45話 リリルメリア
リリアス教国の首都リリルメリアは島国という事もあり、他国のように城壁に囲まれてはいなかった。
スラム街のような場所も無く、貧困層という者がいないのか道行く人は皆、表情に余裕があり活気溢れる都市という印象だ。
「あれ?検問所とかは無いんですか?」
「既に入国審査は終わっておりますので」
ベルマーチが言うには、島全体がリリアス教国なので入国後は検問は必要無いという事らしい。
俺とルリアナ姫を乗せた竜車はリリルメリアに入ると大通りのような通りを東へと向かった。
俺達は丁度都市の西側から入って来たような感じだ。
大通りを暫く行くと正面に巨大なドーム型の白い建物が見えて来る。
「あれは?」
「正面に見える白いドームはラグアントリス神殿です。四大聖教の教会本部となっております。ちょうど都市の中心に位置していまして中心街も神殿を囲むようになっています。道に迷ったら神殿を目印にするといいでしょう」
「なるほど……神殿ですか……四大聖教?魔神教の教会は無いんですか?」
確か……レノールの衛兵サルマンは魔神教の教会があると言っていた。
「リリアスに魔神教はありませんが……他国から見れば四大聖教も魔神信仰ですので魔神教と見られることもあるでしょうか……ですが、魔神教は魔神の中でも最強の魔神、魔神王のみを信仰の対象とした宗教です。リリアス教国では四大魔神様のみでなく他の魔神様も信仰の対象となっておりますので……真の魔神教と言うならば四大聖教の方が魔神教という名に近いかと……」
要するに四大聖教は魔神教では無いけど大枠で言えば魔神教と言えなくも無いという事かな?
やはりエリス神聖国とは宗教がまるで違うんだな……エリス聖教だと創造神だったか……。
「そんな事より……この世界の太陽はこのラグアントリス神殿で管理してるんだに」
ルリアナ姫はえっへんといった風に小さな胸を突き出して……うーんリリムと同じくらいか。
「あの擬似太陽を?」
「うぃ!リリルメリアは、世界で唯一の太陽管理都市に」
擬似太陽を維持するには仕組みは良く分からないが凄い魔力が必要であろう事は俺でも分かる。それにここが魔神封印の地という事も関係しているのだろうか?
魔神使いのいる国……アレは魔神の力で維持しているのか?
「リリアス教国は小国ですが……太陽の維持管理費として他国よりの寄付金が入りますので民の生活は他国よりも豊かなのです」
ベルマーチがルリアナ姫の補足をしてくれたが、この国に入ってから貧しい人を見かけないのはそういう事なのか。
「リリルメルア……いやリリアス教国は素晴らしい国なんですね」
ルリアナ姫は満足そうな笑顔で外を見つめていた。
――――――
一方、もう一つのアリシアの引く竜車では――。
「ちょっと前見えないよぉ」
リリムが前の竜車を見ようとプリステラとパーラの間に割り込みをかけるもプリステラの抵抗により阻止されていた。
「あいたたた……ちょいとリリムはん押さんといてぇな」
「煩いのう……少し静かにせんか」
以外にも冷静なのがレヴィナスだった。
「そもそもなんでアリマだけ別の竜車なの?」
リリムが抗議の声を上げる。
「ルリアナ姫様の御指名ですから」
「リリアスの王族じゃからのう」
「うぅ……」
リリアス王家は代々太陽を維持する英雄の家系であり、これを怒らせては太陽からもたらされる恵みを失う危険性があるので王家の発言力というのは絶大な影響力を誇るらしい。
「ちょっと太陽が作れるからっていい気になって……あの太陽だって魔神イフリータの力じゃないか!」
「まぁ……イフリーが好きで契約してるんやし……うちらが口出ししても仕方あらへんよ」
「契約魔法かぁ……」
「リリムはんはアリマはんと契約せえへんのです?」
「いや……ボクは……まだ契約切ってないし…… 約束だから……」
「約束ぅ? 今更そないな約束守ってどないしはるん?」
「テシウスは確かにボクを残して死んでしまったよ……」
「人族は……いつかは死ぬもんや うちらとは違うんよ?」
「でも…… 最後にボクに会いに来てくれたんだ…… 俺は魔神として生れ変わり、いつかお前に会いに行く!その時まで待っていてくれって 言ってくれたんだ」
「それを律儀に守ってはるんか? 一途やなぁ……」
「でも…… もうそろそろ疲れちゃって……もういいかな……なんて最近考えるようにはなったよ」
「その原因はアリマはんやね?」
「う…… そっ そうなんだよ 何かアリマはほっとけないというか……なんというか…… あー!誘導尋問だよ? うぅ……」
「まぁ……良いではないですか? 魔神として生まれ変われる事は無いですし、魔神の子ならば可能性はありますけど魔神の子も限りある命です」
「うちらみたいに魔神化出来れば別やけどな」
「昔のように修行すれば魔神化出来る時代では無くなりましたからね」
「懐かしいのう 魔神化したくて我の元に修行にくる輩がよくおったわ」
「レヴィナスさんは私達より長生きですからね」
「殺しても死なぬ魔神に言われとうないわ」
「だからボク達、魔神の仲間は封印されてるんだけどね……」
「グルルル……」
「アリシアさんどうしました?」
「え? 城が見えてきたって?」
リリムは竜車から身を乗り出し、前方に見えてきた大きな城を確認すると両腕を高く上げ、伸びをしながら声高く叫んだ。
「城だぁ! やっと着いたぁ!!」
「グルルルルルル!」
――――――
リリムの声に答えるかのように地竜のアリシアが地面に響くような声を出していたので、前の竜車にいた俺の耳にもリリムとアリシアの声が聞こえてきた。
「着いたか……」
「あれがルリの住んでいる城 リリアス城に」
ルリアナ姫はそう言うと俺の右手をギュッと握って来た。
……うーんこれからどうしよう? リリム達になんて言えばいいんだ?
俺の手を握るルリアナ姫の頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
今は昼過ぎなので夕焼けの色では無い筈だ。
俺達の竜車はそのままリリアス城の門を潜り、城の中庭へと歩を進めていた。
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