47話 呪術師パチェッタ
「呪われていると聞いた時から……まさか……とは、思っていたが……、その腕輪には、見覚えがあるぞ。それに……勇者暗殺に使われたと報告を受けている物とも一致するようだな……」
これで、俺が当事者である”召喚された勇者である事が証明された”という事になる。
隣国のエリス神聖国では堕勇者として、お尋ね者扱いされているが……。
俺が証言する事でパチェッタへの疑惑は晴れるはずだ。
その後、俺が聖国のミルラルネ王女に殺されかけた事、エリス聖教狂信派に狙われて瀕死になった事、リリムに助けられた事、等を説明していくと、セーグリッド王は、黙って俺の話を聞いてくれた。
「うむ……何という事だ……隣国での事とはいえ……我が国の呪具が悪用されてしまった責任は俺にもある。国王として……いや、この世界を生きる者の代表として謝罪させて欲しい。勝手な押しつけですまないが……、この世界を……嫌いにならないでくれ」
言葉が出なかった。
この世界に召喚された時の事を思い出すだけでも……涙が出てきて止まらない。
やばいし、鼻水で顔もぐしゃぐしゃだ。
「うぅっ……」
「アリマはん……」
「この国で活動する限り、アリマ・ミノル、貴殿の身の安全と身分は、この俺が保障しよう」
「……あり……がとうございます……、しばらくはこの国に滞在したいと思います」
「そうだな……今夜は、部屋を用意させるので城に泊まると良い」
「連れもいるんですが、いいんですか?」
「無論だ、ルリアナも、その方が喜ぶであろうしな」
「ありがとうございます!」
俺はセーグリッド王の厚意に甘える事にした。口調が元に戻っているのは気にするな。
「……それと、褒美を与えなけばならぬのだが、何か希望はあるか?」
「えーと……特には……」
「アリマはんも、ほんに欲の無いお人やな」
「全くだ、それについてはこちらで相応の褒美を用意しておこう」
「……それでパチェッタは?」
「おお……そうであったな……パチェッタ様の疑義は晴れた。よって牢より解放しよう」
セーグリッド王がパチェッタを連れてくるように命令し、しばらくすると身長130くらいの小さな桃色の髪をした美人というよりは可愛らしい美少女が謁見の間に姿を現した。
その小柄の体に対して、その……胸が大変けしからん事に、大きすぎる気がするが……気のせいでは無いだろう。
「王様、これはどういう事ですの?」
パチェッタの胸が、ぱいんと弾む。
「パチェッタ様、余計な疑いをかけてしまい申し訳なかった……こちらの少年が疑惑を晴らしてくれたのでな、パチェッタ様の無実が証明されたのだ」
「どうも、はじめまして。アリマ・ミノルと言います」
「わたしは、パチェッタですの。アリマ・ミノル様……良からぬ嫌疑から助けて下さって、ありがとうですの。あらっ……って、隣にいるのは、プリステラさんではないですの?」
「久しぶりやね、パチェッタはん。元気そうで何よりやわ。牢屋でくたばってないかと心配してたんどすえ」
「そのキョウタール訛りに減らず口……確かにプリステラさんですのね」
「ほう……二人は知り合いであったか」
「はい」「いいえ、ですの」
何かパチェッタとプリステラの間に、バチバチと火花が散っている気がするが、何か因縁でもあるのか?
「……まぁまぁ……二人とも、ここは仲良くしてくれないかな?頼むよ」
……まさか二人がこうなるとは……うーん人選を間違えたかなぁ……。
改めてパチェッタには事情を説明し、左腕に融着してしまった呪いの腕輪の解除をお願いしてみる事にした。
「――これは、確かに、わたしの店から盗まれた物ですの」
「それで、呪いの解除の方は……出来るのかな?」
「わたしの作った呪具ですのよ?」
「でっ……出来るんだね?」
「当然ですの!」
「そうか! そうか……よかった」
この腕輪のせいで俺は……防御力はゼロとなり、散々な目に合ってきたんだ。
碌な服は着れないし、何度も死地を彷徨ってきた。
「この腕輪の本来の使い方は、罪人を処罰する際に使用されるべき物ですの……わたしの管理が甘かったばかりに、ご迷惑をかけてしまったの。本当にごめんなさいですの」
「いや、パチェッタは悪くないよ」
作った人が悪いって言ったら刃物や剣だって、大事な人を守るために使うか、獲物を狩るために使うか、人殺しの道具にするのかは、使う人次第だからな。
「アリマ様は、優しいですの……、さぁ……呪いを解除するですの」
「ああ……頼むよ」
パチェッタの小さな両手が、俺の左腕の腕輪に優しく触れる。
「解呪せよ……呪詛の戒めを解き放て………クッ……なっなんですの?この力は?……呪詛が大きな力に引っ張られてゆがんでしまっているですの」
「なんだって?」
「でも……だめっ……なんていう強い力ですの? 解呪を拒絶する力が……強すぎて」
「駄目……なのか?」
「いえ……これは、管理を怠った、わたしの責任ですの。アリマ様の呪いはわたしが必ず! 解いて……はぁっ……はぁ……」
なんか大丈夫だろうか?
パチェッタの息が荒くなってるんだが……それに、おっぱいが両腕に挟まれて、すごいことになっているのだが……。
「見せますの!!!!」
はい!見せてください!
腕輪から黒い靄のようなものが発生したかと思うと、その靄は俺とパチェッタを包み込んだ。
「キャァァァァァァァ!!」
「うう!!」
「パチェッタ!」「パチェッタはん!」
暫くすると、黒い靄が晴れてきた。
「アリマはん!」
「ん……どうなった?……パチェッタ?」
パチェッタは……俺の腕の中で気を失っていた。
「大丈夫、気ぃ失っているだけや」
「よかった。そうだ!腕輪は?」
俺の腕を蝕んでいた呪いの腕輪を確認すると、禍々しかった色は透けるように消えていき、最後は砕け散るように消えて行った。
――――――
待機組、控え室。
「うー遅い!っていうかボクらは待機な訳?」
「そもそも人族しか謁見不可って何なの?
そこの竜娘は兎も角、ボクとパーラは魔神だよ?もっと敬意を払ってもらってもいいと思うんだけど……」
「ほう我に喧嘩を売っておるのか?小娘よ」
「そもそも宝石貰ったぐらいで、け……結婚とかなんなの!?ありえないし!」
「グヌゥ……アリシアなどの下等竜の事などはどうでも良いが、たかが魔神如きが我を愚弄するか?」
「ガルルルルる!!」
「うぬぬぬぬぬ!!」
「やめなさい!二人とも!アリシアが怯えているわ」
「あわわわわ。ケンカはダメなの」
「あぁあああゴネンね!アリシアちゃん!」
「ふんっ」
「この国は人族が主体の国、我々がイレギュラーなのですから……信じて待ちましょう」
「はい……」