43話 リーグリアの夜
浜焼きの後もオム焼きやシュリ焼き等を食べ歩き、十分堪能した俺達の胃袋は夕飯も入らないくらいになっていた。
ちなみにオム焼きとは、オムレツでは無くオウム貝のような水生魔物の一種を焼いたものだ。
シュリ焼きも同じく水生生物の焼き物だが、こちらは魔物では無くエビによく似た形をしているので俺の中ではエビと呼ぶ事にした。
味はエビよりは独特の臭みがあるので、匂い消しのハーブ等があれば美味しく頂けそうではあった。
この世界にハーブがあるのかどうかは分からないが……。
その後も土産物屋を見て回ったりしていたら結構な時間になっていたので、俺達は宿に戻る事にした。
「少し早いが宿に戻ろうか」
宿に着くと部屋割りで揉めるかと思っていたのだが…… 俺の部屋はちゃんと一人部屋で用意されていたので問題は無かった。
今日は、ゆっくり出来そうだな……。
俺的には、偶にくらいはプライベートな時間も欲しいのである。
他のメンツは別室に分かれているので、今は俺一人だ。
考えなきゃいけないことは色々とあるが、まずはこの国に居るという大魔呪術師魔神パチェッタに会う必要がある。
俺のこの左腕の呪いの腕輪は、そのパチェッタが作った物らしいからな。
それに封魔の光の動向にも注意しなければならない。
封魔の光の狙いが亜人排除である以上、小人族であるという魔神パチェッタが狙われている可能性があるのだ。
俺の能力である魔神の覚醒について分かっているのは、一定の魔力と神力が必要な事と魔神との濃厚な接触が必要だが、キスだけでは覚醒しなかったという事だ。
前者については既に必要量は溜まっているので、問題なのは濃厚な接触の定義が不明という事。
裸で抱きあってキスするのが確実なのだろうが…… そう何度も出来る事では無い。
レヴィナスが仲間になってからというもの二人きりになるという機会もなかったので、裸で抱き合うなんて事は出来ないのだ。
ん? そういえば俺は今フリーなんだな……。
リリムとパーラが右の部屋でプリステラとレヴィナスとアリシアが左の部屋だ。
一度も覚醒していないのがリリムとパーラなんで――。
こ……これはチャンスじゃないか?
「よし、この機会を逃すと次回は無いかもしれないしな」
俺はリリムとパーラの部屋によば……否 覚醒の為に行ってみる事にした。
特にレヴィナスには見つからないようにしなければならない。
音を立てないように静かに自分の部屋のドアを開け、誰もいない事を確認すると廊下へと体を滑らせる。
ノックをすると気付かれるので、右側のドアを静かに開けて部屋の中を確認する。
鍵はかかっていなかった。
すると、寝衣に着替え中のパーラと目が合った。
「あら…… アリマさん 夜這いですか?」
パーラは露出の高い鎧とその下のビキニのような鎧下の服を脱いでいたので、レヴィナスにも劣らない豊満な胸が目に飛び込んできてしまう。
相変わらず大きいオッパイだな……。
獣人と思えないくらい綺麗な胸なので、パーラは獣人よりは人族に近いのではないかと思われる。
それほどに綺麗な肌をしているのだ。
「あーいや リリムは?」
俺がそう聞くと――。
「着替え中の裸の女性を見て……他の女の子の事を聞くのは失礼ではないですか?」
パーラは大きな胸を片手で隠しながら、オッパイに見とれていた俺を咎めるように言った。
「ごっごめん パーラ」
俺は目を逸らすとパーラに謝罪する。
「レディの部屋にノックもしないで入ってくるなんて……アリマさんらしく無いですよ?」
パーラは寝衣を手に取り、ささっと羽織ると怒った顔を緩めて困ったような笑顔を見せてくれた。
「うん……」
「仕方ないですね…… リリムは外に出ていますよ」
パーラは羽織った寝衣を指で弄りながら備え付けのベッドに座った。
「大丈夫なのか?」
リリムが部屋にいないという事は……近くの森に行ったか? 腹を壊してトイレか?
「あの子は偏食気味な所がありますので…… 昼間の食事が体に合わなかったのでしょう」
リリムは草食な所があるからな……。
「それは悪い事をしたな……」
リリムにはあとで謝っておこう……。
「それで…… この部屋に来たという事はあの件ですか?」
パーラは真剣な顔を見せるとそう言った。
分かっているなら話は早い。
俺は例の件の話を切り出すことにした。
「そうなんだ 魔神覚醒の件。 俺には覚醒の力があるようなんだけど……成功例がプリステラだけなんだ」
「リリムとは失敗したと聞いていますが?」
「リリムの時は覚醒条件が揃っていなかったんだと思う」
「……」
パーラは俺の話を聞きながら目を瞑り、微妙な顔をしている。
「そこでお願いなんだけど 俺と――」「嫌です!」
俺がお願いしようとした瞬間、パーラに遮られ断られてしまった。
「アリマさん…… アリマさんは私の何を知っていますか?」
パーラは今まで見た事も無い真剣な表情で俺を見つめていた。
何をって…… あ…… 俺パーラの事何も知らないんだ。
「……」
俺はそれ以上何も言えなかった。
「そう言う事です…… 肌を晒してあまつさえ キ……キス……なんてありえません」
「う……ごもっともです」
確かにパーラの言う通りだ。
俺はパーラの何を知っているんだ?
「それに…… 私のユニーク能力をアリマさんにコピーされたら……運び屋としての私の立ち位置が…… ゴニョゴニョ……」
「え? 何か言った?」
最後のパーラの言葉は声が小さくて聞こえなかったが……。
これからはパーラについて、もっと教えて貰えるようにしないといけないな。
「いいえ 何でもありません」
その後、俺は1人部屋に戻ってベッドの海の中へとダイブした。
そして……結局この晩、俺が覚醒実験を行う事は叶わなかったのだ。
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