36話 リリアスの姫
俺達の乗った白古龍が大きな影を落とし、盗賊達の頭上へと近づくと盗賊は慌てふためき逃げようとするが逃がすわけにはいかない。
「なんだぁ? 白竜だぁ!? 聞いてねぇぞ!」
「早く姫を確保して逃げるぞ!」
盗賊は姫を狙っているようだな……。御者は切られて地面に倒れている。従者と思われる人物も何人か倒れているようだ。
「レヴィナス、プリステラ、パーラ全員捕獲してくれ リリムは俺と回復を」
『手加減は無理じゃ』
「行きましょう」
「うちの出番やな」
「ボクは御者を見るよ」
レヴィナスの炎のブレスが盗賊を襲う。確かに手加減は出来ないようだ。
プリステラは人間離れした身のこなしで次々と盗賊を再起不能にしていく……。
……強いなプリステラ。
パーラは竜車から連れ出されようとしている姫の救助に向かい、細剣を姫を掴んでいる盗賊の脇へと一閃し、姫の確保に成功したようだ。
俺が従者に回復魔法をかけようと近づくと…… 盗賊のリーダーらしき人物が俺の前に立ち塞がった。
「忌々しい亜人共が!俺達『封魔の光』の邪魔をするか!」
「何を言っているか分からないが……姫様を攫おうとしているお前達が悪人だという事は分かるんでな」
「舐めるなよ小僧! 魔獣まで連れてきやがって! 亜人も魔物と同じだという事を知らんのか? 亜人は全て俺達が抹殺してくれるわ!」
亜人が魔物と同じだと?
「……んだと? 亜人を抹殺?」
リリムやパーラそして俺の武器を作ってくれたヴォルターさんに武器屋のヴォルクスさん。人化したアリシアにレヴィナスは例外としても……。
――みんな亜人だ。魔物なんかじゃ無い。
「人族こそ神に選ばれた者なのだよ!人族の小僧…… お前なら分かるだろう?」
俺は白い白古龍の片手剣を右手に構える。剣術は一切知らないがこの剣ならば…… 魔力を少しずつ剣に流していくと同時に神力も引き込まれるように白古龍の片手剣に吸われていく……。
白い剣は魔力と神力を纏い徐々に輝き出した。
「分からん! 亜人を殺すというなら俺の敵だ」
「なんだ? その剣は!?」
「亜人の手により作られた剣…… そしてレヴィナスが託してくれた剣! 聖剣レイボルグ!」
俺は右手に構えた聖剣レイボルグを盗賊目がけて振り下ろした。
「何が聖剣だ? そんなもの下等な亜人に…… な!うがぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」
盗賊を襲ったレイボルグの一閃は背後の山を削り、盗賊は塵一つも残さず消滅してしまった。
「な…… なんて威力だ……」
勢いで聖剣レイボルグなんて名前を付けてしまったが…… 名前負けしない威力を発揮してしまった。 これは使い所を気を付けないとオーバーキルになりそうだ……。
「ひっ ……ひぃ!! お前達!動くんじゃねぇ!! こいつが見えねえか?」
振り向くと盗賊の一味がアリシアの首筋にナイフを当てていた。
「アリシアちゃん!」
「アリシア!」
アリシアを狙うとは盗賊も運が悪いな。
「……アリシア 服はまた買ってやるから戻っていいぞ」
「分かったなの」
――すると小さなアリシアの体が一気に膨れ上がり、立派な地竜へと変貌を遂げた。
「ひひぃぃ!! 地竜だぁぁ!! 助けてくれ!」
「駄目だ アリシア踏んでいいぞ」
「グルルル……」
「ぎゃぁぁっぁぁぁぁああああ!!!」
アリシアを襲った賊はアリシアに踏まれ気絶した。
「と これで片付いたか?」
御者と従者を介抱していたリリムが戻ってきた。
「傷を負った人達はもう大丈夫だよ」
「そうか ありがとうリリム」
竜車の方からは回復した何人かの従者達が集まって姫様を心配する声が聞こえてくる。
「ルリアナ姫様!お怪我はございませんか?」
「姫様!」
「あぁ姫様!お体は痛くないですか?」
「ルリは大丈夫に」
よし、問題無さそうだな。
すると、竜車から一人の男がこちらに近づいてきた。その男はタキシードのようなキッチリとした服装で短めの髪をオールバックに整えていて如何にも執事っぽい恰好だ。
「私はリリアス教国第5教女ルリアナ姫様付の執事、ベルマーチと申します。この度は姫様を盗賊より助けて頂きありがとうございます」
……と思ったらやっぱり執事だった。
「俺はアリマ・ミノルと言います。 とにかく無事で良かったです。こちらで捕えた賊はお任せしても大丈夫ですか?」
「出来ればレノールまで運ぶのを手伝って頂けると助かります」
「分かりました」
相手は王族らしいからな……俺は失礼の無いように言葉使いに気を付けて対応する事にした。
パーラに預けていた竜車を出してもらい、地竜のアリシアを繋ぐとアリシアが悲しそうに鳴く。
「クゥーーー」
「すまんアリシア…… レノールまで乗せてくれ」
「アリシアごめんね」
「食料庫では人は運べませんので……」
俺達はアリシアに謝ると捕えた賊を次々と竜車に繋いでいった。
レヴィナスは人化して既に服を着ていた。いつの間に……。
粗方後始末を終えると、ルリアナ姫の乗る竜車から茶色の髪のおさげの少女が降りてくるのが見えた……。
あれは……ルリアナ姫か?
「姫様!外はまだ危険です」
「賊は倒したと聞いたに?」
「ですが……」
何やら話しているのが聞こえてくるのだが……。結局姫様は俺達のいる竜車まで歩いて来た。
さっきの執事も一緒だ。
ルリアナ姫は大きな茶色の目と濃い茶色の髪の左右を紐で縛っておさげにしていて、とても可愛い少女だった。12歳くらいに見えるのでまだ少女なのだろう。
そのルリアナ姫の着ている服はドレスというか姫と呼ばれるに相応しい真っ赤な洋服で、大人びた印象を醸し出している。
「ルリはリリアス教国第5教女ルリアナ姫に 礼を言うに」
姫様直々にお礼の言葉を頂いてしまった。
自分からお礼を言いたかったのか少女の姿をしていても中身はしっかりした姫様なのだと感じられる。
「偶々通りかかったら襲われていたので…… 間に合って良かったです」
「うぃ 礼をしたいのでルリの国まで付いてくるに?」
「勿論! これからリリアス教国に向かう途中だったので…… 護衛も兼ねてご一緒させて頂きますよ」
「うぃ お願いするに」
ルリアナ姫は俺の顔を下から覗き込むと嬉しそうにその可愛い顔を綻ばせた。
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