8話 新たなる生活
――目が覚めると知らない天井が見えた。
一般的な家庭にみられるような壁紙の張られた天井では無い。木の根のようにゴツゴツしている天然の木の天井だ。
壁も天井と同じように出来ている。ただ壁と天井の区切りが無いのが天然の木である事を実感させる。
壁に開いた窓からは柔らかな日の光が差し込んでいる。
そっか俺……異世界に居るんだっけ。
「んー……」
両腕を伸びしながら、昨日の事を反芻する。
俺が寝ているのは、この家の2階に相当する場所だ。
昨日までは2階は存在しなかったのだが、この家はリリムが一人で住んでいた為に一人用の居住スペースしか無く、ベッドが一つしか無いのが問題だった。
俺はリリムと同じベッドでもいいと言ったのだが……
リリムが『いや……一緒はちょっとまだ早いっていうか……恥ずかしいっていうか』って言うので、リリムの魔法で2階に俺の部屋を作ってもらったのだ。
これが意外に快適で、やっぱり自分の部屋っていい物だ。
問題があるとすれば、布団からリリムの香りがしない事か……。
そんな事を考えていると、下の階へ繋がっている人が一人通れるくらいの穴からひょっこりと鮮やかな緑色の髪の美少年エルフが顔を覗かせた。
「アリマ、起きてるか?」
「ん…今……起きるよ」
リリムの元気な声に眠そうな声で答えると、ほら起きてとリリムが俺の体を揺すってくる。
「ん~もう少し……むにょ……」
ドンっとリリムの柔らかい体が俺の上に乗っかって来た。ボディプレスってやつだな。
「ほら、起きろよ~ 朝ご飯出来てるし、昨日の約束忘れたのか?」
「うぐぅ……」
くるしい……昨日の約束? えーっと
「ボクに魔法を教えてほしいって言ったのはアリマだろ?」
そうだった。昨日リリムの魔法を見て、俺にも出来るか聞いたら練習次第で出来るようになるかもって言うんで、リリムに魔法を教えてもらう約束をしていたんだった。
俺はベッドから降りると、簡単に身支度を整えると一階へと降りる。とテーブルの上に朝食の支度がしてあるのが目に入った。
「おっ」
この世界にも食べ物はあったんだな……。この世界に来てから初めて朝食、いや食べ物という物を見た気がする。色々あって食べる機会が全く無かったのだ。
「そういや腹減ってるの忘れてたな」
「パンと野草のサラダ、あとこの森で採れる果物、水花だよ」
「スイカ?」
スイカと言われた果物は赤く透き通った花弁が開いた花の形をしていた。花弁部分は肉厚でアロエみたいなイメージをしている。
日本で見られるあの緑色の大玉スイカとは似ても似つかない形だ。
「こんなものしかないけど……良かったら食べてくれ」
「食べられるだけで十分だよ。いただきます……」
俺は日本式の食事の祈りを捧げると、用意されていた食事を一気に口に突っ込んだ。
「もぐもぐもぐもぐ……んぐっ み……水」
うっ……一気に食べようとしたので喉に詰まってしまった。
「あっ水?水ね…… アリマもっとゆっくり食べなよ 食べ物は逃げないよ?」
「んぐんぐっ ぷはぁ! 死ぬかと思った」
「もう……」
「で……味はどうかな? 野草のサラダには自信があるんだ」
どう?どう?っと俺をじっと見つめるリリムの視線が痛い。
「むぐむぐむぐ……」
はっきり言おう……不味い! 水気の無いパサパサのパンに草の味が濃い雑草のサラダ、
唯一果物のスイカというものは水っぽいがまだ食べられる。
実際不味いとも言えないので……
「美味いか?アリマ」
「うまいよ、何も食べてなかったんで何を食べても美味しく感じるよ」
「そうか?」
もちろん、我慢して食べたとも。
食糧事情はこの先、何とかしないとだめだな……
食事が無事に終わると、『すぐ片付けるんで外で待っててくれ』とリリムが言うので痛いお腹をさすりながら、大木の家の外に出てリリムを待つ。
家の周りは少し開けたようになっていて切り株なんかが2,3個あるようだ。薪に使うのか小枝を集めた小屋が近くにある。家の裏側にはトレーニングなんかに使えそうな土で固めたような広場が広がっていた。
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