25話 白竜峠のリリム奪還作戦
今回はリリム視点になります。
――白竜山。
白き龍が棲むと言われるその山は、エリス神聖国とリリアス教国を繋ぐ交易の要、街道の最大難所でその最も高い標高にある峠を白竜峠と呼んだ。
白竜峠は観光の名所としても有名であり、白い岩石で出来た垂直にそそり立つ巨大な絶壁は圧巻で、今も峠を訪れる者を魅了している。
ボク達の乗った竜車が何者かに襲撃され気を失っていたボクが気が付いたのは、白竜峠の茶屋の横に置いてある黒い檻の中だった。
「ここは……檻?」
ひんやりとした黒い金属で出来たその檻の扉には外側から鍵が掛かっていて出られないような作りになっている。
どうやらボクは何者かに捕らえられたようだった。
「そうだ!アリマ!パーラ!」
一緒にいたアリマとパーラがいない……。
無事だといいけど……。
取り敢えず、ここから脱出しよう。
そう考えて魔法を使おうとしたんだけど……。
「そんな……魔法が起動しないなんて」
魔法を使おうとすると何かに邪魔されるように魔力の流れが阻害されてしまうようだった。
暫くすると、ボクが起きたのに気が付いたのかボクを捕らえたと見られる者が近づいてきた。
驚く事に、そこに姿を見せたのは身長2メートル程もある巨大なゴブリンロードだった。
ゴブリンの上位種ホブゴブリンのさらに上、ゴブリン種の最強ランクと言われるゴブリンロードだ。
「ゴブフゥ! 出ようとしても無駄ゴブブ」
「……ゴブリン……ロード!」
「魔王様がお作りになられたその檻は魔神専用の特別製ゴブブ……力の無い小娘魔神如きに破れはしないゴブブゥ」
「クッ……何故ボクを!?」
「お前のような小娘に用は無いゴブが、魔神プリステラを誘き出す為の餌になってもらうゴブブ」
「他の……一緒にいたアリマとパーラはどうした?」
「一緒にいたゴブ?それなら目障りだったゴブから少し痛めつけといたゴブブ」
「な……んだと!?無事なんだろうな?」
「大きい猫魔神には魔神プリステラを連れてくるように言っておいたゴブブ」
「少年の方は……?」
「竜車の下敷きになっていたガキゴブか?それなら死にかけで苦しそうだったゴブから殺しておいたゴブ。おいら優しいゴブブ」
殺した!? アリマを!?
「なんだって!!ゴブリンロードォォォォ!!!!殺してやる!!くそぅうぅぅあああああ……アリマぁああああああ!!!」
――――――
――アリマが死んでしまった。
ボクの所為だ……ボクがアリマを連れて来なければ……アリマを死なせる事は無かった。
呪われて防御力の無いアリマを守れるのはボクだけだと思っていた。
ボクがアリマを守るって約束したのに……。
守れなかった。ボクは、アリマを……守れなかったんだ。
ボクはまた大事な人を無くしてしまったのか……。
「うっ……うぐっ……うわぁああああああああああ………アリマぁ……アリマあああゴメンよぉ……アリマ……ぐすっ……」
その晩、朝になるまでボクの涙が枯れる事は無かった。
――――――
朝になり、峠の茶屋の周囲が騒ついているのに気が付いて目が覚めた。とはいっても一晩中泣きはらしていたので、ボクは殆ど寝ていない。
「ゴブゥ……ちゃんと魔神プリステラを連れて来たようでご苦労だゴブブ」
「さぁ……こっちはプリステラを連れて来たんだからリリムを離しなさい!」
パーラが助けに来てくれたんだ!?
「待つゴブ……魔神プリステラと交換ゴブブ」
「分かったわ……プリステラ」
「はいなぁ!皆んアイドル!プリステラちゃんです!」
パーラの後ろから現れたのは、炎のように紅い髪の魔神プリステラだった。ツインテールに結ったしなやかな紅い髪が風にたなびくように揺れている。
まさか? あのプリステラが……ボクの為に!?
