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帝国魔術学院!  作者: キュノスーラ
第一章 やって来ました! 《暁の槍》っ!
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やって来ました! 《暁の槍》っ! 3

「どりゃああぁっ! ォワタタタタタタ! ッシャァーッ!!」


 ズドドドドドド……! ビシバシドスッ! ベシッ!


「一、二、三。一、二、三……」


 ぶんちゃっちゃ、ぶんちゃっちゃ……


 扉が開いたその瞬間、あたしの目に飛び込んできたのは――

 一言で言って、異様な光景だった。


「うぉおおおぉ~ッ!」


 お腹の底まで響くようなとんでもない声をはりあげたのは、教室のどまんなかに陣取ったごっつい男の子。

 タワシみたいに刈り込んだ茶色い髪。

 白いハチマキをきりっとしめて、たくましい身体を袖なしの胴着に包んでる。


 って……なんで帝国魔術学院に『格闘家』がッ!?


「アチャーアッ!」


 バスウッ!

 彼は気合いとともに跳び上がり、でっかいサンドバック(何の脈絡もなく天井からぶら下がってる)に強烈な回し蹴りを入れた!


「ふおうっ!」


 さらに、ドスッ! と反対側から手刀の一撃!


「どりゃあああああ~!」


 続いて拳の連打連打連打!

 どばばばばばば! と、ものすごい連続パンチを受けて、サンドバックは煙を上げながら回転した。

 これっていったい……!?


 でも、あたしの驚きはそれだけではすまなかった。

 その少し奥には――


「一、二、三。一、二、三……」


 そんなとんでもない光景なんて目にも入らないかのように、優雅な姿勢でひとりダンスを踊る銀髪の男の子!


 着てるものはあっさりした灰色のローブなんだけど、滑らかな足の運びといい、伸ばした指先の角度といい、なにかこう、ものすごく『王子さま』って感じ!


 その王子さまは、どうやら完全に自分ひとりの世界に浸りきってるらしく、壁に立てかけられた大きな鏡と向き合って、拍子をとりながらくるくる回ってる。


 って……なんで、帝国魔術学院に『王子さま』がッ!?


「あっ、あの、あの……ごめんなさい、アニータさん! ふたりとも、自主練習に夢中になっているみたいで~……」


 目と口を限界まで開いて固まってるあたしの表情を、ミーシャさんは別の意味に解釈したみたい。

 慌てたように呟いてから、硬直してるあたしをおいて、とことこと教室のなかに踏み込んでいく。

 おもむろに隅から椅子を引っ張ってくると、よっこらしょと危なっかしい足取りでその上にのぼり、


「みっなさあぁ~ん!」


 いきなり、両手をラッパにして大声を張り上げた。


「ちゅう、もぉお~くっ!」


「――おうっ!?」


 ドカッ! と突き刺すような前蹴りを決めた茶髪の男の子が、驚いた顔で振り返ってきた。

 振り子の要領でもどってきたサンドバックが、どすんっ! と彼の背中にぶつかったけど、よろめくどころか微動だにしない。

 さすが、格闘家……!


「あ、ミーシャ!?」


 茶髪の男の子は椅子にのぼったミーシャさんを指差し、びっくりしたように叫んだ。


「いつのまに!?」


 いや……さっきから、ずっといたんですけど……

 それどころか、彼、さっきから入り口で固まってるあたしのことにもまったく気がついてないみたい。

 ある意味すごいけど、さすがに、ちょっとさびしくなってきたなぁ……


 と。


「はっはっは」


 いつのまにか、奥で踊ってた銀髪の王子さま――ではないかもしれないけど、どうしてもそう呼びたくなる――が、ミーシャさんのすぐ足元まで近付いていた。

 片手を胸に、片手を遠くへ差し伸べるよく分からないポーズをとって、言う。


「ミーシャ、ご無事のお帰り、何よりですな」


「まあ、ありがとうございますですの~」


「して、その転入生というのは、いったいどのような方でございましたかな?」


 何か……少し丁寧すぎるっていうか、時代がかった喋り方だね。

 いったい、どういう人なんだろ?  


 そんなあたしの疑問をよそに、ミーシャさんは満面の笑みを浮かべて、さっとこっちに手を振った。

 その手の動きにつられるように、ふたりの視線が、同時に教室の入り口――

 つまり、あたしに集中する。


「………………!」


 緊張の一瞬!

