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帝国魔術学院!  作者: キュノスーラ
第八章 激突! 総合戦技競技会!
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激突! 総合戦技競技会! 4


「すごい、すごい! すごいです~っ!」


 あたしの手を掴むなり、興奮が抑えきれない! って感じで、ぶんぶんとその手を振り回してくるミーシャ。


「アニータさん、とってもカッコよかったですわ~!」


「ホントだぜっ!」


 ルークも、満面の笑顔だ。


「あの調子なら、次も余裕、楽勝だよなっ!」


「まあ、油断はいけませんわ~、ルークくん!」


「そうだね……」


 あたしは頷いて、ぐっと拳を固める。


「最後まで油断せずに、気持ちを引き締めていくわ!

 何しろ、ここで負けたら、今までの勝ちが意味なくなっちゃう――」


 そこで、思わず、言葉が途切れる。

 あたしが何かをじーっと見ているのに気付いて、みんなも、申し合わせたように同時にそっちを向いた。


 あたしの視線の先、ちょっと離れたところにいたのは――

 人混みから少し離れたところでひとかたまりになった、何ともいえず怪しい集団!


「な……何? あの人たち……」


 まず、全身が黒い。

 いや、肌が黒いって意味じゃなくて、全身をくまなく真っ黒な服で固めてるんだよね。

 ローブじゃなく、動きやすそうな長袖の服とズボン。

 ごく普通の服なのに、全身真っ黒で揃えると――しかも、そんな格好で大勢集まると――急に不審人物にしか見えなくなるから驚きだ。


 しかも、怪しいのはそれだけじゃない。

 なんと、全員が鈍く光る銀色の仮面をつけて、素顔を隠してるんだよね!

 な、何なの、いったい。仮装?


 でも、ルークたちにとっては、疑問でも何でもなかったみたい。


「あっ。ありゃ、タシュール組の奴らだぜ!」


「ふむ」


 横から優雅に頷いて、ライリー。


「通称、学院の暗殺部隊とも呼ばれておりますな……」


「――なんで、帝国魔術学院に暗殺部隊ッ!?」


 あたしの毎度のツッコミは、当然のように流された。

 まあ……あたしも、この学院のワケ分かんなさには、だんだん慣れてきたけどね……


「あいつらよー、普段、目立つとこには、絶対出てこねーんだ。

 あの組じゃ、いつも全員があの格好をしてて、仲間内でもめったに素顔を見せ合わねーらしいぜ!

 けど……あいつら、なんで今日に限って、あんなにぞろぞろ出てきてるんだろうな?」


 ルークがそう呟いた途端、急に、ライリーの顔が曇った。


「どしたの、ライリー?」


「いえ……」


 彼は、普段の彼らしくもない真剣な表情で、


「ただ……彼らが、ああして出てきているところを見ますと、《暗黒神話》のレオナルド・ガッシュ選手も、試合に勝ち残っているようですな」


「《暗黒神話》って――」


 急に出てきた名前に、首をひねったあたしだけど……

 ちょっと待てよ? 確か、この名前、前にどこかで――


「あ! もしかして、前に、お茶飲みながらチラッと話してた……!?

 えーっと、確か《六枚羽》のナントカくんに、《闇の左手》ルッカくん――

 それから《暗黒神話》の、レオナルド・ガッシュ!」


「誰だ? そいつ」


 横からぬっと顔を出して、大真面目な表情で、ルーク。

 や、やっぱり、ルークの記憶には、あの会話の影も形も残ってなかったみたい……


「つわもの居並ぶタシュール組の中でも、最高の実力者だそうです…

 これは、相当な強敵になるでしょう……」


「まあ……」


 恐ろしそうに、ミーシャが呟いた。


「どんな技を使われる方ですの?

