31話 白竜山の主1
俺が土魔法で開けた穴を潜ると…… そこはドームのような作りになっていて直径にすると80メートル以上はあると思われる広大な空間だった。
その広い空間を狭く見せているのが空間の中心に横たわる巨体。白古龍であるのは間違いなかった。
白い鱗に覆われた巨大な龍その頭部から生える2対の角と長い髭。その巨体から放たれる高貴で尊大な魔力はその生物が1000年以上の長きを生きる古龍である事を物語っていた。
「白古龍……」
俺は1人、白古龍の前に歩み寄る事にする。交渉は俺の役目だ。
「アリマはん……」
「アリマさん」
「アリマ…… 1人で大丈夫か?」
「俺に…… 任せてくれ」
リリムとパーラ、プリステラの3人は俺の事を心配してくれたが、ここで怖気づくわけにはいかない。
白古龍に少しづつ近づいていくと気付かれたようで白古龍の5メートルはありそうな巨大な頭部がゆっくりと俺達のいる方へと向きを変え、金色の双眸が俺を捉えた。
『グルルル…… 世界最古の叡智たる我の寝所に侵入者とは…… 命知らずな奴よ……』
心の底に響くような低く、太い白古龍の声が俺達の脳裏に響いた。
「白古龍! 俺達は別に怪しい者じゃないんだ。ユグドラの民が間違って掘り出してしまった龍の宝オリハルコン鉱石を返しに来た!」
俺は白古龍に本当の事を分かりやすく説明する。
『ほう…… 勇気ある少年よ…… そのオリハルコン鉱石とやらは何処にある?』
俺はパーラから精錬済みのオリハルコンを受け取ると白古龍に見せるように両手に掲げた。
「これがユグドラの民が掘り起こしてしまったオリハルコン鉱石です」
『少年よ嘘を吐くな! それのどこがオリハルコン鉱石じゃ!?』
――そうこれは鉱石じゃない。
「勝手に持ち出したお詫びとして、俺がオリハルコン鉱石から精錬した純度99%のオリハルコンです」
先ずは俺が考えていた作戦その1、精錬したオリハルコンで機嫌を取るだ。
『何じゃと!? 少年よ お主は…… 錬金術師なのか?』
うまく話に乗ってくれたようだ。
「俺の名前はアリマ・ミノル! この世界に勇者として召喚された者ですが…… 最近錬金術を覚えまして」
『グルルル 面白い奴! 錬金術で価値を上げて持ってくるとは…… さらに魔神を3人も従えおって…… 気に入ったぞ少年よ 我の名はレヴィナス! 白古龍レヴィナスじゃ』
俺は白古龍レヴィナスに気に入られたようで、レヴィナスは随分と俺の事をもて成してくれた。
それに、レヴィナスが集めているオリハルコンやアダマンタイトなどの貴重な鉱石を錬金してあげたらとても喜んでいた。
「そうだ! レヴィナスは宝石が好きだと聞いたんだけど」
俺は処理に困っていたあの宝石の事を思い出した。高価過ぎて売れないという巨大なダイヤモンドだ。
『宝石は我の存在意義じゃ…… あれは良い。我の如く宝石は輝きを失わん』
よし、決めたレヴィナスに託そう。
「パーラ あのダイヤを出してくれないか?」
「……いいんですか?」
「あのダイヤもレヴィナスなら持ち主として相応しいだろう」
「分かりました」
作ろうと思えばいくらでも作れるしな。
俺はパーラに俺の錬成したダイヤを出してもらうと…… レヴィナスに渡した。
「レヴィナス 俺が錬成した最高傑作だ。 受け取ってくれるか?」
『これは!? こ…… このような大きい金剛石…… 見た事も無いぞ!?』
「高すぎて値段もつかないほど程の貴重な宝石だ」
『こんな高価な宝石を我に? 本当にいいのか?』
「もちろん」
『……では有りがたく貰っておこうぞ』
ドラゴンの表情は良く分からないが、レヴィナスの白い顔は心なしか赤みを帯びていて、とても喜んでいるようだった。
『我ばかり良い物を貰っていても悪いな…… 欲しい物があったら持っていくと良い』
「それじゃ アダマンタイトとオリハルコンの鉱石を少々……」
『良いぞ それと…… これをお主に授けよう』
レヴィナスはそういうと白い笛のような物を取り出し、俺に渡してきた。
「これは?」
『白龍の笛という…… その笛を吹けばお主が何処にいようと我は駆けつけようぞ』
「えぇ!? マジで?」
『我に会いたいときは笛を吹くと良い』
「……分かった ありがとう レヴィナス」
『……そういえばじゃ お主の名はアリマ・ミノルじゃったな』
「みんなはアリマって呼ぶからアリマでいいよ」
『ではアリマよ 過去に一度ここに来た勇者がおってな……』
「聞きました。白古龍伝説だとか」
『アリマ…… お主に良く似ておった』
「勇者が俺に?」
『――その勇者もアリマと名乗っておったのじゃ』
「え?」
なんだって? 前の勇者も同じ苗字だったのか?
ま、特に珍しい名字でもないしな。
『――たしか ダイなんとかアリマ……』
俺は白古龍の大きな金色の目を眉をひそめて見つめ返した。
「……ダイゴ・アリマ?」
『そうじゃそれ! たしかダイゴ・アリマと名乗っておったわ』
「親父……」
いやまさか…… そんな事って……。
――10年前に死んだ筈の親父が勇者だって!?
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