32話 白竜山の主2
――20年前に召喚されたという勇者の名前は白古龍レヴィナスが言うにはダイゴ・アリマだったらしい。
たしか勇者はベンクラウド伯爵だと聞いていたのだが――。
だとすると…… 今の名はダイゴ・アリマ・ベンクラウドか?
俺の親父の有馬大吾は10年前に飛行機事故で死んでいる。
実際死体が見つからなかったので、死ぬ直前にこの世界に召喚されていたと仮定しても時期が合わない。
それともこっちの世界と地球は時間の流れが違うのか……。
まぁ…… 確かに勇者と親父の名前は同じだが、同姓同名の赤の他人という線もある。
取りあえずは勇者の事は記憶の隅に留める事にして、俺達は白古龍レヴィナスに礼を言うとユグドラに報告に戻る事にした。
レヴィナスの寝所へ繋がる穴は坑道ごと土魔法で埋めておいたので魔物の発生も収まるだろう。
坑道の出口から一歩外へ踏み出すと…… 鉱夫と見られる男達が集まって口論になっている所だった。 鉱山受付の兄ちゃんに鉱夫達が詰め寄っていたので、俺達は急ぎ受付まで駆けつけた。
「どうしたんだ?」
「おお…… 無事に帰ってきたのか? なに組合長の指示でな 白龍の巣に穴開けちまった件で鉱山の入山規制をしたら鉱夫がな……」
俺が受付の兄ちゃんに事情を聴くと、入山規制に鉱夫達が抗議しているようだった。
「おいおい!白龍のお宝が出たんだろ? 早く取らねえと無くなっちまうぜ?」
「白龍なんて伝説だろ? 本当にいる訳ねぇだろよ」
「俺達ゃこの鉱山で食ってんだぞ! 規制されちゃ飯も食えねぇ」
「白龍様よ 本当にいるなら出てこいってんだ ああ?」
鉱夫達の抗議はヒートアップしているようだ。
「白古龍には事情を説明して謝ってきたのでもう大丈夫だ。それに…… 巣に繋がる5階層は魔物が発生していたので埋めて封鎖したおいた。それと町長と組合長に報告したいんだが?」
「それは良かった。 これで規制も解除出来そうだな」
俺が簡単に受付の兄ちゃんに伝えると…… それを聞いていた鉱夫が怒鳴り声を上げた。
「おい! 小僧! 埋めたって ふざけんじゃねぇ!! 俺達が汗水垂らして掘った坑道を埋めただと?」
俺は仕留めた魔物アントデビルの顎と岩蜘蛛の堅殻をパーラから受け取り、鉱夫達に見せつけた。
「アントデビルに岩蜘蛛 これは5階層で出た魔物だ」
「そんな低レベル魔物など俺達の敵じゃねぇぜ 小僧」
しかし、鉱夫は怯まない。腕自慢の屈強な男達だこの程度の魔物ではダメか。
「レヴィナス…… こんな事で呼びたくは無いんだが」
――この騒ぎを収拾するにはこれしか無いか?
「あぁ? 何か言ったか?」
「俺の友達を紹介しよう……」
「「「アリマ(さん)(はん)?」」」
俺は白龍の笛を吹いた。
笛の音色が白竜山に響き渡る。
ゴゴゴゴゴゴ…… という地響きと共に白竜山全体が細かく振動する。
「あん?地震か?」
揺れが収まると大きな咆哮と共に山頂付近から雲の上に巨大な影が出現し、その影からは白き鱗を陽の光に輝かせた巨大な白龍が徐々に姿を現してくる。
「うわあああ 白龍だぁ!!」
「あわわわ 白龍様がお怒りになった?」
「伝説は本当だったのか……」
鉱夫達は慌てふためき、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「これで大人しくなるだろう」
「アリマはん……」
「アリマ……安易に白古龍を呼び出すなんて」
「早すぎです」
空に現れた巨大な白古龍の姿は徐々に大きくなっていき? あれ?
その姿は巨大で?白き輝きは益々その輝きを増して行く。
その輝きは俺に向かって落ちて来るようだ。
「旦那様あぁぁぁあーーーーーー!!」
「えぇ!?」
――そして白銀に輝く翼を大きく広げ、金色の目と白銀色の髪を膝まで伸ばした裸の美少女が俺の上に舞い降りた。
「――我 参上じゃ!」
―――――
裸の美少女の頭には2対の白い角があり、お尻には白鱗の尻尾を生やしていて、パーラ程に大きな胸の膨らみを恥ずかしげもなく晒しているので目のやり所に困る。
身長は俺と同じくらいか?
「……で?」
分かってはいるが一応念のため聞いてみる。
「改めて 我の名前はレヴィナスじゃ」
「その姿はどうしたのですか?」
「そうだよ! 白古龍が何で女の子になってるんだ?」
「魔核はそん体内で成長を続ける。古龍ともなれば、知性体として人化もしはるやろ」
「そうじゃ 魔物は時と共に進化する。そこにいる猫獣人も元を辿れば猫の魔物が進化した姿じゃ」
「それより…… 旦那様ってどういう事?」
リリムがレヴィナスを睨むように見つめる。
そうだ、レヴィナスが俺を旦那様と呼んだのは何故だ?
「それは…… 古龍の婚姻の儀式が為されたからじゃ」
「「「「婚姻の儀式?」」」」
「古よりの風習で求婚者に金剛石を贈り、返事がOKならばその相手には笛を贈る事で婚約成立となる訳じゃ」
「「「えええええ?」」」
「なんだって?」
「そして その笛を吹き、「如何なる困難な場所であっても一生付いて行きます」と笛を吹いた婚約者に会いに行く事で婚姻が完了するという訳じゃ」
「……な」
「罠ですね」
「罠どすなぁ……」
「それが…… こんな大きな金剛石…… こんな大きな愛の求婚生まれて初めてじゃ」
可愛いレヴィナスの白い顔が赤く朱に染まっていく。膝まである白銀の髪を振り乱してなんとも色っぽい。
「そうだったのか……」
俺が安易に高価なダイヤをあげたのが原因だったか。
「家の物も全部竜袋に入れて引き払ってきたのじゃ」
「って事は?」
「一生付いて行くぞ 旦那様よ!」
こうして白古龍レヴィナスが俺達の仲間になったのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。




