宿命のライバル!? マックス登場!
バノット・ブレイド教官を担任とする「バノット組」。
そして、ダグラス・ハウザー教官を担任とする「ダグラス組」。
ふたつの組のバトルの歴史は、なんと、それぞれの組が発足した当初にまでさかのぼるらしい。
実は、どっちの教官も昔はこの学院の生徒で、当時から学院じゅうに知れ渡るほどのライバル同士だったそうだ。
そのふたりが教官になって、それぞれに組を受け持つことになったもんだから、もう大変。
自然、それぞれの教え子たちもお互いにライバル意識を燃やすようになって――
事あるごとにバトルを繰り返しつつ、今に至っているらしい。
こうして年がら年じゅう戦い続けてきたせいで……というか、おかげで、というか。
いまやバノット組とダグラス組は、戦闘技能に関する学院のツートップ。
他の組の追随を許さないハイレベルな実力を誇っている。
特に、毎年の戦技競技会は絶好のバトルチャンス。
どっちの組も、毎年、相手よりも多くのメダルを獲得するぞ! と闘志を燃やして、しのぎを削ってきた。
あ、メダルっていうのは、総合戦技協議会のそれぞれの部門で一位になった生徒に贈られる記念品。
つまり、一番多くのメダルを集めた組こそが、所属する生徒が多くの部門で一位に輝いた、優秀な組ってわけだ。
あの後――
みんなが大慌てで介抱してくれたおかげで、あたしは無事復活。
それから、今の説明を、三人がかりで一気に聞かせてもらっちゃった。
「でよー、去年は、なんと同点だったんだよ!」
ぐぐっと拳をにぎりしめながら、ルークくんが言った。
もちろん喜んでるわけじゃなくて、めちゃくちゃ悔しそう。
「そうなんですの~……バノット先生は、はっきりと口に出しては、おっしゃらないのですけれど……
十日ほど前には『今年こそは根性を見せろよ』って、ボソッと呟いておられましたし~」
いや、思いっきり口に出して言ってるじゃん……
なんか、コワそうな先生だな。まだ会ったことないけど。
「今年のダグラス組からの出場者は四人。彼らはそれぞれ《槍》《弓矢》《ナイフ投げ》そして《剣》の四部門に出ることになっております」
「で、オレら三人も、それぞれ別々の競技に参加するんだけどさ! ダグラス組の連中とは、出る部門が違うわけよ」
「わたしたち、それぞれに全力を尽くせば、きっと、メダルをいただけるとは思うのですけれど~……」
「このままでは、ダグラス組も、確実に各分野でメダルを獲ってくるでしょう」
「……なるほど!」
そこまで説明を聞いて、あたしは、ポン! と手を打った。
「つまり、このままいくと、たとえミーシャさんたち全員がメダルを獲れても、一個の差でダグラス組に負けちゃうってこと!?」
「そうなのですっ!」
大仰な苦悩のポーズをとって、ライリーくん。
「だからこそ我々は、あなたが来るのをどれほど待ち望んだことでしょう……!
あなたには、ぜひとも《剣》の部に出場し、ダグラス組からの出場者を打ち負かしてメダルを獲得していただきたいのです!」
「えーっ……!?」
ちょっと待ってよ。
改めて聞いてみると、それってめちゃくちゃ責任が重い役割なんじゃないの!?
「いや……でも……」
「頼むぜ、アニータ!」
「わたしからも、お願いしますの~!」
「う……でも、あたし……」
前までのあたしだったら、こうやっていろいろ説明される前に、自分から「やるやるっ!」て手を挙げてただろう。
でも、今のあたしは、臆病になっていた。
腕に自信がない、ってわけじゃない。
逆に、剣術の腕前は、あたしが人にひけを取らないと胸を張って言えるもののひとつ。
大きな競技会に出たことだって何度もある。
同い年くらいの男の子となら、真っ向から立ち合ってもひけをとらない自信はあるんだ。
でも……
もしも、試合の場で『発作』が出たりしたらどうしよう!?
とにかく、それだけが心配だった。
今までに出た競技会ではそんなことはなかったから、きっと大丈夫だとは思う。
でも、可能性はゼロか? って考えると、そうは言い切れない。
もしも、ものすごく手ごわい相手とあたっちゃって、試合中に頭がカーッとなったりしたら……!?
