幕間2 プリステラ・テレシア
今回はプリステラ視点になります。
鉱山の街ユグドラの南、街道筋から少し離れた場所に、燃えるような紅色の髪にウサギのような赤い目をした魔神プリステラは隠れていた。
プリステラの炎のような真紅の髪の毛は、隠れたり逃げたりするには目立ち過ぎるので、姿を隠す魔道具、幻影のマントを被っている。そのマントに隠された胸は大き過ぎる事もなく、だがしかし、しっかりとしたボリュームを携えていた。
プリステラは、常日頃からアイドルのようなひらひらの純白の服を着ている。純白の胸の薄い生地を露出させているアイドル服は、腰のところでくびれ、その胸の大きさをさらに強調していた。
――――――
きょうび、四号機がおとなしく休眠したはるとおもたら、なんで眷属がこないなトコまで出張ってくるんです?
まさか…… 四号機ん復活が迫っとるとか? 復活には、もっと時間がかかるはずなんやけど……。なんや、早すぎんような気がしまへんか? あのゴブリンロードは、魔王直属の幹部やったはずやし……
あ…… ゴブリンロードが戻って来やがりはったです。
はよう……隠れな……ん? ゴブリンロードが小脇に抱えてるのってリリムはんではおまへんです?
あちゃー……ゴブリンロードに捕まってしもたんかぁ……。リリムはん、後で助けに行くよって堪忍な。 うちの矮小な力やとゴブリンロードの相手にもならへんし……
ここは一旦、エルスハイムに引いて体制を立て直さんとあきまへんね……
うちがゴブリンロードから逃げつつ、街道沿いを隠れながら歩いとると、竜車が横転してはる所を見つけたのです。
「これは……竜車!? です?」
と言うと、竜車ん影から人影が現れたです。
「うっ……あなたは……プリステラ?」
「そう!うちは、皆んアイドル!プリステラちゃんです!」
「そないな貴方は……パーラはんです?」
「良かった……プリステラ 探す手間が省けましたわ」
パーラはんは魔神友達で猫魔神やったっけ? そうそう猫の獣人?なのです。
「どないしたのです?」
「魔王の眷属、ゴブリンロードにやられました……」
さっきの…… うちを探しいていたゴブリンロードですね?
「そら、災難どしたですねぇ」
「私はいいんですが…… アリマさんが……」
パーラはんはそない言うと、横転した竜車を心配そうな顔をしぃて見つめとる。そん視線を辿ると、竜車ん下敷きになっとる少年が見えたのです。
こら……見事に死んでますね
ゴブリンロードに襲われたんか、少年ん体は見るも無残な状態やった。
「こら……手遅れどすなぁ……です」
「プリステラ! あなたの力で!何とか少年を助けられないかしら?」
パーラはんは必死になって、うちに縋ってくる。
「うちは、魔核技工士やで 出来る事と出来ひん事もおますんです」
「この少年は、魔神の子よ?」
「なんやって!?」
魔神の子。世にも珍しい魔神核の持ち主……
うちらと同じ魔神核…… しかしかて、えらい未熟な魔神核……
見たい! こん少年の魔神核は、どないな輝きを放っておるんやろか?
「しかも、創造神から贈られたという超レア物らしいわよ?」
超レア!?
うちの魔核技工士魂が唸りを上げる。
「そん少年を運ぶんを手伝って頂戴」
「ありがとうプリステラ」
竜車の地竜は傷を負ってはいたもんの、気ぃを失っていただけやった。
運転していた御者は逃げたようでそん場にはおらへんかったので、横転した荷車を元に戻し、鉱山の街ユグドラまで、うちが操車する事になったのです。
竜車ん下から助け出した少年は、竜車ん荷車に寝かせとる。傷が見るに堪えへんちゅうさかい毛布に包んでおいやしたです。
あとは、ユグドラまで竜車で急げば7時間で着くはずです。
こん少年の魔神核は超レア物となれば、たぶんこないな事で死んやとて魔神核は生きとるハズや、そないなれば……うち、魔核技工士ん腕の見せ所ちゅうわけです。
「パーラはんは、どないしてこんな所におったんや? 店の方はええのんか?」
「リリムと、アリマ君の護衛で同行してきたのよ……」
「そう……護衛してきたですね」
「それが……こんな事になってしまうなんて」
パーラはんはそのオレンジ色の猫の瞳から涙を零しているです。
「私が付いていながら、リリムは攫われ、アリマさんは死んでしまった」
そんな顔しいや、少年もリリムちゃんもうちが助けたるって。
「大丈夫や、あの魔王すら作ってしまったうちを信用しいや」
うちが魔王に狙われてるのもそれが原因なんやけどな……
――――――
うちの作った魔核大量生産工場。そこで発生してもうた魔核工場四号機での魔核融合事故は大量生産中の魔核が、そん四号機ん体内で魔核融合を引き起こし、巨大な魔核を持つ怪物、魔王を生み出してしもうた。
そん工場で魔核を成長させるために使こうていたのが魔人の体やった。魔人は魔核の許容量がぎょうさんあり、完全な形の完成体である魔核をこしらえるんには最適やったのです。
大量生産した魔核は高額な価格で売れ、その高価な魔核により、うちは莫大な資産を生み出すことに成功したのです。
――せやけど。
そん代償が魔神に匹敵しよる魔王を生み出す事やったのです。
魔人の体をいじくりまわし作った魔核工場の部品とされとった魔王の怒りは、もちろん、うちに向けられた。そのとばっちりを受けて魔神全てを憎むようになった魔王は裏で人間を焚き付け、魔神同士を戦わせるように仕向けたのです。
そないして始まったんが魔神大戦争……
結局、魔王の思惑通りに事は進み、魔神は封印されてしもうたです。
して、こん世界で一番強い魔神達が封印された事で、魔王がその最強の地位へと上り詰めたのです。
しかして、魔王の巨大な魔核は不安定で、魔素の薄いこん世界では完全体とはなってえへんはずやし。
世界が分割されてからの魔王は魔大陸に引きこもって回復するんを待つ為に冬眠状態に入っとるはずなんやけど……。
――――――
運良くゴブリンロードに出くわす事も無く、竜車を休み無しで走らせ7時間程経った頃。
ユグドラの城門が見えてきよったです。
まずは、うちの研究所に少年を運ぶとするのです。
いつもお読み下さりありがとうございます。
本日はもう一話あります。
プリステラの設定ですが、怪しげな京都言葉を使う東京人で語尾にですを付けるという無茶な事をしてます……。