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帝国魔術学院!  作者: キュノスーラ
第五章 衝撃! マックスの囁き
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衝撃! マックスの囁き 2

「うわ……すっごい」


 体技館の扉の前。

 あたしは思わず、ぺたぺたと壁を触りながら呟いた。


「ほんとに直ってる……」


 昨日、あたしが『発作』を起こして燃やしちゃった体技館。

 バノット教官とダグラス教官が直してくださったらしいけど、実際のところはどうなってるんだろう? と心配しながら来てみて、びっくり。

 なんと完全に元通りになってるんだ、これが。


『修復』は魔術のなかでもかなり難しい技なのに、さすがは教官といわれる人たちだ。

 あれからバノット教官とはすぐに別れちゃって、あんまりお話はできなかったんだけど、これを見ただけでも、どれだけ凄い人かっていうのがよく分かる。


 あたし、いい先生に当たって、ほんとにラッキーだなぁ……

 なんてしみじみと感動しながら、体技館の扉をくぐると。


 ライリーたちが言った通り、そこは、自主練習に励む生徒たちでいっぱいだった。

 やってることは人によってバラバラで、腕立て伏せやランニングなんかの基礎訓練をしてる人もいれば、隅のほうであぐらをかいて瞑想中の人もいる。

 はたまた、ふたりで組み打ちの練習をしてる人、壁にかけた的に何本もの短剣を投げつけてる人、などなど……

 ざっと見渡しても、すぐには数え切れないくらいの人数だ。


「えーと……」


 さすがに昨日の今日なんで、ちょっと小さくなりながら、あたしは体技館の中に踏み込んでいった。


 そのへんに『暗黒神話』とか『六枚羽』的な人(どんな人だかはよくわかんないけど)がいないか、きょろきょろ見回してみたけど、少なくとも見た範囲では、そんなアヤシイ人物はいない。

 それよりも――


「おい? あれ、見ろよ。もしかして……」


「あっ! 昨日の!?」


「バノット組に新しく入った――」


「アニータ・ファインベルドって子じゃないか!?」


 どうやら、ちょっとコソコソしたくらいじゃまったく意味がなかったみたいで、まわりの子たちがあたしを遠巻きにしてざわめきはじめる。

 うっ……昨日の一件の噂って、そんなに広まっちゃってるのかな。

 普通にフルネームまで知られてるし。


「ん……?」


 でも、落ち着いてまわりをよくよく見てみると、なんだかヘンだ。

《高天原》にいた時とは、みんなの反応が微妙に違う。


 こっちを遠巻きにして、ひそひそ言ってるのは同じなんだけど――

 怖がるとか、眉をひそめるっていうんじゃなくて、まるで珍しいものでも見物してるみたいな感じ。

 それに……心なしか、好意的な空気を感じるのは、あたしの気のせい……?


「あのー!」


「へっ?」


 戸惑ってたところへ、いきなりポンと肩を叩かれて、思わず変な声を出しちゃった。


「あっ、どうもすみません、急に!」


 振り向くと、そこにいたのは男の子の三人組。

 ぜんぜん知らない子たちだ。

 誰かな? と思ってたら、先頭にいたフワフワ頭の男の子が、にこにこしながら話しかけてきた。


「あなた、アニータ・ファインベルドさんですよね!? 昨日、バノット・ブレイド教官の組に入った……」


「あ……はい、そうですけど」


「おおぉー!」


 あたしがうなずいた瞬間、そろって大げさにのけぞり、嬉しそうにヒソヒソささやき合いはじめる男の子たち。

 な、何なんだろ?


「いや、突然すみません! あのーっ、握手していただいてもいいですか!?」


「え!?」


 あたしが驚いてるあいだに、フワフワ頭の男の子は、こっちの手をガシッと握りしめた。

 ついでに、握った手をぶんぶん振ってくる。


「いやー、聞きましたよ! 昨日、ここで、あのマックスを倒したんですって!?」


「え……!? あ、はあ。まあ、倒したっていうか……」


 あたし自身は、何がどうなったのか、さっぱり記憶がないんだけど。

 あの後ライリーたちが教えてくれたところによると、あたしとマックスの対決は、一応、あたしの優勢勝ちってことで決着したらしい。


「すばらしいッ!」


 フワフワ頭の男の子は、目を輝かせて叫んだ。

 それに続いて、あとのふたりも口々に言ってくる。


「あのニュースを聞いたときには、スカッとしましたよー!」


「じつは僕たち、あいつには、いつも苦汁をなめさせられていまして……!」


「そうそう! この前の大会のときなんか……」


「うう、今、思い出しても屈辱だ!」


 へえ……マックスって、けっこう有名人なんだ。

 それも、悪い意味で有名らしい。

 なるほど、それで、彼をやっつけたあたしの人気が上がってるわけか……


「これからも、がんばってくださいっ!」


 あたしが思わず納得してると、彼らは、ずずいっ! と迫ってきた。


「《剣》の部に出場なさると聞きました。マックスを倒して、ぜひとも優勝を!」


「そうです! あの野郎を、ぐっちょんげっちょんに叩きのめしてやってくださいっ!」


「できれば、二度と立ち直れないくらいに……! いやむしろ、事故に見せかけてさりげなく抹殺を!」


「……って、暗殺依頼っ!?」


 そう、思わず叫んだところで――


「誰が、誰を倒すって?」


 突然きこえたその声に、あたしは思いっきり顔を引きつらせた。

 昨日の今日じゃ、忘れようったって忘れられない。

 露骨に人をバカにしたような、むやみにムカつくこの声は――!


「マックス!」


「おう」


 いつの間に近付いてきてたのか。

 あたしたちから五歩と離れてない場所に、噂のダグラス組の委員長、マックス・ブレンデンが立っていた。

 昨日と同じような服装で、あいかわらず剣をさげてる。

 彼はあたしに向かって気楽に片手を挙げると、あたしに劣らず顔を引きつらせてる男の子たちに向かって、にやっと犬歯を見せた。


「よお……ちょっと名前が思い出せねーが、誰かさん。あんとき折れた足は、もう調子いいみてえだなぁ?」


「う……」


 完璧に絶句する、フワフワ頭の男の子。

 数の上では三対一だ。

 だけど、どう見ても格――っていうか、迫力が違いすぎる。

 彼らも何か言い返そうとはしたみたいだったけど、けっきょく言葉にならずに、そのまますごすごと退散していった。


「はっ。根性ねぇ奴ら」


 せせら笑うマックスを、あたしは、じろーっと見つめた。


「足が折れたって、あんた……」


「別に、俺がへし折ったってわけじゃねえよ」


 やっぱり気楽な口調で答えるマックス。


「あの野郎がイカれた雄牛みてぇに突っ込んできやがったから、避けついでに、ちょいと足を引っかけてやったんだ。そしたら、ド派手にぶっ転がって自爆してやがんの。はは、あれには笑ったぜぇ」


 笑うなってば。

 やだなぁ、こいつ、絶対サドだよ……


 いや、それにしてもこいつ、何しに来たんだろ?

 体技館にいるってことは自主練に来たんだろうけど、わざわざこんなふうに話しかけてくるなんて……

 昨日のことは、お互い謝りあって決着がついたはずだし。

 はっ! まさか、昨日は先生の手前、謝っただけで、実はまだしつこく根に持ってるとか……?


 なんて、あたしがじろじろと警戒の視線を向けてると。


「おい、お前。今、ヒマか?」


 何を思ったか、マックスはいきなりそう聞いてきた。



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