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帝国魔術学院!  作者: キュノスーラ
第八章 激突! 総合戦技競技会!
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激突! 総合戦技競技会!


 人にどんな事情があろうと、悩みがあろうと――

 おかまいなしに太陽は日々きっちり昇り、沈み、そして、その日はやってくる。




 ぽんっ、ぽんっ! ぽんぽんぽんっ!!


 雲ひとつない、青い空。

 いくつもの煙玉が景気よく弾けて、その場に集まった全員の気分を、いやがうえにも盛り上げる――


『さあぁ~て! いよいよ皆さんお待ちかね、真打ちの登場だぁ~!

 総合ォ~戦技競技会、《発明》~部門ッ!

 最後の、出場ォ~選手はぁ~~~~!!』


 会場に満ちみちる興奮を代弁するみたいに、アナウンスの声にも力がこもる。

 司会をつとめてるのは、総合戦技競技会・実行委員会の人たちだ。


 雲ひとつなく晴れ渡った空のもと――

 大きなテントの下の本部席に陣取った司会役の生徒は、拡声の呪文を使って、次の出場者の名前をグラウンドいっぱいに響き渡らせた。


『昨年度~、優勝ォ! エントリィ~・ナンバ~8~!

 バノット・ブレイド教官~門下、ミ~~~シャ・エフタァ~ゼ~ン!』


「はいっ、ですの~!!」


 どおおおおっ! と沸いた観客たちの歓声に迎えられ、ミーシャがにこにこしながらグラウンドの真ん中に進み出る。


「がんばれーっ、ミーシャぁ!」


「ご武運を、お祈りしておりますよぉー!」


 あたしとライリーも、両手をラッパにして、他の生徒たちのあいだから思いっきり声を張り上げた。


 うーん、凄い、凄いなっ!

 これが帝国魔術学院《暁の槍》の、総合戦技競技会……!


 これまでに、それぞれの競技の試合はけっこう進んでいて、観客たちの興奮のボルテージも上がる一方だ。

 もちろん、あたしのテンションもね!


 いやー、昨日までは、自分の試合はいったいどうなるのか、「発作」は出ないか……なんて思い悩んでたせいで、けっこう憂鬱だったんだけど。

 いざ本番が始まってみると、これがもう「凄い!」の一言!

 あんまり興奮したもんで、昨日までのウジウジした気持ちなんて、空の彼方に吹っ飛んでっちゃったよ。


 あたしたちが今いるのは、グラウンドに設営された、いくつもの仮設競技場のうちのひとつ。

 仮設観客席――でぇ~っかい、折りたたみ式のひな壇――で、ぐるっと周囲を囲んだ空間が、それぞれの競技のバトル・フィールドになってるってわけ。

 どこの競技場も、めちゃくちゃに混み合ってて、ほんとに学院の関係者全員が集まってきてるんじゃないかってくらいのごったがえしようだ。


「がんばれ、ミーシャぁ! ファイトォ~!!」


「バノット組に勝利を~!」 


 叫ぶあたしたちの声に気付いてくれたのか、ミーシャが、こっちを見て大きく手を振る。

 今、ミーシャは、いつもの青いローブに片メガネ――というスタイルじゃなかった。

 おでこの上に押し上げた、ごついゴーグル。

 あっちこっちに油の染みのついた、灰色の作業着。

 完全無欠に「技師」スタイルのミーシャは、だぶだぶの袖をまくった細い腕を、彼女の「発明品」――彼女の横にうずくまる、防水布で覆われた、とんでもなく巨大なモノ――から突き出したレバーにかけていた。

 ふだんは可愛いミーシャが、今は、ものすごく凛々しく見える。


『それではぁ~、ミーシャ・エフターゼン選手!

 発明品の紹介に引き続き、さっそくに、デモンストレーションに入っていただきましょお~~~っ!』


「はぁい!」


 気合いの入ったアナウンスに元気よく応え、ミーシャは、ゴーグルをずり下げてかけた。


「ミーシャ・エフターゼン! 行っきまぁ~す!!」


 何のためらいもなく、掴んだレバーを、ぐいっと押し下げる。


「これが、わたしの新発明――

 陸上戦闘用決戦兵器《ベルーガくん1号》ですの~!!」


 ゴァアアアアアアアッ!!


 まるで伝説の巨人のように、その身を覆う布を跳ね除け、ミーシャのことばに応えて、その場に立ち上がったモノ――


「う……わ……!」


 それは、黒光りするボディに、いくつも突き出す棘や武装を備えた、超巨大な「ロボット」だった!!

