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帝国魔術学院!  作者: キュノスーラ
第五章 衝撃! マックスの囁き
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衝撃! マックスの囁き 3

「え? ヒマじゃないよ」


 反射的に答えるあたし。


「嘘つけ。ヒマじゃねぇなら、こんなとこでフラフラしてるわけねぇだろ」


「うるさいなぁ! そんなの、あんたに関係ないでしょ」


「やっぱりヒマなんだな」


「違う!」


 相手にならないほうがいい、と思いつつ、挑発されると、ついついムキになって言い返しちゃう。

 我ながら、悪いクセだなぁ……


「あんたと違って、あたしは、この学院に来たばっかりなんだから。どんな人がいるのかとか、どんな技を使うのかとか、いろいろ調査しとかなきゃなんないでしょ?」


「へえぇ……勉強熱心じゃねぇか。意外と」


 この言い方。やっぱり、バカにされてるようにしか聞こえない……

 あー、もう、やめやめ!

こんなヤツに関わってたら、無駄にイライラするばっかりだ。

 いったんどっかに行って、こいつをやり過ごしてから、また戻ってこよっと。


「じゃ、あたし、もう行くから……」


「待てよ」


 歩き出そうとしたら、いきなり腕をつかまれた。


「痛っ!」


 すごい握力!


「な、何すんのよっ!? 放せーっ!」


「大げさに騒ぐなよ。なあ、お前、これから一緒に茶でもどうだ?」


「……は?」  


 あたしは思わず、ぽかんとしてマックスを見つめちゃった。

 急に何を言い出すわけ? こいつは。

 見下ろしてくる目は、あいかわらずの冷ややかな青。


「学院の食堂じゃつまらねぇ。街に出て、どっか店に入ろうぜ。市街地の様子を知るのだって勉強のうちだろ? 俺が案内してやるよ」


 な、何だろ、この強引さは……?

 はっ、まさか、甘いことばで誘い出しておいて、ひとけのない場所で闇討ちにするつもりだとか!?


「あ!」


 あたしは、ぽんっ! と我ながら大げさなポーズで手を打った。


「ごめんごめん。そういえばあたし、さっき、ライリーたちとお茶飲んだばっかりだった」


「阿呆。字面の通りに受け取ってんじゃねぇ」


「む……!」


「イヤか?」


「うん。まあ」


「つれねぇなあ」


 心の底からうなずいたあたしの肩に、マックスは、なれなれしく手をかけてきた。


「昨日、命のやり取りまでした仲じゃねぇか」


「それってつまり敵同士ってことでしょ……!?」


「まあ待てって」


 じりじりと後退るけど、マックスはあたしが下がったぶんだけ、ずかずかと近付いてくる。


 ドンッ!

 何歩目かに下がったとき、背中が堅いものにぶつかった。

 え!? ――しまった、後ろは壁だ!

 一瞬うろたえたすきに、マックスが、あたしの顔の真横の壁にドンと手を突いた。


「う……」


 もちろん本気で逃げようと思えば、いきなり正拳突きでも、それこそ、魔術を使うって手もある。

 でも、あたしは、こんな至近距離から男の子に見下ろされた経験なんて今までにない。

 まるで魔物に睨まれたみたいに固まっちゃって、体が思うように動かない……!


「なあ、お前さ」


 ぐぐっ、とマックスが顔を近づけてくる。

 ちょ……ちょちょちょちょっとぉぉぉ!?

 何!? なになになにっ!?


「バノット組から、出る気はねぇか?」


「……え?」


 突然、ボソッと耳元でささやかれ、あたしは思わず目を見開いた。

 目の前にあるのは、今までになく真面目なマックスの顔。


「バノット組への入級は、あくまでも『仮』だろ。今なら、希望を出しゃ、簡単に組変えができる」


「はぁ!?」


 いきなりの意味不明な申し出に、ほとんど機能停止してた頭が、やっと動き出してくれた。


「なっ……何、言ってんの!? そんなこと、するわけないじゃない!

 てゆーか、あんた、さっきからちょっと近すぎーっ!」


 思いっきり叫んでおいて、その勢いに乗っかるみたいに、マックスの胸板を両手で押し戻す。


「だいたい、なんでいきなり、そんなこと言われなきゃなんないの!?」


「わからねぇのか?」


 マックスの声が、ぐっと低くなった。


「お前……狂戦士だろ」


 あたしは、用意していた文句が喉の奥に詰まるのを感じた。

 狂戦士。

 自分でもじゅうぶん分かってるけど、他人から面と向かってはっきり言われると、やっぱりショックだった。


「お前が、あの組に入れられたのは、バノットの野郎の研究材料にちょうどいいからだ」


「え?」


「あいつが今、何の研究をしてるか知ってるか? ……おまえ、利用されてるんだよ。妙な実験とかされる前に、出たほうがいい」


『研究材料』『利用』『実験』――

 マックスが何を言ってるのか、あたしは、ほとんど理解できなかった。

 ただ、それだけに、ひとつひとつの単語のまがまがしさが強く印象に残った。


 それから改めて、言葉の意味が心にしみこんでくる。

 どういう、こと?

