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4話 暗殺者

 俺の腹に鈍く輝く銀色の短剣が刺さっていた。


 数時間前……


 儀式場というには小さい森の中の祭壇。そこから南東に森を抜けた所にエリス神聖国の首都『聖都エルスハイム』があるという。


 俺は第2王女ミルラルネ、レオボルト枢機卿に案内され、森の中をパンツ一枚で歩いていた。呪いのせいで着るものが無いからだ。


 仮にも王族だろ?馬車は無いのか?と突っ込みたくなるが、極秘裏に進めていた計画だったのか徒歩での移動を強いられていた。


「……疲れた」


 歩くのが嫌いと言う訳では無いが、運動は得意では無い。


 もう2時間くらいは歩いたと思う。こっちの世界での時間感覚は分からないが、そろそろ休憩してもいいと思うんだが。


 今歩いているのは街道のように整備された道では無く、山の中の獣道のような所だ。木の根や大きな石がゴロゴロしていて歩きにくい。登山靴でも欲しい所だが、俺の足は呪いのせいで裸足だ。


 獣道を暫く歩くと、水の音が聞こえてきた。獣道は川沿いに続いているようだ。


 流石に川は歩きたくない……川石が痛いからな。


 他の信者達?は川を歩くようだが、俺は川沿いの道にもなっていない土のある場所を選んで歩いた。列から離れていくが、仕方が無い。


 しかし、ついに大きな木の根に阻まれ、先に行けなくなってしまった。川面までは20メートルくらいはありそうな崖の上。下には降りれそうもない。


「詰んだな……戻るしかないか?」


 知らない森の中で迷ってしまうのも嫌なので、戻ろうかと足を来た方に向けた瞬間、それは飛んで来た。


 羽の付いている細い棒切れのような物が俺の右頬をかすって、後ろにある太い幹に突き刺さった。


 ――矢だ。


「!!」


 狙われてる!?さらに矢が飛んで来る。

 正面か……俺は左に向けて走った。森の中だ。足が痛い。相手が弓矢ならば森の中の方が安全だ。


「くっそ……」


 今度は、なんなんだよ!?


 走る。

 ……痛い。

 必至で走る。

 ……痛い!


 なんとか川沿いの連中に合流したいが……


 誰かが追って来る音がする。足音が、一人、二人。


 俺の足はもう限界に近かった。

 足の裏は傷だらけで脛や腿にはスリ傷や引っ掻き傷が走っている。

 露出した足で藪を掻き分けているのだから、傷が増えるのは仕方がない。


 ついには、疲労で縺れた足が草に隠れた木の根に引っかかり、藪のなかに頭から突っ込んでしまった。


「いっ痛つつつっ」


 背中に衝撃が走る。でんぐり返しで突っ込んだ向こう側は背丈ほどもある大岩だった。


「ぐっぁあああ!!」


 背中を強打したが、幸いにも頭は打っていない。

 右手で土を掴み、大岩を支えに起き上がる。


「クッソ……何で俺が狙われてる?」


 そう呟いたその時、背後から其奴は現れた。


「みぃーつけた!」

 

 褐色の肌に肩下まで伸ばした艶やかな黒髪につり目がちな瞳は黒、健康的な露出の多い服はその豊かな胸の膨らみを強調させている……。


 そんな魅惑的な美少女が笑みを浮かべながら俺の目の前に立っていた。背中には弓、腰には短剣を下げている。


 やばい……こっちは丸腰だぞ。丸腰どころか……ほぼ全裸のパンツ一枚だ。


「くっ……」


「あぁ~あ~……勇者って聞いてたからもっと骨のある奴だと思ってたんだけどなぁ……本当にこの変質者が勇者なの?」


 褐色の少女がそう言うと、少女の背後からもう一人、フード姿の男が姿を現した。


 二人目の男は、褐色の少女よりは年齢は上か、フードを深めにかぶっているので顔は良く見えないが、茶褐色の外套の隙間から見える筋肉は大きな古傷を覗かせていて、歴戦の強者が見せるようなオーラを醸し出している。


「召喚直後の勇者など赤子も同然だとよ?契約(しごと)とはいえ……弱い者を狩るのは胸糞悪ぃな」


 フードの男はそう言って左手で頭を掻く素振りを見せた。


「それにしてもさぁ……逃げるだけでボロボロって……え?弱いよ!?弱過ぎる!!ねぇ……もう、可哀想だから殺してもいい?」


「なん……ころ……す……だと?」


「弱いうちに始末しろってんだからいいだろ」


 俺は満身創痍、硬直したまま一歩も動けなかった。


「……お前ら……何者だ?」

「あー取り敢えず、死んだら教えてあげてもいいよ?」


「……え?」


 次の瞬間、俺の腹に鈍く輝く銀色の短剣が刺さっていた。


「うっ……く……」


「ボクは殺し屋ライナ・レクエル、覚えておいてね?死んじゃうけど」


「……」


「出来れば強くなってから会いたかったな……ま、運が悪かったと思って諦めろや、聖教の狂信派もエグいことするぜ全く」


「ベンマック~それは秘密だぞ?」

「いいだろ、もう死んでるしよ」


 俺の体から短剣が抜かれると、腹から大量の血液が噴き出した。


「ん~誰かくる?」

「チッ……ずらかるぞ」


 離れていく二人の足音……俺の意識は闇に飲まれ、急激に体温が低下して行った。


 ライナ……レク……エル……


 最期に頭に浮かんだのは、自分を殺した者の名前だけだった。


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