46話 リリアス城
お待たせしました。ぼちぼち再開しますが
投稿間隔は不定期になります。
リリアス城と呼ばれるその城は、近くで見ると中世ヨーロッパ風の城に良く似ていた。
俺は城に詳しい訳ではないのだが、この城はちょっと変わっている……。
「……うん!塔だな!」
遠くから煙突のように見えていたのはこの城だったってわけか……。
城の中心に工場の煙突が生えているような感じだ。
下だけ見れば城そのものだが、城に対しての塔が長すぎて、なんかアンバランスなように感じられる。
「塔の上からは湖が一望出来るんですよ」
竜車を降りたベルマーチが答えてくれたが、やっぱり塔らしい。
「天望室はとても眺めが良いに」
ふむ、展望室か……。
展望室とか展望台とか展望露天風呂とか展望と名のつく眺めの良い場所は結構好きな方だ。
塔の上から眺める湖の情景はどれほどのものなのか……。
眺めといえば展望台の床がガラス張りになっていてそのガラスの上を歩くという、あえて恐怖感を煽るものがあったが、あれはダメだ。
展望室は高所という恐怖を忘れ、眺めを楽しむ為のものであり、決して恐怖感など与えてはならないものであると俺は思う。
閑話休題。
「もっとも、王家の者か特別に許可を得た者以外は天望室には入れませんが」
「ですよねー」
RPGのように一般の冒険者が入れるようじゃ城の警備としてはダメだろうしな。
塔に気を取られているうちに竜車も止まり、さて、ようやく城に到着したようだ。
「お帰りなさいませ!ルリアナ姫様!」
「ういお迎えご苦労に」
城の前には、メイド服を着たメイドさん達が隊列を作っていた。
ざっと30人くらいはいるだろうか。すでにルリアナ姫一行の到着は連絡済みだったようだ。
なにやら奥の方からドタバタと音がしたので、そっち方を見ると、メイド隊列が分けるように動き、その音の発生元が姿を見せた。
腰まである赤髪と純白のドレス。
深い輝きを放つダークブラックの目。
その者から発する高貴なオーラから、結構高位な人物だという事は確かだろう。
「あぁ!ルリアナ! よくぞ無事で帰ってきました……怪我は?怪我はありませんか?」
「ただいま帰りました。ラミレス姉様。ルリは大丈夫に。盗賊に襲われた所をこちらの方達に助けられたに」
「そうですか……とにかく無事で安心しました。盗賊に襲われたと聞いた時はもう…… 本当に心配したのですよ?」
ラミレス姉様と呼ばれた人物は、どうやらルリアナ姫の姉のようだ。ルリアナ姫も可愛いんだけど、お姉様もなかなかの美人だ。
そのお姉様がルリアナ姫との会話を終えると、俺の方に向かって話しかけてきた。
「私はリリアス教国第一教女、ラミレス・ド・リリアスと申します。失礼ですが……貴方がアリマ様ですか?」
「そうですが何か?」
言いたい事は分かる。
「誠に失礼ですが……身なりから申し上げますと……到底盗賊を倒せるようには見えないのですが……本当に貴方が?」
ラミレス姫はジロジロと怪訝な顔で俺を見てくる。
怪訝な顔をされるのも無理は無い……俺の外見は裸の上にチュニックを羽織っただけの戦闘には向かない格好だ。
冒険者が着るような性能の良い鎧などは、腕輪の呪いで俺には着ることが出来ないのだ。
装備している武器も小さい剥ぎ取り用のナイフのみなので護衛には到底見えないのだろう。ナイフといっても、アダマンタイト製のナイフなので小さくても攻撃力は伝説と銘打たれる剣に匹敵する程の物らしいのだが……。
「これには、色々と事情があるというか」
と、そこに口をとんがらせたルリアナ姫がメイド達をかき分けやってきた。いつの間にかメイド達に囲まれていたようだ。
「ラミレス姉様?ルリの報告が、信用出来無いとでも?アニマは本当に、ルリを助けてくれた恩人に!」
ルリアナ姫は、俺の着ているチュニックにしがみつくように俺の腰に手を回してきた。
「ルリアナ……、失礼いたしました。この度はルリアナを盗賊の魔の手からお救いいただきありがとうございました」
「いえ、まぁ、とにかく無事で何よりです」
俺は苦笑いを浮かべつつ腕輪を隠した左手で後頭部を掻いた。
「長旅でお疲れでしょうが、ご案内させますのでこちらへおこしください」
