38話 レノール温泉
食事を終え猫の爪亭の大部屋に戻ってきた俺達だったが……。
ゆっくりするならやっぱり風呂に入りたい。
一応オーナーのパーラにダメ元で聞いてみる事にした。
聖都エルスハイムでも風呂は無かったのでシャワーで済ませたからな。
「風呂ですか?」
「なんかゆっくり湯船に浸かりたいんだ」
「でしたら…… レノールには温泉がありますので皆で行きましょうか?」
「え? 温泉あるのか?」
パーラに案内されて俺達は湖畔にあるという公衆温泉に行くことになった。
「おんせん!おんせんなの!」
アリシアは温泉に入れるというので、歓喜の踊りを踊りながらはしゃいでいる。地竜の姿の時は入った事も無いんだろうな。
レノール公衆温泉は街の東西の大通りを東に抜け、シールヴェン湖の港を左に入った湖畔にひっそりと建っていた。なんか純和風な作りが気になるが……湯と書かれた大きな幟が立っていて日本の温泉街に来たような錯覚を覚える。
「ここがレノール温泉です」
大きく湯と書かれた暖簾を潜ると山奥の旅館のような作りで、受付カウンターで入場料1人銀貨5枚を払い中へと入る。
「風呂は男女別のようだな」
湯殿への入口は二つあり、男女別になっている。
「公衆浴場ですからね」
「旦那様と一緒がいいのじゃ……」
「う……ボクも……」
「いっしょなの!」
「うちもアリマはんと一緒がええです……」
レヴィナスは指をくわえてチワワのような目をしていて、リリムは服の裾を両手で握りしめて俯いている。アリシアは良く分かっていないのか無邪気にも元気一杯だ。
プリステラはというと…… 涎を垂らしているので放っておこう。
――そもそも、ここは公共の場だ。
決められたルールを守る必要があるし、きっちり男女で分けないと駄目だ。
公衆浴場だから他の客もいるだろうしな。
「お? 貸切用の家族風呂があるようじゃぞ?」
「何?」
「旦那様よ…… ここは夫婦水入らずで家族風呂に……」
「ならボクもそっちに入るよ」
「なの」
「仕方ありませんね……みんなで入りましょう」
おいおい…… パーラさん? 勝手に決めちゃっていいのか?
「と…… いう事ですアリマさん」
「何が……という事だよ」
偶には一人で湯船に浸かり、ゆっくりしたかったのだが……。
結局追加料金を払い全員で貸切用の風呂に入る事になってしまった。
「おふろなのー」
「走っちゃ駄目よアリシア」
うーん パーラとアリシアを見てると……まるで親子のようだな。
家族風呂という事だったが脱衣所も広く、湯船は岩で囲われた露天風呂になっていた。
俺はそそくさと服を脱ぐと、皆より先に湯船に入る。
「……思ったより広いな」
そこは貸切の風呂にしては大浴場と言ってもいいくらいの広さがあった。
微かな温泉の匂いが鼻孔を刺激する。やっぱり風呂はいい! 日本のように温泉を塩素消毒なんて野暮な事はしていないだろうし……魔法とはまた違う自然の恩恵に身を委ねる。
もし家を持つ事があれば真っ先に風呂を作るだろうな。
俺は旅の疲れを癒すように温泉を満喫していた。
「おんせん! なのー!」
ザブーン!
と、細い尻尾を振りながら裸のアリシアが湯船に飛び込んでくる。ボサボサだった紫の髪はお湯に濡れ少し艶が出ている。ちゃんと洗えばアリシアの髪って綺麗になるんじゃないか?
等と考えているとバスタオルで前を隠したパーラとリリム、プリステラが入って来た。
一応、人前では大事な部分を隠すという事は出来るようだな。
「アリマさん湯加減はどうですか?」
「丁度いいよ」
「ボクも入るよ」
「では失礼します」
「んー情緒があってええなぁ」
ちゃぷんと、緑色の髪と橙色の髪そして真紅の髪の3人の美少女魔神が湯船に入って来た。
「待たせたか?旦那様よ」
最後に入って来たのは……白銀色の髪を振り乱し、その豊満な肉体を惜しげもなく晒す仁王立ちのレヴィナスだった。
一瞬、大きな胸に見とれてしまったのは俺のせいじゃない。全裸で登場するレヴィナスが悪いと思う。
「遅かったけど何かあった?」
「乙女にそれを聞くとは無粋じゃの」
一応聞いてみたんだが…… 聞いちゃイケない事だったらしい。
「……すまん」
俺は皆とは離れた位置にいたのだが……レヴィナスは俺の隣に当然のように入ってくると俺の肩に頭を預けてきた。
「!」
「……あ!」
「うぅ……」
「ええ湯じゃのう」
レヴィナスはうっとりした顔を見せているが、リリム達の目が怖くて俺は生きた心地がしない……。
この空気に耐えかねたのかパーラが話を切り出した。
「レヴィナスさんはスタイルが良くて羨ましいですね」
「何を言っておる猫魔神よ お主も立派なモノを持っておるではないか?」
「パーラです」
「ふん…… 我はレヴィ―で良いぞ」
「レヴィーさん」
「あ 俺もレヴィ―って呼んでいいか?」
「勿論じゃぞ 旦那様よ」
「みんなはいいよ……おっぱいが大きくて……ボクなんて……」
リリムが胸を抑えながら消沈しているのでフォローしなければ。
「俺は胸の大きさなんて気にしないぞ」
「うん……」
「その……リリムの小さな胸だって俺は好きだから」
――貧乳はステータスだからな。
「うん……ありがとうアリマ」
「アリマはん!うちん胸はどないなん?」
俺の隣り、レヴィ―の反対側に寄り添ってきたプリステラは俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。プリステラの形の良い胸が俺の腕に当たり、なんとも気持ちが良い。
……ていうかプリステラはバスタオルを付けて無いんではないか? 感触が直に伝わってくるんだが。
「うん……プリステラのも……いいんじゃないか?」
お椀型で形も良いし俺の手には合いそうだ。
「大は小を兼ねるのじゃぞ?」
「いや……大きさとか関係ないから」
一通りみんなの事を褒めてやると、取り敢えずその場の空気は和らいだものになり、みんなの体を順番に流してやると俺の背中を誰が流すかで揉めたが、アリシアが小さい手で俺の背中を洗ってくれたので……なんとか無事に風呂を出る事が出来たのだった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。