 そして――


 どたばたどたどたどたっ!


「わぁああああっ!?」


 いきなり、ものすごい勢いでこっちに駆け寄ってきたふたりに、あたしは驚いて叫んだ。


「よおっ! ……えーと、何だっけ? 

 あ、そうだ。初めましてっ! オレは、ルークだ。ルーク・リンドローブ!」


 明るくそう叫んだ茶髪の男の子――ルークくん? は、凄い力であたしの手を引っ張り、ぶんぶんと振り回してきた。

 い、痛い痛い痛いっ! 肩が抜けるーっ!


「いやあー、よかったぜっ! ホラ、なにせ、大会まであと二週間だろっ? 

 どうなるコトかと思ってたけどさ。あんたが来てくれて、ホント助かったぜー! 

 これで、オレらが優勝いただきだ! よっしゃあ!」


「ううう……」


 ルークくんが、ガッツポーズをとりながらなんか言ってるみたいだけど、ようやく解放されたあたしは肩と腕が痛くてそれどころじゃない。


「はっはっ。まったく、重畳ですな」


 そこへいきなり、真後ろから声が。

 ぎょっとして振り向くと、いつの間にか銀髪の王子さま(?)が、あたしのすぐ後ろにやってきていた。

 丁寧に櫛を入れられた銀の髪に、にっこり笑って細められた目――かと思ったら、どうやら目が細いのは元々みたい。

 よ~く見ても、虹彩の色がほとんど分からないくらいだ。


「あなたさえ《剣》の部に出場してくだされば、大会の総合優勝は、もはや我々の手中に落ちたも同然ですな! 

 おお、申し遅れました。私のことは、ライリーとお呼びください。ま、偽名ですがね」


「偽名!?」


 軽いパニックに陥りそうになる脳を叱咤して、あたしは目の前のふたり――ルークくんと、ライリーくんを見返した。


 何だかよくわかんないけど、悪い人たちじゃなさそうだ。

 ――ていうか、そう、自己紹介! こっちも自己紹介をしなくちゃ。


「あ……どうも、はじめまして。あの、アニータ・ファインベルドです。

 これから、よろしくお願いします」


 ぎくしゃくしながら、どうにか、そこまで名乗って――


「……って、ちっがああああぁう! そーじゃなくってっ!」


 思わず横の空間に裏手ツッコミなんか出しつつ、あたしはようやく自分を取り戻した。


 のんびり自己紹介なんかしてる場合じゃないよ!

 なんか今、どさくさ紛れに、いくつか妙なことを聞いたような気がするんですけど!?


「あの、すみませんけど!

 さっきからさりげなく『大会』とか『優勝』とかおっしゃってる、それっていったい……!?」


 そう、そう! 

『大会』だの『優勝』だの『剣の部』だの――

 いったい、何の話っ!?

 あたし、そんなの、ぜんっぜん聞いてないよ!


「あら~?」


 片頬に手を当てて、ミーシャさんが小さく首をかしげた。


「イサベラ閣下から、聞いてらっしゃいません?」


「な……何をですか?」


「ほら、アレだよ。アレ!」


 さも当然って顔をして、ぱたぱたと片手を振りながら、ルークくん。


「さっきもオレら、その自主練をやってたんだけどさ! 

 毎年恒例……あれ? ……ホラ、あの、アレ。ナントカそうごう……あれ?」


「毎年恒例・総合戦技競技会ですの~!」


 途中からよくわからなくなったルークくんの説明を引き取って、にこにこしながらミーシャさんが言う。


「はっはっ。開催は、今からちょうど半月後ですな」


 続けて、相変わらず変なポーズをとりながら、ライリーくんが解説。


「総合戦技競技会――

 それは、剣、徒手格闘、ナイフ格闘などの各部門にわかれ、それぞれの部門における学院最強の生徒を決める、年に一度の、一大トーナメント大会!」


「は?」


「試合はすべて、時間無制限、一本勝負! 

 定められた方法により、相手から戦闘能力を奪うか、降参させた段階で勝利と判定されます!」


「い、いや? えーと……」


「ルールに抵触さえしなければ、どのような攻撃も可! 

 持てる限りの知略を駆使し、栄光をその手に掴み取れ! 

