9話 初歩の魔法
「おまたせ!約束通り始めようか」
裏側の広場に足を踏み入れた時、片付けを終えたリリムがやってきた。
「師匠、よろしくお願いします」
今はリリムが先生で、俺は生徒だ。だから敬語を使う。
「ボクは誰にでも教える訳じゃ無い。心して聞くように」
「はい、師匠」
「アリマ君、キミは魔法は初めてだったね?」
「いや、初めてどころか全く知らないので最初からお願いします」
「初歩の初歩からか……分かった」
「魔核や神核については昨日話したと思うけど、まず人が魔法を使うには、この魔核が無いとダメなんだ。魔核はいわゆる魔力の貯蔵庫で魔法を使うには、その貯蔵庫から必要な分の魔力を引き出して使用する」
俺にはあるんだよな……名前が魔神核だけど。
「だから魔核の無い人間は魔法を使えない。
人族は魔核のない人が殆どなんだけどね。
たまに魔核を持って生まれる人は適合者とも言われるね。まぁこれも先天性と後天性ってあるんだけど、説明は省くよ」
俺は後天性って事になるよな……
「人族はって言ったけど、それ以外の人種、例えばダークエルフやドワーフ、小人族、巨人族、海人族、獣人族、魔人族は生まれつき全員が魔核を持って生まれるんだ。理由は分からないけどね」
「そんなに人種っているんだ?でも全員魔法使いって事か」
「でも、魔核があるからって全員が全員魔法を使える訳では無いよ。人には得意不得意ってのがあるからね」
「なるほど……個人差はあるのか」
「魔核に魔力を貯めるっていうけど、魔力って何だか分かるかい?」
「魔法を使う為の力?」
「魔力というのは魔素から引き出される力の事で魔核自身も魔素で出来ているんだ」
「ここで魔素が出てくるのか」
「そう、魔素という言葉が出て来たね。この世界は魔素に満ちている世界なんだ。ボクが生まれたのは神気に満ちた世界だったけどね……。
それで、魔素の満ちた世界を魔界、神気の満ちた世界を神界と区分けする学者もいるけど、実は元々一つの世界だったんだ」
と言うことは……リリムは神界人?
「まぁ……話が逸れたけど、魔核は魔素の結晶という事だ。結晶というと魔物にも魔結晶というものがある。魔結晶は不完全な魔核で知性を持たない魔物は魔結晶、知性を持つドラゴンなんかは魔核を持つと覚えておくといい」
「魔核についてはもういいかな、この世界は神気が少ないんで、神核の説明は端折るけど……神核は魔核と反対に神気の結晶で神聖術を使うことが出来る。神核を持つ人種はエルフ、龍神族、天人族、神獣人族とかだね」
「それでボク達の持つ魔神核というのは魔核と神核の両方の性質を併せ持つんだ」
「と言うことは……魔神核があれば魔法も神聖術も使える?」
「そう!正解だよ」
――――――
その後もリリムの座学は延々と続いた。
「休憩にしようか?」
その言葉で座学から解放された俺の頭は飽和してパンク寸前だ。
次は実技でってお願いしたら『基礎は大事なんだぞ』と言っていたが、もう充分だと思う。
時間的にも昼なので昼飯かと思いきや、リリムは昼は食べないので一日二食だそうだ。
俺はいつも昼も食べているって言ったら昼飯の代わりにお茶を入れてくれた。
昼と言っても時計がある訳じゃ無い。太陽が真上にあるから昼だと思ったんだが、リリムが言うにはあれは太陽じゃ無いらしい。
この世界には太陽が無いので、太陽のようなあれは魔法で作った擬似太陽、偽物らしい。
凄い魔法もあった物だ。
さて昼休みも終わり、午後の授業だ。
午前中の復習をすると、単に魔法って言ってもその行使方法で分類すると次の5つに分類される。
一つ、精霊の力を借りる精霊魔法。
二つ、魔神との契約により行使する契約魔法。
三つ、自分の魔核のみで行使する自律魔法。
四つ、自分の神核のみで行使する神聖術。
五つ、魔神核で行使する魔神術。
五つの魔法の中で最も強い魔法は魔神術だけど、世界が二つに分かれる前は神気、魔素の双方の濃度が充分あったので使用出来たが、世界が分裂した現在は魔神術を使用可能な人は居ないと言う事だ。
精霊というのは魔素や神気そのものが実体化した存在で、魔素ならば魔精霊、神気ならば神精霊と呼ぶ。
ただそういった精霊は自由でプライドも高く、人に干渉する事は滅多に無い。余程精霊に気に入られないと精霊の力を借りる事は出来ないという事だ。
封印されているとされる魔神との契約に基づき魔神の力を借りて行使するのが契約魔法で、魔神と契約するには魔神の欠片と呼ばれる魔神核が必要となる。契約魔法の力は術者の魔力に比例するので強大な魔神の力が使える訳では無い。
神聖術はこの世界では神気の濃度が低すぎる為、低レベルの物しか使用出来ない。
……この中で俺が使えそうな魔法と言えば、自律魔法と低レベル神聖術か……契約魔法って言っても契約する魔神が居ないしな。
そして、リリムの魔法実技講義が始まった。
「魔法を使うには自分の中にある魔核をイメージして、そこから魔力の流れを引き出すんだ。イメージする魔力の色は黒だ」
「魔核をイメージと……」
「そうしたら火の魔法を使うなら火のイメージを頭に浮かべて、そのイメージを引き出した魔力に乗せると発動する」
すると、リリムの手から直径にすると50センチ大の炎の玉が放たれた。
「火のイメージを……乗せると」
……うん……何も起きない。
「えーと、初心者は魔法名を付けて発動タイミングに合わせて発声すると発動しやすいよ。
ボクの今放った魔法、アリマにはどう見えたかな?」
「火の玉だから……ファイアーボールかな」
「うん、それがイメージだよ。もう一度やってみよう」
……魔核から黒い魔力を出してイメージするは炎の玉
「ファイアーボール!」
俺が魔法名を叫んだ直後、前方に構えた掌から5センチ程の炎が出現した……のだが、10メートル先でポトンと落ちてしまった。
「……で……出た」
「うん、初めてにしては上出来だね。後は魔力制御を覚えて行けば、ボクと同じ魔法が出せるようになるよ」
結局、この日は日が暮れるまでリリムの魔法実習が行われる事になった。
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