宿命のライバル!? マックス登場! 2
――何者っ!?
あたしは呆気にとられて、いきなりの乱入者を見つめた。
扉を開けたのは、ライリーくんと同い年くらいの、背の高い男の子だった。
目の色は、ちょっと見ないくらいきれいな青色なんだけど、ものすごく目つきが悪い。
まるで狼の毛みたいな色の濃い銀髪を逆立ててる。
ラフな服装は、まるでベテランの傭兵みたいだ。
腰の後ろに、長い剣を差してるし。
って……なんで帝国魔術学院に『武装した傭兵』がッ!?
「マ……」
ミーシャさんが、引きつった声をあげた。
「マックスさん!」
「この野郎! ダグラス組のヤツが、何しに来やがった!?」
その彼女をかばうように押しのけ(力が入りすぎたらしく、ミーシャさんは悲鳴をあげてすっ飛んでいった……)ルークくんが叫ぶ。
こいつが、噂のダグラス組のメンバー……!?
いやいや、待て。
ここであたしがバタバタしたって始まらないや。
とりあえず、みんなの様子を見て、調子を合わせようっと。
って言っても、ミーシャさんはすっ飛んじゃったし――
ライリーくんは、と見渡せば、彼は教室の隅っこで、またまた一心不乱に回転しているところだった。
あの人、ほんとに、何を考えてるのかよく分かんないな……
そしてルークくんはといえば、拳を固めて半身の構え。
もはや完全無欠のケンカ腰だ。
「おら、マックス、何とか言いやがれ!」
そこらのチンピラなら平謝りに謝って退散しそうな迫力で凄むルークくんを、マックスとかいう男子は冷ややかに見返した。
「失せろ。てめえなんかに用はねぇ」
「ぬわんだとぉ!?」
「ル、ルークくん、落ち着いて~! ケンカはダメですよぉ!」
吹っ飛ばされた先からばたばたと戻ってきたミーシャさんが、ひし! とルークくんの背中にしがみつく。
ウエイトの関係上、ルークくんは小枝が引っかかったほどにも感じてないだろうけど、
「けどよぉ、ミーシャ!」
「ダメですってば~!」
一応、委員長の制止は有効だったみたい。
「ふん」
マックスとかいう男子は、ルークくんの動きが止まったと見て、ずかずかと教室に踏み込んできた。
そのまま、何を思ったか、一直線にあたしのほうへ近付いてくる。
――え? 何、何、何!?
思わず半歩引いたあたしだけど、そこまでで、なんとか踏みとどまった。
迫力負けして逃げるなんてカッコ悪いし、そもそも、こっちがビビらなきゃならない理由なんて何もない。
立ったまま、じーっとにらみ返すあたしに、そいつはほとんどぶつかりそうな距離まで近付いてきて、立ち止まり――
「ほーう……?」
品定めでもするみたいな目で、上からじろじろとあたしの全身を眺め回した。
し、し、失礼なヤツーっ!
何なの、いったい!?
「ふん」
ひとしきりこっちを観察してから、マックス(断じて「くん」なんて付けるもんかっ!)は、あからさまに小馬鹿にしたような調子で鼻息を吹いてきた。
「何だ。バノット組に新しいヤツが入ったっつうから、どんなもんかと期待して見にきてやったのによぉ。どうやら、時間をムダにしちまったらしいな……」
――ぷっちーん!
「ちょっと、あんたっ!」
あたしは、びしぃっ! と真っ向から相手の胸に指を突きつけた。
「突然のそのそ出てきたと思ったら、なぁぁぁにをいきなりベラベラと、好き勝手なことばっかりぬかしてくれちゃってるわけ!?」
マックスは、目を見開いて固まったまま、あたしを見つめてる。
まさか、こっちがいきなり怒鳴りだすなんて思ってもいなかったんだろう。
でも、なめてもらっちゃ困るよ。
あたしは、ここまで真正面からバカにされてめそめそ引き下がるほど、根性のない女の子じゃないもんね!
「だいたいあんた、誰っ!?
人にあれこれケチつける前に、自分の名前くらい、きっちり名乗りなさいよね!
そぉぉぉんな礼儀もわきまえてないヤツに、時間のムダとか言われる筋合いないから!
ちなみに、あたしは『新しいヤツ』じゃなくて、アニータ……ファインベルド、だからね! そこんとこよろしくっ!」
よぉしっ! 言ってやったぞ! スッキリしたっ!
まあ……もしかしたら、この後、ものすごいことになっちゃうかもしんないけどね……
でも、あたしの予想に反して、マックスは、いきなりキレて暴れ出したりはしなかった。
しばらく、ぽかんとこっちを見返していたかと思うと……
やがてその顔に、ゆっくりと笑みが広がってくる。
まるで、血のしたたる肉の塊を見つけた狼みたいな笑いだ。
怖ッ!
でも、今さら後に退けるもんかっ!
あたしは、ぐっと気を張って、マックスの目をにらみ返す。
息詰まる時間が流れた。
そうやって、お互いに無言のまま、にらみ合ってしばし――
「面白ぇじゃねえか。おまえ」
恐ろしい笑顔はそのまま、やがて、彼は言った。
「俺は、マックス・ブレンデン。
ダグラス組の委員長で、《剣》の部の出場者だ。
噂じゃ、おまえも《剣》の部に出るんだってなぁ?
俺は、おまえに、練習試合を申し込みに来たんだよ……」