 わたし、その方のこと、これまで聞いたことありませんでしたわ~……」


「ふむ、それも、無理はございませんな。

 私も、最近になって噂で名前を知ったばかりなのです。

 普段、彼が表舞台に出ることは滅多にないそうですから……

 戦技競技会への出場も、今回が初めてだそうですよ」


「じゃあ、もしかしたら、あたし、次にその人と当たるかもしれないね」


 あたしは、ぎゅっと眉を寄せて呟いた。


 

 伝統的に、総合戦技競技会の対戦の組み合わせ表――通称『対戦表』は、公表されることがない。

 だから、あたしたち選手は、司会の人からの呼び出しを聞くまで、次の対戦相手が誰なのか知ることができないんだ。

 最初に聞いたときは、


(なんで、そんなむやみにドキドキするシステムになってるのっ!? まさか、イサベラ閣下の嫌がらせ!?)


 なーんて、思ったんだけど――

 これには、れっきとした理由があるらしい。  


 何でも、総合戦技競技会の第一回大会では、普通にあらかじめ対戦表が公開されてたらしいんだけど――

 その結果、ライバルへの妨害工作が続発して、なんと、競技会当日には、出場選手の人数が約半分に減っちゃってたんだって!

 ていうか、どれだけ勝ちたいわけ、みんなっ!?

 勝利への執念、恐るべし……


 そんな苦い出来事を踏まえて、非公開にされたっていう対戦表だけど……

 実際に戦う立場としては、一刻も早く次の試合相手が分かったほうが、ありがたいんだけどなぁ。

 ほら、やっぱり、心の準備ってものがあるじゃない?

 ううう、もしも次の試合で、いきなり《暗黒神話》の人なんかと当たっちゃったらどうしよう……


 ――と!


『レッディィィィス・エェェェン・ジェントルメ――ン!

 大変、長らくお待たせいたしましたぁ――ッ!

 百花繚乱、群雄割拠! その栄光はいついつまでも!

 栄えある総合戦技競技会《剣の部》の試合――

 先ほどの戦いをもちまして、ついに、その上位四名の選手が決定いたしましたあぁ――ッ!!!』


「四名っ!?」


 思わず叫ぶあたしたち。

 これまでは、とにかく呼ばれたら戦って相手を倒すだけだったから、全部で何人の選手が《剣の部》に出場してるのかすら、よく分からなかったんだけど――

 もう、そんなに試合が進んでたんだ。


 ――って、ちょっと待てよ?

 残り、四人……?

 てことは、次の試合が、もう準決勝っ!? 

 うわぁぁぁぁ! なんか、急に緊張してきたよぉぉぉ!


「落ち着け、アニータ!」


 どばし!


「ぐはっ!」


 いきなりルークに背中を思いっ切り叩かれて、ドキドキいってる心臓が、ボン! って口から飛び出すかと思った。


「い……痛ったあ~! もー! そんなに強く叩かないでよっ、ルーク!」


「え!? 悪い、痛かったか!? マジで悪い! 思わず、力がこもっちゃってよ!」


 ごしごしとあたしの背中をさすって――いや、それもまたちょっと痛いんだけど――ルークは、思わず文句を言うのも忘れちゃうほどの、とびっきりの笑顔で言ってきた。


「大丈夫だ、アニータ! アニータなら絶対、勝てるぜっ! この俺が、保証するっ!」


「そうですとも!」


 突然くるくるくるっと回転したかと思うと、ぴたっ! と見事な腕のポーズつきで静止して、ライリー。


「これまでの試合のように、全力を出し切れば、勝利への道は、おのずからアニータの前に開けるでしょう……!」


「ええ!」


 胸の前で両手を組み合わせ、ミーシャ。


「わたしたちは、もう、お祈りするしかできないですけど~……アニータさんなら、きっと!」


 うん。

 ありがとう、みんな。

 絶対に、負けられない。

 負けたくない……!


『え――、続きましてッ!』


 司会の人の、熱のこもったアナウンスが響く。


『お待ちかね! 対戦の組み合わせを、発表させていただきますッ!

 準決勝の二試合は、平行して行われます!

 選手の皆さんは、該当する競技場へ、速やかに移動をお願いいたします!