それから俺達は一旦、来客用の控室のような部屋に案内されてから、謁見の間に行くことになった。
ルリアナ姫達と別れ、俺達は控室へ案内された。案内人のメイドの説明では謁見出来るのは人族のみとの事だったので、リリム、パーラ、レヴィー、アリシアは控室で待機してもらい、代表として俺とプリステラが謁見の間に行くという事になった。
「なんか心配だなー」
リリムが不服そうな顔で愚痴を漏らす。
「アリマはんは、うちが見とくから安心しいや」
「それが一番心配なんですよね」
俺とプリステラが一緒なのがパーラにも心配のようで顎に手を当て眉を寄せている。
「我とアリシアは仕方ないのじゃ、旦那様の帰りを共に待とうぞ」
「待つなのー」
「じゃ行ってくるよ」
そういえば、こっちの世界に来てから初めて王様という人に会うんだよな。緊張するなぁ……。
――――――
「この扉の向こうが謁見の間になります。国王様は寛大なお方ですが、くれぐれも……失礼の無いようにお願いします」
案内役のメイドの一人がそう言うと、龍の紋章がレリーフされた金属製の扉が開かれた。
当然、武器や危険な物は、事前にメイドさんに預けてあるので、俺の外見は村人1のようなモブキャラだし、俺の姿だけでも十分失礼のような気がするがな。
謁見の間には、一段高い場所に王様の玉座があり、その周囲には騎士が4名。
玉座には赤髪の国王様が座っていた。
「国王様、例の客人をお連れしました」
「うむ、下がって良いぞ」
「はい……では失礼します」
案内役のメイドが退出すると、ぼーっとしていた俺にプリステラが小声でなんか伝えてくる……。
「アリマはん……」
「……」
俺は、無言で頷いて答えると、プリステラの後に続いて頭を下げた。
「初めまして、アリマミノルです」
「うちは、プリステラどす」
「セーグリッド・ド・リリアスだ。家臣より既に話は聞いているぞ、魔神の子アリマよ。ルリアナの盗賊からの救助、並びにここまでの護衛まで引き受けてくれたとか。心より礼を言うぞ!」
「本当に、ルリアナ姫が無事でよかったです」
「しかし、旅の途中ではなかったのか?寄り道をさせてしまったのでは悪いからな」
「いえ、目的地は元々、この国でしたので」
俺は、この国に来た目的をセーグリッド王に説明した。
念のために、俺が堕勇者である事は伏せてだ。
「呪いを解きたいか……」
「パチェッタという人に頼めば、解除出来るかもしれないと聞いたので」
「それは、封印の館の店主だな」
「ルリアナ姫を襲った盗賊も同じ所の呪具を所持していたと聞きましたが」
「盗賊が持っていた呪具の出どころが封印の館の商品だったというのか?」
「はい、王家の方なら何か知っているかと思ったんですが……」
「確かに封印の館は、王家指定の魔法具店ではあるが……そうか、勇者だけでなく我が娘までも狙うとは。やはり、封印の館の店主は、勇者殺しの犯人で間違いないのか……」
「はい?」
「店主は、既に逮捕されて、檻の中にいるのだよ」
「えぇ!?そんな……」
「パチェッタはんが、そないなこと」
「なんでも、隣国で召喚された勇者を呪いで暗殺した?とか」
――は? いや、違うだろ!
俺はエリス神聖国のミルラルネ王女に呪いの腕輪を嵌められ、エリス神聖国の暗殺者に殺されかけたのだ。
ここで俺が、勇者は死んでいない事を証明出来れば……。
でも、それは俺が堕勇者である事を証明する事にもなってしまう。
「それなんですが、ルリアナ姫様を襲った者を尋問した結果、封魔の光という組織が関係している事が分かったんです」
証明する事になったとしても。
「首謀者は、封魔の光だと?」
「それに、勇者は死んでなどいませんよ」
「アリマはん?」
プリステラが俺の事を心配してくれている。
「面白い。で、それを証明する事は出来るのか?魔神の子よ」
無実の人を放ってはおけない!
「俺が、その時に召喚された勇者だからな」
「なんと……」
俺は左腕の腕輪を隠していた布を取り去り、拳を振り上げた。
「この呪いの腕輪が証拠だ。パチェッタに会わせて欲しい」
俺は覚悟を決めた。口調も元に戻した方がいいだろう。
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