子じゃん? マックスに勝てるのぉ?」


「でも、ヒノモトのサムライだって噂だぜ。もしかしたら……!?」


 わいわい、がやがや。

《体技館》の壁際は、あたしたちの対決のうわさを聞きつけてきた他の教室の子たちで、黒山の人だかり!

 って……

 なんか、大ごとになっちゃってるみたいなんですけどっ!?


「よく来てくれたな、アニータ・ファインベルド」


 上着を脱いでクラスメイトに渡し、偉そうな態度で進み出てきたマックスが、そう口を開いた。


「歓迎するぜ。皆、バノット組の新顔がおがみたくてうずうずしてたんだよ……

 いったいどんなヤツが、俺たちにぶちのめされに来たのかってなぁ」


 こっ、こいつぅーっ……!

 本気でムカつく!

 なんで、ここまでハラの立つセリフが言えるんだろっ!?


「へえええぇーっ。そう」


 内心さらにムカムカを募らせたあたしだけど、表面上は落ち着きはらって、にっこり笑ってやった。


「そーやって、あんまりあたしをなめてると、痛い目にあうかもしんないよ? 委員長さん」


 ダグラス組の子たちが、驚いたように顔を見合わせる。

 でも次の瞬間には、なんともいえず意地悪そうなにやにや笑いを浮かべながら、口々に言ってきた。


「おいおい、マックス。そいつ、おまえの力が分かってないらしいぞ!」


「かるーく揉んでやりなよ。かるーく、ね」


「おい、お嬢ちゃん! 負けても、泣くんじゃねーぞー!」


 なんてヤツらだ……

 マックスはマックスで、にやにやしながら「任せな」とか言ってるし。

 いくら組同士の仲が悪いからって、ふつう、ここまで言う!?

 あーもう、こうなったら、これ以上ムカムカくる前に、さっさと決着をつけるしかない!


「ちょっと! 木刀はどこ?」


 あたしがきくと、なぜか、みんながそろって不思議そうな顔をした。


「……おい」


 しばらくして、逆に、マックスがきいてくる。


「さっきから、ずっと気になってたんだけどよ。おまえ、武器は?」


「は? 武器? ……あたしの? 剣だけど」


「だから、その剣はどこにあるんだよ!?」


 マックスが、いらついたように言った。

 剣……って、木刀じゃなくて、本物の剣のこと?


 あたしの荷物は、例のイサベラ閣下の秘書さんが、寮のほうに運んでおいてくれるって話だったから、そのまま預けてきちゃった。

 もちろん、母さんの形見の刀もそこに入ってる。 

 でも、なんで、こんなときにそれが問題になるわけ?


「あたしの剣なら、荷物の中だけど……」


「何!? おまえ、ここに何しに来たんだ? ヤル気あんのか!?」


「はぁ?」


 マックスが何を怒ってるのかさっぱりわからず、あたしは、ただただぽかんとするばかり。

 と、そこへ――


「アニータさん! それならば、これをお使いくださいっ!」


 いきなり、凛としたライリーくんの声。

 同時に飛んできたモノを、あたしは振り向きざま、反射的に受け止めようとした――けど!?


「っおうわぁぁぁぁっ!?」


 ドスンッ!

 慌てて飛び退いたあたしの足元の床に、重い音を立てて(文字通りに)めり込んだモノ。


 それはなんと、超・巨大な銀色のウォーハンマー!

 先端の部分が、太った仔豚くらいある。


「我が家に代々伝わる、由緒正しき武器《ジークの鉄槌》! 

 あなたならば、きっと使いこなせるはずです!」


 って、持てるかぁぁぁぁっ! こんなのっ!

 いや、それ以前に、これ今どこから出してきたの!?


「いや、無理無理無理っ! 重いから!」


「大丈夫! 《ジークの鉄槌》は持ち手を選ぶのです! 

 優れた戦士にならば、必ず力を貸してくれるはず。

 さあ、ご自分を信じ、手に取るのです!」


 で、伝説の剣か? このウォーハンマーは……

 半信半疑のまま、とりあえず言われるままに柄を握ってみると――


「ん!?」


 なんとびっくり! 簡単に持ち上がった。

 ずっしりとした手ごたえはあるんだけど、見た目よりもずっと軽い。

 それに、持ってても、あんまり疲れを感じないような気がするんだけど……? 


 よく見ると、くもりひとつない銀色の表面全体に、流れるような文字が薄く刻まれている。

 あたしは、その形を見たことがあった。

《高天原》の講義で習った、魔力を秘めた古代の文字――


「マジックアイテム……!?」


 信じられない。

 品物に魔力をこめるのは、魔術の中でもかなり難易度が高い技のひとつだ。

 一時的に力を宿すだけじゃなくて、恒久的な効果を持たせようと思えば、熟練の術者が数人がかりで儀式をしなくちゃならない。

 だからこそ、本物のマジックアイテムはものすごく高価で、とても個人が手に入れられるようなものじゃないんだ。

 それを持ってるなんて――

 ライリーくんって、いったい何者!?