 ただし一応、殺人は不可となっております!」


「ちょっと、ちょっとぉっ!?」


 さすがに黙ってられず、大声で口をはさむあたし。

 ん? って感じで、みんなが注目してくる。

 あたしは口を開こうとして、いったん思いとどまり、胸に手を当てて深呼吸をひとつ。


「あの」


 湧き上がってくる混乱を強引に抑えつけ、できるかぎり落ち着いた声で、ゆっくりとたずねる。


「一応、念のために、確認しときたいんですけど。

 ここって……東の帝国魔術学院《暁の槍》……ですよね?」


「はっはっは」


 むやみに大きな動作で片腕を広げて、ライリーくんがきっぱり、はっきり、自信たっぷりに頷いた。


「まったくもって一切疑いの余地なく、完全無欠にその通りですなアニータ・ファインベルドさん」


「魔術学院で、何でいきなり総合戦技競技会ッ!?」


 全力で叫ぶあたし。


「ふっ! 無論のこと、魔術の使用はすべての部門において認められておりますとも!」


「いや、そーゆー問題じゃないんですけどっ!?」


「出てくれるよな!?」


「出ませぇぇぇぇんっ!」


 横から笑顔で顔を出したルークくんに思いっきり叫び返して、あたしはぜえはあと肩で息をついた。


「えっ……出ねえの!?」


「出ませんよ!? ていうか、何なんですか、その大会!?」


「あの……アニータさん?」


 そこへ、おずおずって感じで、ミーシャさんが声をかけてくる。


「なんだか、突然のことで、びっくりなさってるみたいですけど……この大会って、評議会の主催で行われる、れっきとした、学院の公式行事なんですよ~?」


「え!?」


 まさか。

 これこそが、イサベラさんの言ってた『年中行事』ってヤツ!?

 ……あ、そうか。それでイサベラさんはあたしに、剣術の心得がどうのこうのって聞いてきたんだ。

 なるほどね! 納得、納得。


 ――って、いやいやいや!

 ちがうっ! 納得どころの話じゃないっ!


「いやあの……! 魔術学院で戦技競技会って、いったいどーゆーことなんですかっ!?

 軍学校とかいうならともかく、ぜんぜん、意味が分かんないんですけど!?」


「ああ……」 


 あたしの渾身のツッコミに、しかし、ミーシャさんは慌てず騒がず、


「それは、どんな状況においても、魔術を有効に使いこなせる人材を育てようという、イサベラ閣下の、深いお考えがあってのことですの~。

『魔術は、机上の空論に終わることなく、常に実践され、活かされるものでなくてはならない』というのが、閣下の口癖ですから~」


「あ……そうなんですか?」


「はっはっ。心・技・体すべての見地からみて優れた術者を育成するというのが、この学院の基本方針でございますからな」


「……なるほど」


 言ったあたしに、ルークくんが大きくうなずく。


「毎年、ケガ人が続出するんで、通称《死の競技会》って呼ばれてるんだよなぁ」


「いやーっ! 誰か助けてーっ!!」


「はっはっ、どうか落ち着いてください、アニータさん」


 わめくあたしに、優雅なポーズは崩さないまま、ライリーくんが言った。


「何も、ただで戦え、というわけではないのですよ。

 優秀な戦績をおさめた教室には、豪華な特典が与えられます! 

 今年は、なんと、評議会からの出血大サービス! 『食堂のデザート食べ放題・一ヶ月間』です!」


「こりゃ、命かける価値あるぜっ!」


「なんでっ!?」


 そう、思いっきりツッコんで、あたしは、三人にむかって指をつきつけた。


「あたし、出ませんよ!? そんな物騒な大会! ぜったい、出ませんからっ!」


「ええっ!?」


 まともに動揺の声をあげて固まる三人。

 ――と、一秒後には。


「そこを何とかぁぁぁぁっ! 頼むから出てくれよ、アニータ!」


「ふっ! 私からも曲げてお願いいたします! どうか出場を!」


「アニータさんが出てくださらないと、わたしたち……

 ダグラス・ハウザー先生の組に負けてしまうのですう~っ!」


「わああああっ!? って、みんな、ちょっ、来すぎぎゅっ……!?」


 思いっきり突進してきた三人に押しつぶされて、あたしは、あえなく意識を失ったのだった……


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