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帝国魔術学院!  作者: キュノスーラ
第八章 激突! 総合戦技競技会!
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激突! 総合戦技競技会! 3

「あれーっ?」


 明るい茶色の目を真ん丸く見開いて、こっちを指差し、ルッカくんが叫んでくる。


「お姉さん、生きてたのっ!?」


「当ったり前でしょーがっ!

 ――てゆーか、まさか、殺す気でやったんじゃないでしょーねっ!?」


「えっ? いや、別にそんなことないけどー……

 でも、ボクの《左手》を喰らうと、たいていの相手は、骨も残らないからー」


「そんな危ない技を、試合で平然と使うなぁぁぁぁっ!!」


 すとんっ、と地面に降りて、思わず絶叫するあたし。

 ――いやーっ、危なかったぁぁぁ……!


 試合が始まった直後は、お互いに様子見って感じで、数合、打ち合って。

 その段階で、この子――いや、くどいけど40歳なんだよねこの人。でも、どう見ても10歳くらいにしか見えないし、向こうもこっちを「お姉さん」って呼んでくるから――は、相当な使い手だって分かった。


『そーれーっ!』


 あっけらかんとした気合いとともに振り抜かれる長剣。

 それが、風を巻くほどに速い!

 この子は小柄だし、エルフっていう種族には華奢で非力なイメージがあるけど、とんでもない。

 相当、鍛えてるんだろう。

 重い長剣を、まるで腕の延長みたいに使いこなしてる。


『ヒカリバナっ!』


『広がれ、緑の網ーっ!! 貫け、黒の刃っ!』


『ヒノタマ!』


 バチバチバチッ!


 バシュンバシュン!


 ゴゴゴゴゴッ!!


 剣での戦いの合間に魔術で撃ち合い、互いの攻撃をあるいは防ぎ、あるいは逸らし――


『やるねっ、お姉さん!』


 そう、嬉しそうに叫んだルッカくんの左手――

 手袋に包まれたその左手が、ヴンッ! と唸りをあげた、次の瞬間!


『じゃあ、これでどうだーっ!?

 発動せよ、《闇の左手》ー!!』


 あたしに向かって、勢いよくその手が振り下ろされ――

 ボガァッ!! と、まるで超巨大な砲弾の直撃でも受けたみたいに、あたしが立っていた地面が大きくへこんだ!


 結果的には、ハゴロモの術を使って、間一髪で難を逃れたあたしだけど――

 あれ、まともに喰らってたら、シャレにならなかったよ!?


『アニータ・ファインベルド選手、見事な動きです!

 飛行の術により、ルッカ選手の必殺技《闇の左手》を回避していたーっ!』


「ボクの《左手》は、それ自体、魔術武器になっててねー!

 ほんの一瞬だけ、極大質量の物質を発生させることによって、強力な重力場を発生させることができるんだ!

 この攻撃をまともに防ぐことは、絶対にできないんだよっ。

 鋼だって城だって、完璧に、ぺっしゃんこにできるんだっ!」


 えーっと……?

 何か、得意になって解説してくれるルッカくんだけど、あたしに理解できたのは、最後の二文だけ。

 最初のほうのよく分かんない専門用語については、後で、ミーシャにでも解説してもらおうっと……


『さあ、ルッカ選手が切り札である《闇の左手》を出した以上、アニータ選手、俄然、苦しくなって参りました!

 何しろ、ルッカ選手の言葉通り、この《左手》の攻撃を防ぐ方法は事実上ありません!

 残る手段は、ただ、回避のみです!

 しかもルッカ選手は、この《左手》での連打を得意としているーッ!

 これまでの最高記録は、なんと二十三連打だーっ!

 アニータ選手、地獄の二十三連打を果たして避けきれるのか――っ? おっ?

 おっ、おっおっ……おおおおおお!?』


 思わず喚く、司会の人。

 ふっふっふっ――甘いねっ!

 23連打だか、何だか知らないけど!


「どぉおおおおおりゃあああああああ~っ!!!」


 相手が連打が得意なら、こっちは、それを超えていけばいいだけだもんね――!

 あたしは、とにかく踏み込み、踏み込み、踏み込んで、息つく間もない連撃で斬りつけまくった!


