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42話 リーグリアの休日

 次の朝、俺達を乗せた魔航船はリリアス教国の玄関口となるリーグリアに到着した。


 リーグリアは船から見た感じだと、岩肌が露出した岸壁の上に2階立ての建物がひしめき合っているような感じに見える。

 そのリーグリアの西側…… 俺達が船で来た方側は、切り立った崖になっていて船着き場はその崖の下に作られた桟橋にあった。


 桟橋の脇には入国審査用の小屋があり、そこで通った者のみが入国を許可され、通らないものは船で引き返す事になるが、大抵の場合船に乗船する前に入国可能か確認するので

ここでは簡単な審査だけで通される場合が多いらしい。

 俺達の外見は人族とは見えない連中が多く審査には時間がかかりそうだった。


 先ずリリアス教国では人族と魔神以外の亜人は入国出来ないので、アリシアとレヴィナスには本来の姿を見せて入国するという手段を取る事になる。

 少し面倒だがアリシアには竜車を引いてもらい、レヴィナスは魔神の子である俺の守護魔獣という扱いで入国審査を通してもらう事にした。


 入国審査官は古龍の出現に度肝を抜かれていたが、リリアス教国のルリアナ姫を盗賊から助けた恩龍なのと俺が魔神の子であったこともあり、特例としてVIP待遇での入国を許可されたのだった。


 ベルマーチもそうだったが魔神使いの国と言う事もあり、ここリリアス教国は魔神の子に対して何か特別扱いしているように感じる。


 例えば勇者のような――。

 エリス神聖国での悪夢を思い出し、俺は身震いした。

 勇者なんて扱いは二度と御免だ。

 俺は勇者として召喚されたのに呪われ……殺されかけたんだ。


「さぁ 行きましょう」

 ルリアナ姫の従者の一人、メリナという茶髪のストレートを綺麗に切りそろえている表情の起伏の少ない人形のような綺麗な女性が俺達を先導してくれる。


「うわっ これ……登るのか?」

「この上に街がありますので……足元にお気を付け下さい」


 メリナはそう言うと石階段を登りだした。


 どうやら街に入るにはこの桟橋から崖に作られた削り出しの石階段を登らなければならないらしい。

 崖の高さは、ゆうに50メートルくらいはありそうだ。


 やっとの思いで急な石階段を上りきると、土産物屋や屋台、焼き物屋等が立ち並ぶ商店街のような雰囲気が漂っている通りが見えてきた。

 その通りを突き当たると食堂や宿泊施設がパラパラと見受けられるがほとんどが民家のようだ。


 リリアスの首都リリルメリアへ続く門は商店街の突き当りの右、街の南東側にあってリリルメリアまでは徒歩でも半日あれば行ける距離にあるらしいが、今日はこの街で一泊し船旅の疲れを癒してから明日首都のリリルメリアへ移動する事となった。


 メリナに連れられた俺達が一息付けたのは、その商店街の突き当りを左に入って間もなくだった。


「本日はこちらでお休み下さい」

 船から案内してくれたメリナは一軒の宿の前で歩みを止めると、一礼しそう言った。


 リリアスの従者に案内された宿は高級な宿では無く、リリアスでは2階建ての一般的な赤レンガ作りの建造物で西洋風の建物を彷彿させる趣のある外観をしていた。


 まだ宿泊というには疑似太陽も上がり始めたばかりの早い時間なので、俺達は宿に荷物を預けリーグリアの街に繰り出す事にした。


 さて、出発までは十分時間があるので今日はリーグリア観光を楽しむとしようか。

 観光といってもリーグリアの名物って何だろう……。


「ここって何か名物のような物ってあるのか?」

 俺が隣にいたリリムになんとなく聞いてみると――。

「えっと……」

 リリムは少し小首を傾げて考えている仕草をしていたが。

「浜焼きが名物だそうです」

 パーラが代りにその答えを提示してくれた。

「浜焼き? 断崖絶壁しかないのに浜焼きだって?」

 俺はさっき上って来た石階段の下にあった岩場だけしかない海岸を指摘する。

「せやけど、南ん街には砂浜があるようやな」

 どこからか取り出した羊皮紙を見ながらプリステラがそう言った。

 どうやらプリステラはこの辺りの地図を持っているようだ。

「ちょっと見せてくれないか?」

 俺はプリステラからマップを受け取ると内容を確認する。


 リリアス観光マップ?

 なんでプリステラがこんな地図を持っているのかは謎だが――。

 確かに島の南西には砂浜があって海水浴ならぬ湖水浴が出来るようだ。

 中心より北にあるのが首都リリルメリアか…… で南東にも街があるが大きな港街のようだ。

 俺は観光マップをプリステラに返すと、くーと腹の虫が鳴くのが聞こえたのを聞き逃さなかった。

 プリステラは少しばつの悪い顔をしていたが、声をかけるのは止めておいた。


 ……浜焼きか……そう言えば石階段を上った先の商店街にそんな店があったな。


「とりあえず……その浜焼き屋に行ってみるか」

 

「……せやな」

「ボクも行くよ」

「はまやき いくの!」

「我も同席するぞ」

「では、皆で行きますか?」


 アリシアとレヴィナスだが流石に竜のままという訳にもいかないので、リリムが用意してくれた幻影魔法「変身」により人族に見えるようにしてある。


 最初からそうすれば良かったんじゃ無いか?

とも思ったが……アリシアは気にしていないようなので、あえて言う必要は無いだろう。


 この国の亜人に対する差別は相当根深く、過去に亜人の入国を許可した事もあったようだが、奴隷扱いやら暴動、暴力事件などが後を立たなかった為、入国の禁止が厳格化されたと聞かされたので、念には念を入れた方が良い。




 海でもないのに磯の香りがする……。


「はまやきなの」


「ああ……美味そうだな」


 アリシアの口端からは涎が垂れているのだが、それ程に香ばしい匂いが食欲をそそるのだ。

 人数分の浜焼きを注文し、待つこと数分……。

 飴色に焼きあがった浜焼きが大皿に乗ってやって来た。


「これが浜焼きか」


 串に刺した魚介類を焼いてタレに付けた感じで、いつも食べている塩味とはまた別物のようだ。


「うまい!」

「うまうの!」

「流石は名物と言われる味ですね」

「こんタレが何とも言えへんな」

「うーん ボクは少しでいいよ」

「我には物足りぬな お代わりじゃ!」


 人数分用意した浜焼きは一瞬で消えてしまい、レヴィナスとアリシアはお代わりを頼んでいる……。

 竜は胃袋が違うんだろうな……。


 今後の食費について悩む所もあったが、何せ俺には錬金があるので金の心配はいらない。

 それに、エリス神聖国のエリル硬貨はリリアスでも使えるようで支払いに困ることも無かった。


 後で聞いた事だが、リリアス教国では硬貨を作っていないので他国の硬貨がそのまま使用出来るという事なのだった。





 ここまでお読み頂きありがとうございます。


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