 バノット教官が、自分の研究にあたしを利用しようとしてる、って……?

 あたしが狂戦士だから?

 だから……?


 その瞬間、バノット教官と顔を合わせた、ほんのわずかな時間のことが脳裏によみがえった。


 あたしの手を握りしめた、力強い大きな手のひら。

 分厚いタコにおおわれて硬く、ざらざらしてたけど、とっても温かかった。

 ちらっとのぞいた笑顔。

 あの言葉。



『俺たちは、おまえを歓迎する』――



「嘘だっ!」


 あたしは、思わず大声で叫んでいた。


「そんな話、信じない! バノット教官はそんな人じゃないもん!」


 マックスは、あたしの剣幕に驚いたみたいに目を見開いた。

 けれど、その青い瞳には、すぐに皮肉げな色が戻ってくる。


「昨日、ちらっと会ったばっかで、よく言うぜ」


「そう言うあんただって、あたしと昨日会ったばっかりじゃない! あんたのほうが、よっぽど信用できない!

 ――あっ! わかった。そうやってあたしを不安にさせて、試合を有利にしようって魂胆でしょ?

 残念でしたー! あたしは、そんな手に乗るほど、単純じゃないもんね!」


 一気にまくしたてながら、あたしは、怒り出すかな? と思ってた。

 でも反対に、マックスは、思わず引き込まれそうになるほどまっすぐな目でこっちを見た。


「本気で、わかってねぇんだな。俺が、マジだってことが……」


「え……?」


「お前に興味がある。そのためにも、バノット組から出てもらったほうが都合がいい。何しろ、俺らのダグラス組と、バノット組とは、不倶戴天の敵同士だからな。

 ……お前、うちの組に来いよ」


「なん……」


「昨日のバトルが、忘れられねぇんだ」


 言って、マックスはあたしを見つめたまま、口の端に薄く笑みを浮かべた。


「お前との試合、よかったぜぇ。誰かと剣を合わせて、あれほどぞくぞくしたのは本当に久しぶりだ……!」


 その瞬間。

 彼の表情を見て、あたしは、今まで味わったことのない感覚が体を走り抜けるのを感じた。

 信じられない。

 あたしは、そのときのマックスを、魅力的だと思ったんだ。


「…………い、で」


「あ?」


「ふざけないでっ!」


 そのセリフは、まるで、他人が言ったみたいに聞こえた。

 とっさに怒鳴った勢いに任せて、口から出るまま、さらに言葉を叩きつける。


「さっきから黙って聞いてりゃ、なぁぁぁに、自分勝手なことばっかり言ってくれちゃってるわけ!?

 まったく、ほんとに、信じらんないっ!」


 最後に、びしぃっ! と真っ向から指を突きつけた。


「あたしに、バノット組のみんなを裏切って、ダグラス組に入れって!? そんなこと、するわけないじゃん! 

 あたし、あんたみたいな危ないサド野郎のいる組に入る気なんか、1ミリもないからっ! そこんとこよろしくっ!」


 あたしの渾身の主張に、マックスは、にやっと笑った。


「サド野郎か。確かにそうかもな。……抵抗されればされるほど、余計に燃える性分でね」


「うるさーいっ! ホントに燃えろ! ――ヒカリバナッ!!」


 ばちばちばちっ!


 あたしが振りかざした右手のまわりに、いくつもの金色の火花がはじけて飛び散る。

 まともに当たれば、大の大人でも身体がしびれて動けなくなる電撃の術だ。  


 あたしの手刀の一撃を、マックスはすばやく飛び退いてかわした。

 同時、片手を突き出して叫んでくる。


「風神の呪縛!」


 その瞬間、あたしは、上半身に投げ縄でもかけられたみたいな抵抗を感じた。


「ぐっ!?」


 魔力の鎖があたしに巻きついて、動きを封じている。

 両手がぴったりと身体に押し付けられて、思いっきり力をこめても動かせない。


 ――って、おおぉぉぉい!

 あたしってば、あっさり捕まっちゃってるよぉぉぉ!


 必死にもがいたけど、むなしく足がバタバタするだけ。

 ぜんぜん、逃げられそうにない!


「ずっと可愛いじゃねえか? このほうが」


 マックスがにやにや笑いながら手を伸ばして、じたばたしてるあたしの頬をすっと撫でた。


「だああああーっ! 放せ変態ーっ! ……てゆーか、みんなボーッと見てないで、誰か助けてぇぇぇっ!」


 あたしの叫びにも、みんなは気の毒そうに視線をそらすばかりだ。

 マックスの悪名って、そこまで知れわたってるわけ!?


「くくく、もう逃げられねえぜ」


「ぎゃ~!」


 ちょっとぉぉ! 本気でやばいんですけどっ!?

 誰か、助けてぇーっ!!



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