『休まない! それでは、相手を休ませることになります!』


 そんな声が、耳元によみがえる。

 ヒノモトにいた頃によくやった、ソヨカ師範との剣術の修行――「千枚斬り」。

 ソヨカ師範が、術をかけた紙切れを空中いっぱいに飛ばして、あたしは木刀を握る。

 そして、最後の一枚をやっつけるまで、とにかく休みなしに切って、切って、切りまくるんだ!


『も、もうダメ、死ぬぅ……っ!』


『いけません! 動きを止めない!

 太刀行きの速さで相手を圧倒するのです! もっと速く!』


『ひ~……!!』


『まだです! もっと速く! もっと速く!』


 OK、ソヨカ師範。

 もっと速く。

 今こそ、その修行が生きるとき――!



「わっ、わっわっわぁぁっ!?」


 鋼と鋼が噛み合い、激しく飛び散る火花の中を、ルッカくんが後退する。

 あたしの攻撃を、何とか全部受け流しているけど、今の彼には、それが精一杯。

 

 魔術を使うには、集中するための時間が要る。

 修練を積むことで、その時間はどんどん短縮できるけど、まったくゼロにはできない。

 今、ルッカくんはあたしの攻撃を防ぐことに全神経を使っているから、魔術を使う余裕なんてないんだ。

 これで、いける――!


「ハゴロモ!」


 あたしは出し抜けに攻撃を止めると、空に舞い上がった。

 同時、ルッカくんも、ここが最大のチャンスとばかりに左手を振りかざす。


「発動せよ、闇の……ッ!?」


 標的であるあたしを見上げた、ルッカくんの目。

 その目に、無数の光の針が突き刺さる。

 そう、飛び上がったあたしの肩越しに降り注ぐ、眩い太陽の光が――!

 その一瞬が命取りっ!


「せいやぁぁぁぁぁッ!!」


 あたしが、渾身の気合いとともに振り下ろした刃は。

 反射的に左手を下ろして目をかばったルッカくんの、その左手に食い込む寸前で、ぴたりと静止した――


 お……

 おおおおおおおおおおっ!!!


 きっかり一呼吸の、完全な沈黙の後、怒涛のような拍手喝采が沸き起こる!


「しょ……勝者! アニィータ・ファインベルドォ――――ッ!!

 か、感動です!

 なんと、なんと、熱い試合だったのでしょうか……ッ!

 ああ、この日まで司会をやってきて、本当に良かったッ……!」


 叫ぶなり、おいおいと泣き出す司会の人。

 いや、何も、そこまで感動しなくても……


「凄いなー、お姉さん! 完敗だよー!」


 そう言ったのは、ルッカくん。

 汗が光る顔で、あっけらかんとあたしに握手を求めて、えへへと笑う。


「凄いね、あの太陽作戦! 狙ってやったんでしょー?」


「うん、まあね! 途中で、暑いなと思ったときに、ふっと思いついてねっ」


「うーん、見事に引っかかっちゃったなー!

 いや、でもお姉さん、ホント強かったよー!

 最後の連続攻撃なんか、ボク、ホントに斬り殺されるかと思ったもーん!」



 ど  く  ん



「――えっ?」


 あたしに……斬り殺される?

 あたし、に……?

 何か、心に奇妙な感触を感じた、と思った、次の瞬間。


「うおおおおおお~! すっげーぞ、アニータァァァァ!」


 観客席からめちゃくちゃでっかい叫び声が響き渡って、あたしは思わずその場にずっこけそうになった。

 叫んでるのは、もちろんルーク。


「オレ、今の試合、すっげー興奮したぜっ!

 ほらほら、見ろ! 鳥肌!」


「はっはっは、ルーク、男の鳥肌なんて誰も見たくございませんよ」


「きゃあ~、きゃあ~! 素敵でした、アニータさん!

 ほらほら、わたしも、鳥肌ですの~!」


「は、ははは……」


 良かった!

 みんな、喜んでくれてる……

 あたしは、ルッカくんと礼を交わして、みんなが待つ場所に戻っていった。

 ついさっきの奇妙な感触の正体は、結局、分からないまま――



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