 一番競技場! ――東! 《暗黒神話》レオナルド・ガッシュ選手!

 西! 《蒼い流星》ヘイズ・ウィンダミア選手!!


 うおおおおおおおお~!!


『二番競技場!

 ――東! 《炎の武神》アニータ・ファインベルド選手!』


 ……いや、《炎の武神》って、誰ッ!?


『そして、西! 《荒野のオオカミ》マックス・ブレンデン選手で――す!!』


 うっおぉおおおおおおおお~っ!!!


「マ……マックスの野郎かよぉ~っ!?」


「あ、でも、ルークくん!

 アニータさんは、前に一度、彼に優勢勝ちしていますわ~!」


「そうですな! これは、有利な組み合わせと言えるでしょう――!」


 てんでに大騒ぎをするみんなとは、対照的に。

 アナウンスを聞いた瞬間、あたしは不思議と、心が落ち着いていくのを感じた。


 そう、か。

 そうなんだ。

 あたし……これから、マックスと、戦うんだ……!


 前は、『発作』を起こして勝った。  

 いや……勝った、ことになった。

 今度は。

 そう、今度こそは――!


「よう」


 不意に、そんな声が聞こえて。

 周りにいた人たちの歓声が、まるで吸い取り紙でも当てたみたいに、一瞬にして静まり返る。


「ずいぶん、調子いいみてぇじゃねぇか?」


「そっちこそ」


 逆立った銀髪。

 挑戦的に光る、青い目。

 剣の柄に手をかけて、だらしない姿勢で立ったまま、マックスは、しばらくじっとあたしを見つめていたけど――


「なあ、アニータ・ファインベルド。

 ……オレと、勝負しねぇか?」


 気楽な口調で、突然、そんなことを言い出した。


「は? 勝負なら、今からするじゃない」


「そうじゃねぇ」


 にやりと笑うと、尖った八重歯が、まるで狼の牙みたいに見える。


「賭けだ。俺と、お前のな。

 俺が勝ったら、お前、うちの組に来い」


 な……!?


「何だと、コラァ!? アニータは……」


 叫び出したルークを、ライリーと、ミーシャが抑える。

 マックスは、平然とあたしを見据えた。


「どうだ。受けるか?」


 そう、問いかけられて。


「負けないわ……」


 燃えるように。

 胸の奥底から、湧き上がる言葉があった。


「あたしは、負けない! 絶対に負けない!

 いいよ、その賭け、受けてあげる!

 ……ただし! あたしが勝ったら、あんた、グラウンドのど真ん中で女装して踊ってもらっちゃうからねっ!?」


 あたしの一言に――

 どおっ! と、まわりにいた観客たちが、一斉に沸いた!


「す、すっげぇーっ! こりゃ、見逃せないぜっ!?」


「ますます盛り上がってきたあ……っ!」


「どっちも、がんばれよーっ!!」


 この盛り上がりに、さすがのマックスも、一瞬、顔が引きつったみたいだったけど。


「面白ぇ……」


 その顔に、ゆっくりと、あの笑みが戻ってくる。

 たぎる闘志が透けて見えるような、野生的で、獰猛で、どうしようもなく惹きつけられる、あの笑み――


「上等だ、乗ったぜ!

 おう、今の言葉、負けた途端に忘れたりするんじゃねぇぞ……?」


「当然! サムライの心意気、見せてやるわっ!」


『――え~、アニータ・ファインベルド選手、マックス・ブレンデン選手!

 何やらたいへん盛り上がっているところ恐縮ですが、とりあえず、二番競技場へ移動をお願いしまーす……!』


 火花を散らし合うあたしたちのあいだに、司会の人の、遠慮がちなアナウンスが割って入った。

 すみません、司会の人……


「ま、こんだけの証人がいりゃ、充分だろう」


 ルークたちのほうを、ことさら挑戦的な目つきでちらっと見て。


「待ってるぜ? アニータ・ファインベルド……」


 マックスは、あっさりと踵を返し、二番競技場のほうへと歩いていった。



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