あたしは、ミーシャさんたちのほうをちらっと見た。
この人たちの誰も、まだ、あたしの『発作』のことを知らないんだ。
せっかくこの学院に招いてもらって、この組に入れてもらえたのに……
『発作』のときの姿を見られたりしたら、危険なヤツだって思われて、追い出されちゃうかもしれない。
追い出されるところまではいかなくても、もう、みんながこんなふうに近付いてくれなくなるかもしれない――
今まで、あたしには友達って言えるような子がほとんどいなかったし、それならそれでもいいもんね! って、がんばってたけど……
本音を言えば、おしゃべりしたり、いっしょに遊んだり、いろんなことが相談できるような相手がずっと欲しかった。
この人たち、ものすごーく変わってるけど……もしかしたら、すっごくいい友達になれるかもしれないと思う。
だからこそ、このチャンスは絶対に潰したくなかった。
それなのに、もしも大会の場で『発作』が起きたりしたら、ぜんぶ台無しになっちゃうよ……
「ああああ~! オレたちいったい、どうすりゃいいんだ!」
あたしがぐるぐる悩んでると、ルークくんがいきなり叫んで、がばっと頭を抱えた。
「このまんまじゃ、どうがんばってもメダルは三個! 引き分けならまだいいが、もしも負けたりした日にゃあ……」
「そっ、そんなことになったら……私たち、バノット先生から、どんなお叱りを受けることになるか~!」
「はっはっ……命の危険を感じますなぁ」
「うおお~、イヤだあああ! オレはまだ死にたくねぇぇぇぇ」
蒼ざめて呟くミーシャさんとライリーくんに、頭を抱えて号泣するルークくん。
「う……」
思わず呻くあたし。
この状況でも断固として「あたしは出ません!」って言い切れる人は、世界広しといえども、そう多くはないだろう……
「あ、あのー……そーゆーことなら」
ずぅーん……って感じで落ち込みまくってる三人に、あたしは、おそるおそる声をかけた。
「わかりました。あたし、出ますよ。その大会……」
大丈夫だよね……多分。
とにかく速攻を心がけて、ややこしいことになる前に、ぱぱっ! と決着をつけちゃえばさ……
その瞬間。
姿勢はそのまま、三人の動きが、ぴたっと止まった。
しばらくして。
「ほ……」
ミーシャさんが、くるっ、と首だけこっちを向いてくる。
「ホントですの……?」
「う、うん。ホント」
あたしがうなずいた、その瞬間――
「やったあぁぁぁ~っ!」
三人は、いきなりがばあっ! と飛び起きてあたしの手をつかみ、ぐるんぐるんと踊り始めた!
「おわぁあああっ!?」
「ありがとうございます~、アニータさんっ!」
「いよっ! 世界一っ!」
「おお、あなたこそ、暗闇に光明をもたらす救いの天使です!」
遠心力で宙に浮いて(主にルークくんの腕力が原因)悲鳴をあげるあたしに、ミーシャさんたちが、口々に感謝のことばをかけてくれる。
「これで、わたしたちは救われました~!」
「ナイスだアニータ! これで絶対、ダグラス組に勝てるぜ! イヤッホー!」
「勝利は、我らの手にあり! 我々四人で、絶対優勝です!」
「う……いやその……そこまで言われると……」
さっきまでウジウジ悩んでたことなんか、何のその。
あたしは、猛然と嬉しくなってきた。
《高天原》には、こんなふうに「仲間!」って感じで接してくれる子はいなかったし、ここまで開けっぴろげに感謝のことばを言われたこともなかった。
……ああ、そうだ。
あたし、もうずっと長いあいだ、誰かに「ありがとう」なんて言われたこと、なかったんだなぁ……
「ありがとう……!」
思わず、口からそんなことばが出た。
「あたし、今まで、こんなふうに……なんていうか……」
うう、ダメだ。
なんか、感激して泣きそうになってきた!
「よぉーし!」
やっと回るのをやめて、パンと景気よく手を叩き、ルークくんが叫ぶ。
「そうと決まりゃあ、ぼんやりしちゃいられねーや! さっそくダグラス組と話をつけて、アニータの練習試合を設定しようぜ!」
「え!?」
何、何? 練習試合って。
「その通り!」
斜め向きにポーズをつけながら、ライリーくんも大きくうなずく。
「敵に打ち勝つためには、まず敵を知ることです。ダグラス組との実戦経験のないアニータさんにとって、大会前の練習試合は必要不可欠と言えるでしょう」
「じゃあ、わたし、今からダグラス組の教室に行って、試合の申し込みをしてきます~!」
なんか、やたらトントン拍子に話がまとまってるんですけど。
「うおおー!」
拳を突き上げ、燃えてきたぁ! って感じで叫ぶルークくん。
「盛り上がってきたぜぇ!
おう、アニータ、遠慮なんかいらねえからな。
ダグラス組のヤツにガツーンとぶちかまして、塀の外までぶっ飛ばしてやれ!」
と、その時だ!
「よう、邪魔するぜ」
突然、そんな声とともに、バン! と教室の扉が開かれた……