 事情を知らない人が見たら、本物の巨人と間違えて、腰を抜かしちゃうかもしれない。

 ロボットの片手の上に立っていたミーシャの身体は、みるみるうちに高みまで持ち上げられていく。


「う、動いたっ……! ほんとに、動いたぁ!」


「ふっ! さすがミーシャですなっ!」


 興奮のあまり、思わずライリーの手を握りしめて飛び跳ねるあたしに、相変わらずのニコ目で、満足げに《ベルーガくん1号》を見上げるライリー。


 なんで、総合戦技競技会で発明なの……? なんて、今となっては愚問だよね。

 こんな切り札があったら、たいていの戦では、戦わずして敵を圧倒しちゃうよ……!

 あらかじめ聞いて知ってたあたしたちでさえ、思わず目を見開くほどの威容だ。


『え~、《ベルーガくん1号》は、魔術による遠隔操作が、可能であるのみならず、このように、操縦者が直接、搭乗することによって~、いっそう滑らかな動きを、実現することができますの~!』


《ベルーガくん1号》の胸の辺りにある操縦席におさまったミーシャの声が、これまた拡大されて響き渡る。


『動力源は、搭載した、9個のパワーストーンで~、フル充填状態ですと……

 およそ、ティーポット1杯のお水が沸騰するくらいまでの時間、動かしていられます~!』


 ――ん?

 ティーポット1杯分の水が、沸騰するまで……?


「わりと短いですな」


 あ、ライリー、言っちゃった!

 ダメだってばっ! そんな情報、出しちゃったら、審査のマイナスポイントになっちゃうよぉ!

 あたしの心配通り、他の生徒たちもざわざわし始めたし、審査員――本部席の教官たちの中にも、何人か首をひねってる人がいる。


『え~と、しかし、ですね~!』


 そんなこと関係ない、とでも言うかのように、ミーシャの声は、確固たる自信に溢れていた。


『オプションとして、パワーストーンを組み込んだバッテリーモジュールを背負うことにより、稼働時間を、最大で5倍まで、延ばすことが可能になります~。

 さらに、この《ベルーガくん1号》は、さまざまな武器を装備していまして~、短時間でも、敵の制圧に、絶大な威力を発揮しますの~。

 今から、皆さんに、その力を、お見せいたしますね~!』


 ミーシャのことばを合図にして、実行委員会の皆さんが、遠くの方に巨大な的をごろごろと引き出してきた。

 いや、的っていうか、もはや、ちょっとした塀って感じ。

 委員会の人たちが十数人がかりで、下に丸太を噛ませて、ようやく引きずり出してきたんだもん。

 漆喰でがっちり塗り固めてあって、ちょっとやそっとの衝撃では、壊れたり倒れたりしそうにないよ――?


『では、行きま~す! 《ベルーガくん1号》最終兵器~……』


 ミーシャの声と同時、《ベルーガくん1号》の右腕がぐいいいぃんと動き、背中に背負っていた長大な金属製の筒を、標的に向ける。

 あれは「銃」って呼ばれるもの――

 前に、ミーシャに教えてもらった。

 魔術による爆発の推進力を利用して、金属の筒から弾丸を撃ち出す、最新の武器――


『ヘヴィ・インパルス・ガン、発射ぁ~!』


 ズガアアアアァァァアン!!!


 撃ち出された弾丸は目にも留まらず、轟音とともに、分厚い標的が木っ端微塵に四散する!

 反動ですざざざーっ! と後ろに下がった《ベルーガくん1号》だけど、止まると同時に、今度は逆に標的に突進!


『さらに~! バーニング・ヘル・ファイヤー!!』


 ゴオオォォォォォウッ!!


《ベルーガくん1号》の口(?)がカッと開き、噴き出した炎が、崩れた標的を完全に飲み込んだ!

 な、なんて威力……!

 あんなものを、あの穏やかなミーシャが作り出しちゃうなんて……


『ありがとうございました~!

 わたしからのデモンストレーションは、以上ですの~!

 …………あらぁ?』


 きょとんとした、ミーシャの声。

 同時に《ベルーガくん1号》の首がぐるんと動いて、本部席のほうを見る。

 つられてそっちを見ると、飛び散った火の粉のいくつかが、本部席のテントの屋根に燃え移っていた。


 ……………………。


 って、ちょっとぉぉぉぉぉぉ!?


『ま~さ~に~奇跡ッ!

 学院が生んだ最高の頭脳が、最強の発明を生み出したぁ~っ!!

 それではこれより、審査員の先生方によります審議を――

 って、熱ッ! 熱い熱い熱い! お早く!

 ……はい! はい、というわけでね、熱ッ!

 早々に避難しませんと、さすがに危険な感じですので、熱うッ!?』


 いや、司会の人、早く逃げたほうがいいってばーっ!


『し、審査員の先生方、満場一致により、優勝が決まりました!

 優勝! バノット・ブレイド教官~門下~、ミ~シャ・エフタ~~~~ゼン熱ちちちちちち!!

