44話 ルリアナ姫の頼み事
翌日、俺達を乗せた竜車は、リリアス教国の首都リリルメリアへ向けて出発した。
俺の目の前には何故かルリアナ姫がちょこんと座っている。
「あの……何故俺がここに?」
俺は一人、ルリアナ姫の竜車に乗せられていたのだ。
「うぃ……護衛が主と共にいるのは当然に」
そう言うとルリアナ姫は右手の甲を俺に向け、その直ぐに折れてしまいそうなか細い手を差し出してきた。
「はぁ……でも俺一人というのは?」
俺は姫様を護衛出来るような実力がある訳でも無く、寧ろリリムやプリステラ、レヴィナス達に守られている立場だ。
護衛として同乗するならあいつらの方が適任だと思う。
「この竜車もそう広くは御座いませんので」
俺の横に座っているベルマーチがそう答えた。
確かに俺の乗せられている竜車は四人乗れる程度の狭さだが……俺が言いたいのはそうでは無い。
「いや…… 俺より強い連れがいるのに何で俺なのかと……」
「ご謙遜を…… 盗賊の頭を倒したのはアリマ様ではないですか?」
「うぃ!アニマは強いに」
「あれは……偶々運が良かっただけで……」
「運も強さのうちですが、最後の攻撃の威力は運では無いでしょう」
確かに……あの一撃は俺の予想外の威力だったけど……俺はあの力を制御出来ていないし、もう一度あの攻撃を再現出来るかというと自信が無い。
それに……あれは威力があり過ぎるので封印しているのだ。
「それに……姫様がどうしてもアリマ様とご一緒したいと言われまして……」
ベルマーチは俺の耳元へ顔を寄せると小声で囁いた。
「はぁ……そうですか」
姫様のご指名と言うならば仕方ないか……。
しかし、防御力ゼロの護衛って普通無いよなぁ。守るにも壁にもならないんじゃ……。
「アニマに来てもらったのは……その……お願いがあったからに」
ルリアナ姫は視線を下に落とすと、唐突に話しを切り出した。
「お願い?」
「ルリの国では代々、魔神契約が出来る最強の者を王として来たに」
確かリリアスの創始者も魔神使いと言っていたか。
「魔神使いの王家か……」
「最強の魔神使いが女性ならば王子と契りを結び、男性ならば教女と契りを結ぶ事で王家はその力を維持しているに」
「……王が最強じゃなくても王女が最強ならば構わないのか」
「現在の王、ルリの父の代までは王家から魔神使いを輩出していたに……だけど今の王家は王子が産まれずルリ達五人姉妹のみ。しかもルリ達に魔神使いの適性はないに」
「この国に王子はいないのか……」
「そうに……ルリ達五人の教女の中から最強の魔神使いを婿として手に入れたものが次代の王女に選ばれるに」
ルリアナ姫は真剣な目で俺を見つめてくる。
「今このリリアスにいる強力な魔神使いは四人、王宮筆頭魔神使いのクラウス・リードラット、カルラ・レノマークス、カティア・セルトライデル、ルイス・カスケル。
このうちカルラとカティアは女性なので除外するとして残るはクラウスとルイスの二人だけに」
「王子がいないから女性の魔神使いは例え強くても除外されてしまうのか?」
「そういう事に……それにクラウスは第一教女のラミレス姉様が、ルイスは第二教女のリンスレット姉様が目をかけているに」
「なるほど……次の王女はラミレス姫かリンスレット姫が有力なのか」
「第三教女のレスティア姉様と第四教女のアンジェリカ姉様、そして第五教女のルリは次期王争いの蚊帳の外という事に」
うーん……この流れ嫌な感じがするんだが……。
「それで……俺と何か関係が?」
「レスティア姉様とアンジェリカ姉様は、必ずアニマを狙ってくる筈に」
「そんな……俺はそんなに強くないですよ」
「アニマは弱く無いに!魔神の子という才能もあるし、それにルリの国で勉強すればもっと強くなれるに」
ルリアナ姫は興奮を抑えきれず俺の両腕をその手でヒシッと掴み、胸元に頭を預けてきた。
ルリアナ姫の黒に近い茶色の髪の甘い香りが俺の鼻孔を刺激する。
お下げが腕に当たって少しくすぐったい。
「ルリアナ姫……」
「もっともっと強くなって……そしてルリのお婿さんになって欲しいに……」
は?
顔を真っ赤に染めたルリアナ姫は俺に抱き付いたまま、離れようとしない。
「……いやなんでそういう話に? あのベルマーチさん?」
「姫様はアリマ様を伴侶と決めたようですので」
「助けてくれた時のアニマ……恰好良かったに。それに……アニマが魔神の子と聞いてこれは運命だと思ったに」
「――俺の意思は?」
「レスティア姉様とアンジェリカ姉様にアニマが見つかる前にきせいじじつを作るに」
「な……姫様?……何を?」
「今ここで……誓いのキ ……キスをするに!」
「ええええええええええええ!?」
「あぁ…… 顔を逸らしちゃだめに!」
結局、ルリアナ姫の拘束から抜け出すのに小一時間はかかってしまった。
その後、俺達の乗る竜車は俺の心労も他所に何事も無くリリアス教国の首都リリルメリアへと到着したのだった。
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