30話 ユグドラ鉱山
――ユグドラ鉱山。
ユグドラの街はその鉱山を中心に出来た街で、その坑道の入口は街から見て山側の切り立った山肌の下に口を開けていた。
入口の大きさは人が3人並んで入れる程度の小さな物だったが、内部は坑道が幾重にも枝分かれしていて奥が深い。
入口の前には入山料を集める小屋と採取された鉱石を計る施設が併設されていて、採取した鉱石はここで重さを計測してマージンを支払う事になっている。
払うマージンは重さで一律なので同じ重さであれば、その鉱石が金だろうが銅だろうが、例え石炭であっても払う料金は同じという事になる。
多分ここで集めた金は街の運営費になっているのだろう。
「また来てしまったな……」
「本日2回目ですね」
「ボクも来て良かったのかな?」
「今回の目的は鉱石じゃないからな」
先ずは受付を済ませてから坑道の入口へと向かう。
坑道の管理小屋に入山料を払おうとしたら、「さっき手ブラで帰ってきた兄ちゃんか?今回はサービスだ」といって無料で通してくれた。
手ブラだったのはパーラの食料庫に入れてあったからであるが、別にワザと隠していた訳では無い。
「オリハルコンが見つかった場所って分かるのか?」
「武器屋に地図を貰ってあるわ」
流石はパーラだ。坑道の中に魔物は出ないが、中は迷宮のように入り組んでいるので地図は必須と言ってもいい。
さっきは1階層にしか行っていないが、オリハルコンは5階層深くで見つかったらしい。
「――5階層か」
坑道の中は暗く、明かり等は無いのでリリムが光魔法で照らしてくれた。
さっき来た時は俺が火魔法で松明代わりにしていたのだが……あれは鉱山では御法度だとリリムに怒られてしまった。
リリムの魔法の灯りを頼りに坑道を暫く歩くと……少し開けた広い場所に出た。
基本的に坑道の通路は狭いが鉱石の採石ポイントになると広くなり部屋のようになっている。
その部屋の奥に木枠で囲われた柵の中に下へと続く階段があるのに気が付いた。
「ここか?」
さっきは1階層しか行かなかったので気が付かなかったが地下へと続く階段が奈落の底に続いているような感覚にクラクラしてしまう。
「……せやな」
「行きましょう」
「ちゃんとついてきてよ?」
リリムは灯りを担当しているので俺と並んで先頭を歩いている。
暫く武器屋ヴォルクスに貰らった地図に沿って歩いて行くと……俺達は難なく5階層へとたどり着いたのだが……。
5階層は今までの階層とは雰囲気が違った。
4階層までは灯りが無いと進めなかったのだが、5階層は壁自体が薄っすらと淡い緑色の光を放っていて灯りが無くても歩ける程だった。
「――坑道って雰囲気じゃないな」
「この辺りは魔素が濃いようですね」
「魔素の影響で坑道が迷宮化を始めているんだ……」
「ほな早う原因を見つけて封鎖せなあきまへんな」
原因か……やはりこの先に白龍がいるのだろうか。
「この先は魔物が出る可能性があるので気を付けましょう」
ここから先は気を引き締めて行こうと思って通路の突き当りまで行った所で……パーラの予感は的中した。
昆虫型の魔物が複数、横穴から現れたのだ。
「大アリ?」
「アントデビルです!」
なるほどデビルと言われるだけあって凶悪な顔つきをしている。
体長2メートルはある黒アリを大きくしたような体格をしているが、その顔は悪魔のようだ。
その頭部には鎌のように巨大な大顎と、角が2本生えている。
今の俺達の戦力はパーラ、リリム、俺の3人で、神気切れで覚醒していないプリステラは戦力外だ。
「キュアァァアアアア」
アントデビルの咆哮が坑道に響き渡る。
アントデビルは3体。先にパーラが仕掛けた。先頭のアントデビルに細剣で連続突攻撃を放つもアントデビルの強靭な顎に阻まれ攻撃が届かない。
「クッ……」
アントデビルの2対の角がパーラに迫る。
すんでの所で右に飛び、アントデビルの攻撃を躱す。
ガラ空きのアントデビルの横腹に細剣を振るも見た目より硬い足に阻まれ致命傷にならない。
「硬い!」
そこにリリムの魔法が放たれた。
「土槍!」
中級土魔法「土槍」だ。2体のアントデビルの真下の地面が円錐状に変形し、アントデビルの柔らかい腹部に突き刺さり貫通する。
「「キュイイイイイイ!!」」
アントデビルの断末魔が響き渡る。
「アリマ! 火魔法はダメだ! この場合は土か風で攻撃だ!」
「分かった」
俺も残りのアントデビルに魔法を放つ。
狙いは…… 細くなっている首の付け根だ。
「風刃!」
俺が初級風魔法「風刃」を放つと3体目のアントデビルは頭部と胸部、腹部に分断され息絶えた。
「ふぅ…… なんとか倒したね」
「みんな怪我は無いか?」
「大丈夫です」
「うちも大丈夫や」
アントデビルの魔結晶と大顎を回収し、さらに奥へ進むと…… 今度は岩蜘蛛と遭遇した。
岩蜘蛛は、体が岩で出来ているので攻撃が通らない。
風魔法も通じないので土魔法で穴を掘って水攻めにしてやったらあっけなかった。
洞窟内で水を使うと土砂崩れの恐れがあるからとリリムには怒られてしまったのだが……。
「この辺りがオリハルコンが発見された場所ですね」
「ここか? 広いな」
そこは、このユグドラ鉱山の最深部の採石所で学校の教室一部屋分くらいの広い空間になっていた。
「この部屋の奥、この辺りで発見されたようです」
奥はさらに小部屋になっていて―― 今、まさに採石中であるように小石が散乱していた。
――これは。
その小部屋の壁は緑色がさらに鮮やかに輝いていて、他の壁と比較してもその明るさは一歩抜きん出ている。
「こん魔素の濃さ…… こん先に巨大な魔核の主がおるなぁ」
「白古龍か?」
「この壁の先だね?」
「そうですね…… アリマさんお願いします」
パーラにお願いされたので俺が土魔法で壁に穴を開けていくと……。
「お? 抜けた?」
穴を開けた先には…… さらに広大な空間が口を開けていた。
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