 水! 水~ッ!!」


「や――やったぁぁぁぁ!?」


「はっはっは! お見事でございます、ミーシャ!!」


 燃え落ちるテントをよそに、がっちりと手を取り合うあたしとライリー。

 観客席からも、うおおおおお! と祝福の声があがる。  

 そこへ――


「いようっ!」


 だだだだだだっ! と走ってきたのは、ルーク。

 ルークも、今の今まで自分の試合に出てたんだ。

 光る汗を拭いもせずに、


「どうなったどうなった、ミーシャはっ!?」


 と叫ぶ。

 ほんとはルークの試合も見に行きたかったんだけど、当のルークに、


「オレはいいから、ミーシャを応援してやってくれ!

 そんで、オレに、ミーシャの試合がどうなったか、説明してくれよなっ!」


 って言われてたんだよね。


「ミーシャ、優勝したよーっ!」


「おおおおお!」


 まるで自分のことみたいに、満面の笑顔になって、ルーク。


「そうだと思ったぜっ! さすが、ミーシャだなっ!」


「はっはっ。そういうルークは、いかがでしたかな?」


「おうっ。オレかぁっ!」


 にいっと笑って、ばしん! と力こぶを叩くその様子を見れば、言葉なんかなくたって、結果は分かるね。


「もっちろん、優勝だぜ! 全員、ぼっこんぼっこんにしてやった!

 オレの実力、見たかっつーの!!」


 そう言ってふんぞり返るルークの背後を、


「うーん、うーん……!」


「痛てててててて……チクショー……!」


 ぞろぞろぞろぞろと進んでいく、担架の列……

 まさか、あの人たち全員、ルークが……!?

 怖いから、あえて何も聞かないでおこうっと。


「で、ライリーは、どーだったんだ!?」


「はっはっ」


 ルークの問いかけに、得意満面の笑顔で、ライリー。


「無論のこと、優勝でございますとも!

 イェリーナ・オレグ嬢の刃扇さばきには、多少、肝を冷やされる場面もございましたが……

 彼女も、わたくしの新必殺技《運命の足音》の前には、敵ではございませんでしたな」


 いや、それ、いったいどんな技なわけっ!?

 完全に自分の世界に浸りきってポーズをとるライリーの背後を、


「う~ん、う~ん……!」


「悔しいッ! 覚えていらっしゃい、バノット組のライリー……!」


 やっぱりぞろぞろと運ばれていく、担架の列……


「あの……ライリー……?

 ライリーが出てたのって、確か《クラシックダンス》部門、だったよね……!?」


「はっはっ。その通りでございますよ」


「なんで、クラシックダンスで担架が出動しなきゃなんないわけっ!?」


 どう考えても、何らかのバトルが勃発してたとしか思えないんですけど。

 あたしは、自分が出場する《剣術》部門の前半の試合があったから、ライリーの試合は全然見られなかったんだけど……

 ちょっと、っていうか、かなり見てみたかったかもしれない……

 なんて、ぼーっとあれこれ考えてたあたしだけど。


「皆さ~ん! お疲れ様です~っ!」


 そこへ、大きく手を振りながら、ミーシャが走って戻ってきた。


「おうっ、ミーシャ! 優勝だってなっ!?」


「ああ、ルークくん、ありがとうございます~!

 ライリーさんも、優勝で~?」


「無論ですな!」


「良かったぁ~!」


 心底ほっとしたように叫ぶミーシャに、あたしは、にっこり笑いかける。


「で、ミーシャも優勝でしょ! おめでとう!

 あれはもう、登場の瞬間に決まったようなもんだったね!

 あたしなんか、腰が抜けそうになったもん」


 お世辞じゃなく、本気でね……!


「ありがとうございますですの、アニータさん~!」


 ぎゅーっ、と抱き合うあたしたち。 


「さあーて……」


 ルークが。


「残るは……」


 ライリーが。


「アニータさん……」


 ミーシャが。


 あたしを見つめて、大きく頷く。


 そこへ、響き渡るアナウンス――


『ただ今より、《剣術》部門、後半の試合を開始します。

 出場者の皆さんは、直ちに、第1競技場に参集願います!』


 よおおおおっし! いよいよだっ!!


「後半の試合、がんばってください~!」


「はっはっ。前半の調子でいけば、楽勝でございますよ!」


「そうだ!」


 ルークが、力強く叫ぶ。 


「全員優勝、メダルは四つ! そうすりゃ、オレらが戦績トップだぜ――!」


 三人が、てのひらを下にした手をさっと重ね合う。

 あたしはうなずき、重なり合ったみんなの手の上に、自分の手を載せた。


「負けるな、アニータ! 勝つまで戦え!

 勝利の栄光を、その手にっ!!」


『おうッ!! 』


 みんなの声が、ひとつになって――


 あたしは、第一競技場へと向かう。

 自分自身に、自分の存在価値を、証明するために。


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