「ゴブブ、良く来たゴブ魔神プリステラ!この小娘魔神の代わりにこの檻に入れゴブブ」
ゴブリンロードが命令すると、檻の扉が開いてボクは解放されて檻から出る事が出来たけど…… 代わりにプリステラが檻の前に来てしまった。
「ここに入るんです?」
プリステラはそう言うと檻をまるで羊皮紙で出来た箱を潰すように……ペシャンコにしてしまった。
「ゴ……ゴブゥ!?」
「ゴブ……そんな……魔王様の作られた檻が……」
ゴブリンロードは、目の玉が飛び出す程に驚いている。プリステラが、ボクの魔法すら撥ねつけた檻をいとも簡単に潰してしまったのだ。
「これでは、入れまへんなぁ?」
「ゴブゥ……作戦変更ゴブブ……魔神プリステラ!ここで倒して魔王様に献上してやるゴブブゥ!!」
やばい!封印されたプリステラでは、ゴブリンロードに勝てる訳が無いよ。
「うちに手ェ出した事、後悔させたげる」
「「プリステラ!」」
ゴブリンロードの幅広の剣が横一線、寸前までプリステラの立っていた場所を薙ぐ。しかし、そこにプリステラはいない。
上だ!! プリステラの空中殺法、回転かかと落としがゴブリンロードの頭部を強打、そのまま上に飛び、背後に周り後ろ回し蹴りを放った。
「グォウウウ!!! 少しは……やる様だなゴブゥゥゥ!!!」
プリステラの攻撃は体術による攻撃だったが、ゴブリンロードには効いているようだ。
プリステラの攻撃速度、威力はボクの想像を超えて凄かった。
「しかしゴブ!! 魔王の眷属たるおいらに勝てると思って……」
プリステラの正面からの聖拳突き攻撃は隙だらけだったが、ゴブリンロードは反応出来ない。
「ゴボァアアアアアアア!!!」
「魔王にすら劣るただの部品にうちが負けるとほんまに思って?」
「グボォォォ!! な……何故ゴブフゥゥ!! 弱い存在である筈の魔神がぁぁぁ、おいらの! 魔王様の力を分けて頂いたおいら魔族にィイイイイイイイ!! 何故ェエエエエエ!!!!!」
「核がちゃうんや……」
「ゴブ!!??」
プリステラを中心に懐かしい光が辺りを照らして行く…… これは!?
「魔神術奥義!! 魔核分解!!!」
プリステラが究極呪文を発動すると、ゴブリンロードの心臓部が山のように盛り上がり、遂にはゴブリンにしては巨大すぎる暗黒色の魔核が露出し、霧のように霧散した。
「ゴガァァァアアアア!!!」
「魔素に戻ってやり直しなはれ」
プリステラがそう言うと、魔核を失ったゴブリンロードの体は、存在を否定され塵と化して消えていく。
「……目的は達したゴブ ……精々首を洗っておけゴブ……ブ……」
ゴブリンロードは意味深な言葉を残すとそのまま塵となり消えていった。
「助けにきたで リリムはん」
「無事で良かったわリリム!」
「ありがとう! ……プリステラにパーラ」
「ユグドラでアリマはんが待っとるで帰ろか?」
「アリマ!? アリマは生きてるのか!?」
「心配せんでもええ、うちが治療しておいたさかい」
「ありがとう! 本当に…… ありがとう! プリステラぁ!」
それからボク達は、アリマの待つユグドラへと竜車に乗り移動していった。
ユグドラに着いたのは、その日の夜。日が暮れてからの事だった。
いつもお読み下さりありがとうございます。
次回はついに……恋愛モード全開で濃厚な接触に話を戻します。
次回予告 アリマとリリム
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