「はっ、そっちはウォーハンマーで戦うってわけか!? 面白ぇ!」


 マックスが吠えて、腰の後ろにさした剣を引き抜いた。

 幅のある刀身が、ぎらりっ、と凶悪な光を放つ。


 え? いや、えーと……

 これって、冗談だよね。


「時間無制限、一本勝負! もちろん、魔術の使用も可です!」


 あたしがとまどってるあいだに、ダグラス組の男子のひとりが、やや緊張した顔で叫んだ。

 そのとたん、ミーシャさん、ルークくん、ライリーくんが、それぞれ底抜けに朗らかな大声をあげる。


「がんばって~っ、アニータさ~ん!」


「そうだーっ! マックスの野郎をミンチにしちまえーっ!」


「即死でさえなければ、医務室で治してもらえますので!

 安心して、心おきなく戦ってくださいッ!」


「……嘘ッ!?」


 この時点になって、あたしはようやく、本気で焦りはじめた。

 慌ててまわりを見回したけど、ルークくんは拳を振りながらナゾの応援歌を歌ってるし、ミーシャさんやライリーくんも似たような感じ。

 ダグラス組はダグラス組で、てんでに自分たちの委員長に声援を飛ばしてる。


 あっ、ひょっとして。

 実はこの場の全員がグルで、示し合わせて、あたしをからかってるだけなのかも……?


 そんなあたしの最後の希望は、凶暴な笑みを浮かべたマックスがこっちに向かって剣を構えた瞬間に消え去った。

 彼が放つ殺気は、本物だ。



「ま……さ、か」


 信じたくない、と思いつつ、引きつった声で呻く――


「ホントに、本気の、真剣勝負……!?」


「はじめッ!」


 審判(?)の叫び声が響いた、次の瞬間。

 マックスがかざした切っ先に、圧倒的な魔力が収束した!


「喰らえっ、アニータ・ファインベルド!」


 歓喜さえこもった雄叫びとともに、剣を振り上げ、一閃する!


「風神の咆哮!!」


「だあぁあああああっ!?」


 本気で絶叫しながら、あたしは全身でその場を飛び退いた。

 ゴウッ! と唸りをあげて、白い羽虫の群れみたいな風の刃が通り過ぎていく。

 マックスが放った風の刃は、あたしの背後の壁にぶち当たり、頑丈な石壁の上に貼り付けられたマットをずたずたに切り裂いた。

 詰め物があたりに飛び散り、表の布地がベロリと垂れ下がる。


「ちっ、外したか……」


「ちょ……ちょ……ちょーちょーちょーちょっとおおおっ!?」


 冗談じゃないっ!

 がばあっ! と跳ね起きて、あたしは必死の形相で叫んだ。


「あんた、頭、おかしいでしょーっ!? 当たったら死んでたよ、今のっ!?」


「嫌なら、避けるか防ぎな!」


 そんな無茶なっ!?

 しかも、ミーシャさんたちまで……!


「きゃ~! すごいすご~い! すてきな反射神経です、アニータさん!」


「見事です、アニータさん! さあ、華麗なる反撃を!」


「できるかあぁぁぁっ!」


 いったいどうなっちゃってるわけ、この学院はっ!?

 あたしは、本気で戦慄した。

 真剣で試合したり、手加減なしに魔術を撃ち合うなんて、正気じゃないよ!

 これじゃ、ほんとの殺し合いと変わらないじゃない――!?


「大地神の爆走!」


 マックスが繰り出した新たな術が、巨大な馬の蹄のように床板を打ち砕きながら、一直線にあたしに迫る!

 声をあげる暇すらなく、横っ飛びに跳んで身をかわし――

 次の瞬間、あたしは本能的に《ジークの鉄槌》を頭上に跳ね上げていた。


 かざした柄に、重い一撃がぶち当たり、火花が散る!

 自分の魔術の軌跡を追って走り寄ったマックスが、思いっきり斬りつけてきたんだ。


「くうっ……!?」


 一度、受け流したマックスの剣がひるがえり、もう一度叩きつけられる。

 強い――!


「ちょっ……やめ……」


 完全な鍔迫り合いの状態になって、あたしはじりじりと後退した。

 ぎりぎりぎり、と金属が擦れあう嫌な音がする。

 これが普通の武器だったら、最初の一撃でヘシ折れてたかもしれない。

 マジックアイテムの強度があったからこそ何とか受けられたんだ。


 でも、今のあたしは突き倒されないようにこらえるのが精一杯。

 反撃したり、魔術を使ったりする余裕なんて、まるでない!


「なかなか、やるじゃねえかよ」


 容赦なく刃を押し込みながら、マックスが笑った。

 けれど、その目はまったく笑っていない。


「だが……甘いなっ!」  


 ぎゃりっ! と激しい金属音をたてて、マックスがいきなり力を抜いた。

 全身全霊で押し返してたあたしは、その勢いをとっさには殺しきれない。

 前につんのめって、片膝をついてしまった!

 床しか見えなくなったその瞬間、マックスがあたしの頭上に高々と剣を振り上げたのが気配でわかった。


 ――殺される!


 そう、思った刹那。

 頭のなかで、真っ白な光がスパークした。



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