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3話 生贄の祭壇

 中央大陸の北部に位置するエリス神聖国、聖都エルスハイムの北西に精霊の森と呼ばれる森があった。


 聖都エルスハイムより2日ほどその森の中を歩いた場所に半径20mほどの丸く伐採された場所があり、その円の中心には魔法陣が描かれていて、円の西側には赤と白に彩られた祭壇があった。


 そこでは、エリス神聖国第2王女ミルラルネの指示の下、黒と白の縦ストライプのローブの手下達が儀式の準備を着々と進めていた。


 祭壇の上の堅いテーブルの上には、ついさっき召喚されたばかりの勇者が寝かされている。

 勇者はロープで固定されており、左手には手錠のような黒い腕輪が光っている。


 そして……どうやら俺は生贄らしい。


 この世界に召喚されて早々、俺は命の危機にさらされていた。


「生贄の儀式の準備の方はいかがですか?」


「おそらく、あと半刻ほどで完了するかと……」


 祭壇のすぐ向こうから、ミルラルネとレオボルト枢機卿が話しているのが聞こえてきた。


 やばいよ……やばいよ……このままだと殺されるぅぅぅ。


「勇者様、大丈夫ですか?」


 誰の口が言う!?


「大丈夫な訳あるかよ、それにこの腕輪何なんだ?」


「その腕輪は『愚者の腕輪』といって呪いの呪具で、その効果は『防御不問』。装着者の防御力を低下させゼロにします。本来は奴隷や強力な犯罪者に使われる呪具なのですが、生贄の行使をしやすくするのに丁度良かったもので使わせていただきました。装着したものは防具の防御力が下がるのではなく、装着が出来なくなります。着ていた場合は強制的に、その……脱がされます。」


 ミルラルネは、ご丁寧にも腕輪について詳しく説明してくれたが……


 それで強制的にパンツ一丁にされたのか?なんてこった。


「マジかよ…… 取って下さいって言っても駄目なんだろうな?」


「あ…… それですね 取れませんよ?」


「なんだって?」


「余程、勇者様と相性が良かったのか……完全に勇者様の手に腕輪が定着してしまっています」


「クッ……そうかよ……」


 ま、呪いといったら解除方法とかもあるだろうし、教会とか行けば解除してくれるだろうか……


「それでは、儀式の準備が整うまでお待ちください……」


 そう言うと、ミルラルネという王女は祭壇から離れた位置にある天幕の中に消えていった。


 俺は、祭壇の上に一人でロープで縛られ、寝かされた状態のままだ。


 ……逃げなくちゃ殺される! なんとかして逃げないと……


 物語とかだと、ここで颯爽と助けにくる勇者とかいるんだけどな……

 

 あ……俺が勇者か?


 結局、何の解決策も見いだせないまま、その時間が来てしまった。

 誰か助けに来ないかな?っていう甘い考えは、甘すぎだったようだ。


 祭壇の周りには、沢山の信者達?が集まって来ていた。


 両手に銀のナイフを持った巫女服にフードを被った少女が祭壇の上に上ってくる。

 顔は隠れて良く見えないが、俺のカンが美少女だと言っている。


「それでは、儀式を開始します……」


 ミルラルネの非情な声が聞こえてくる。

 ついに生贄の儀式は開始されてしまったが、俺は動くことすら出来ない。

 俺は為す術もなくこのまま刺されて死ぬのだろう。


 享年17歳……思えば短い人生だったような気がする。

 俺はまだ高校生で社会にも出ていない。

 成績は中の下、彼女いない歴も17年、友達すらいない。

 何もやって来てないな……何もやって来てない罰でも当たったのだろうか。


 せめて彼女……欲しかったな……

 ナンパなんてした事なかったし……


 巫女服の少女が、両手で持つ銀のナイフを高々と頭上に掲げる。

 ナイフが眩しい……


 俺は、その眩しさと恐怖に顔を顰めた。


 少女の持つナイフがクルッと回転し、下を向く。



 ふと、微かに……人が走る足音が聞こえてくる。

 その音は少しずつ近づいてきて……


 見知らぬ黒白ローブの男が息を弾ませながら、駆け寄ってきた。


「おっ……お待ち下さい! はぁ… はぁ……」


「なんですか? 儀式中ですよ?」


 息を切らしながら走ってきた伝令と思しき男は、ミルラルネ姫とレオボルト枢機卿の前で息をつき、そしてゆっくりと面を上げ、報告した。


「報告します! 神気の濃度に変化あり! 若干ですが上昇しています!」


「それは真か?」


「レオボルト枢機卿よ どうですか?」

「うむ…… たしかに濃度が上がっておるな 召喚直後は変化無かったが…… 時間差でもあるのか……ブツブツ……」


「って事は?」


「儀式は……中止とします」


 やったぁぁぁぁぁ 助かったぁ……




 それから、神気の濃度変化があったという事で俺の儀式しょけいは中止となった。


 俺はロープを外され、晴れて自由の身となった。


 勘違いにより、色々あったが、勇者召喚の儀式は一応の成功に終わったと言うことになったらしい。


 蛇足になるが、生贄というのは殺す事では無く、神様の元に捧げるという古文書の意味が解析されるのはそれから数年後の事である。

名前聞かれてません。このまま名無しとういう事で……

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